なし崩し的に決闘へ、その代わりに趣味がついてきた
「衛兵さんっ、急ぎ詰所まで応援を寄越すよう伝えてきてくださいっ」
「了解しましたっ!」
なんだなんだ、どっちもなんかすっげぇ手慣れた感じで行動してたけど、こういう事がよくあるのかな……って、もう一人のメイド、ミトリエが馬車に乗ったまま連れてかれたよ。
「ユージさん、護衛役お疲れ様です」
「ねぇイレーヌさん、あの男が魔導具持ってるみたいなんだけど、鑑定しといた方がいいかな?」
「そうですね、お願いします」
「【鑑定】……隷属付呪の魔導具、発掘品だ」
読んで字の如く、隷属の呪いを対象に付与する魔導具か、だったら女の子五人の状態異常にも納得いくな。
「隷属の呪いとは、厄介ですね。古代魔導文明の遺産の中には、こういった危険な物もあるんですけど、どれも非常に強力な効果を発揮するので、普通は発掘され次第すぐに回収されて、封印処置が施されるはずなんです」
なるほどな、過去にそういうヤバい物で事件があったから、あれだけ対処が早いのか。
「でも、この子達はもう……」
「え、状態異常なら解除出来るっしょ?」
「いいえ、先ほど申しました通り非常に強力な効果なので、残念ですけど……」
「【解呪】 【状態異常全快復】」
(んで改めて【鑑定】……)
いよっし、四人とも異常無し!
おぉ、 “状態異常 失神” と違って、気絶からはすぐに意識が戻るんだな。
大体、魔法で調べる前から変だと思ったんだよ、走り込みの最中に倒れたとか言ってたくせに、四人とも汗一つかいてねぇんだもんな。
「あれ、ここは……」
「え、なんでこんな……」
「いやっ、離してくださいっ!」
「あんた達、絶対許さないわよ!」
あらやだ、すっげぇ怒りモードだわ。
ひょっとして隷属中も意識とか精神は残ってるのか、だとしたら未遂で終わって良かったな。
「えぇっ!? 貴女達、大丈夫なのっ!?」
「「「「えっ、お嬢様っ!?」」」」
「あの、ユージさん……」
あー、イレーヌさんは何か根掘り葉掘り聞きたそうだけど、まだ終わってないからね、エルフィナ・クノックスを助けて、ライアーを捕まえないとマズいんだからね。
「おーいお嬢様、それと女の子達も、今すぐエルフィナ・クノックスって子を助けに行くぞ」
「……え、誰?」
「……そう言われても、動けない」
「なら拘束魔法解除するけど、ついでにあんた達には強化魔法かけるから、そのバカ共一緒に連れてきてくれ。やり方は、各自に任せる」
「わぉ、太っ腹ぁ!」
「手足の一本二本は、構わないですよね」
うわぁ、怒りのオーラが見える気がするなぁ。
まぁ、バカ共の自業自得だ、同情はしない。
「時間ねぇから、ほどほどにな。【強化】……よしいいぞ。お嬢様、イレーヌさん、案内するからついてきてくれ!」
オレを除いた味方全員に強化魔法かけたし、これならダッシュですぐに着く。
後ろからは野郎共の悲鳴が盛大に聞こえるけどそっちは無視、女の子達ならライアーの部屋は知ってるだろうし、大丈夫だろ。
男性寮に突入して、目指すは最上階の角部屋――
(発動待機 【解呪】 【状態異常全快復】)
「おらっ! 動くなっ!!」
「ぐぁっ! なっ、なんだお前はっ!!」
――あらかじめ魔法を準備してからドアを蹴り飛ばして突入、今にも女の子に襲いかかりそうなクソ野郎の腕をとっ捕まえて、壁に叩き付けたら制圧完了だ。
「やれやれ、間一髪セーフかな」
「ユージさん、鑑定をお願いします」
つってもさっき彼女の鑑定は済んでるし、結果は口頭で伝えるとして、必要ないだろうけど念の為に使う魔法の対象はこのクソ野郎にしとくか。
「あいよ、【鑑定】……うわひでぇな、 “状態異常 気絶 呪い 魅了 隷属 ” だとさ」
「何てことを……」
「貴様らっ、男女の秘め事に無理矢理割り込んでおいて、使えもしない鑑定魔法だの、ありもしない呪いだのとほざいて俺を侮辱するとは、無礼だぞっ!」
ふん、あのバカ共と違って簡単にボロを出さないな、それだけ手慣れてるってことか。
だったら――
(待機解除 【解呪】っと)
――これで呪いは無くなった。
「なぁクソ野郎、男女の秘め事って言うならお互い仲はいいはずだよな、彼女を起こしてやるから正しいかどうか本人から聞かせてくれよ」
「いいだろう、その方がすぐに判るからな」
クックック、まんまと引っ掛かりやがった。
古代の魔導具使ってかけた呪いだから、解呪は出来ないなんて思い込んでるんだし、その反応は当然なんだろうけど、残念だったなぁ。
「(待機解除) 【状態異常全快復】」
「はっ!ここは……きゃあっ!」
あ、ごめん……バッチリ見えちまったよ、下着姿。
「な、なんだと……あの呪いが……」
「あっ、ライアー! この下衆男っ!!」
「おやおやぁ、二人は仲がいいはずじゃなかったのかな、嘘つきクソ野郎さんよぉ」
「誰がこんな奴と……って、お嬢様にイレーヌさんっ!?」
「エルフィナさん、無事で良かった……」
「報告を受けてすぐこちらに向かったのですけど、今回はユージさんのおかけで本当に、色々と助かりました」
おっ、外の女の子達も来たか、ってあーあ、ほどほどにって釘刺しといたけど、それ差し引いても男共はボコボコだな。
「くっ、貴様らぁ……許さんぞっ!」
んっ、なんか顔にペチッと当たったけど……あぁこれ、手袋か。
「今ここでっ! 決闘を申し込むっ!」
「ふーん、そうやってこの事件をうやむやにする気か。いいぜ、オレ一人で受けて立つ」
「紋繰騎戦で、教官であるこの俺に勝てるつもりか、馬鹿めが」
「なっ! 自分が有利になるからって紋繰騎戦だなんて、この卑怯者っ!」
「いやいいさ、どうせ後で紋繰騎を見せてもらう予定だったんだ。そうだ、丁度いいからそこのバカ男共四人も合わせて、お前ら全員まとめてかかってこい、その方が楽だ」
「でっでも、ユージさんは紋繰騎なんて……」
うん、確かにオレは紋繰騎なんて持ってないし、今まで乗ったことだってない。
「オレは、この紋装殻と適当な武器だけで戦う、それで手加減は十分だろ」
でもこれは殺し合いじゃないし、むしろこいつら殺っちまったら罪を償わせることが出来ねぇ。
「貴様ぁっ! どこまでも侮辱しおってっ! 訓練場で震えて待っていろ、すぐ後悔させてやるっ!」
「むしろお前ら全員、今さら逃げるなよー。もう衛兵さん達は動いてるんだ、あの人達に迷惑かけるなよなー」
おーよしよし、いい感じで全員殺る気満々になったな、これで逃亡阻止は成功したはずだ。
あいつらはこの決闘で、オレさえ殺っちまえば後は魔導具使って何とでも出来る、なんて考えてるんだろうけど、そうはいかないぜ。
けどまぁ、紋繰騎が動いて戦ってるとこが特等席で見られる礼だ、せめて五体満足で衛兵さん達に引き渡してやる。
「それはさておき、あいつらと戦う武器、どうすっかなぁ」
紋装殻付属の武器だと殺傷力高過ぎるし、それだけが困りもんだ。