コアの中の彼女
「しかしユージ殿、これは何らかの魔法を使う為の言葉では……」
「いや違うよ、こいつが今喋ってるのは日本語っていう、オレが住んでた国の言語なんだ」
「なんですとっ!?」
「では、まさか……」
「うん、古代魔導文明に居た皇帝って異世界人だったらしいし、オレと同郷の可能性はゼロじゃないよ」
まぁそうは言っても、違う世界で長い年月隔てた後で出身が一致するなんて、それこそ奇跡そのものみたいな確率なんだろうけどな。
「ごめん、ハウザーさん、イレーヌさん、ちょっとこいつと話し合いさせてくれないかな?」
「……承知致しました」
「ありがと。その代わりこのまま同席して、何か様子が変だと思ったら、好きに介入していいよ」
「ユージさんでさえあれほど苦労される相手に、私達で何が出来るかは分かりませんけど、今度こそは必ずお助けしてみせます」
「さっきのは油断してたのと、アリス達の安全が最優先だったから少し手間どったけど、もし次があったらすぐに躊躇いなく消し飛ばすよ」
……んー、今のはわざとはっきりぶっ壊す宣言してやったんだけど、それに何も反応しないってのは、一体どういうつもりなんだろ。
それに、さっきはあんだけ傲慢な感じだったのに喋り方が丸っきり違うし、何よりダイレクトリンクっていう接触しての意志疎通をしてないのに、勝手に喋ってるのも謎だ。
つってもまぁ、イレーヌさんの言葉を借りるけど今度こそは、何かあったら欠片一つ残さずにこの世から消し去ってやるけどな。
[それで、あんたは一体誰っつーか、誰に造られたんだ?]
[私はコルド帝国の最後の皇帝、ミア・ネフラシク = フィルベルト・コルド……そして日本人だった頃の名前は、姫屋河 藍華よ。ついでに言うと、私はプログラムや人工知能じゃなくて、魔法でコアに魂を移された人間なの]
[魔法で魂を……なら、あんたの身体は……]
[内部クロックの経過時間からして、もう塵一つ残っていないでしょうね]
[マジか……]
くっそ、古代魔導文明ってのはとことんイカれてたんだな、まさか人間の魂を魔導具に移してるなんて、これっぽっちも思ってなかった。
これじゃ下手にぶっ壊すなんて、出来ねぇよ。
[せめて貴方の名前だけでも、教えてくれないかしら]
[オレは日向 勇司、あんたの読み通り日本人だ]
[こっちの世界で日本語が話せる人なんだから、出身を疑ったりはしないわ。ただ少し、残念に思うだけよ]
[残念って、何が?]
[貴方は、私がどんなにお願いしても殺してはくれない……そうでしょう?]
だよなぁ、お互い平和な国の出身なんだし、こういう場合に望む事もそれに対する答えも、お見通しってやつだ。
[つかなんで魂移されて、今はこうして死にたいのか、何一つ分からねぇんだけどよ、皇帝ってのは永遠の命とか不老不死とか、そういうのに縋るもんじゃねぇのか?]
[他の権力者がどうかはさておき、私はそんなくだらない事の為に、エンペリオンやセンチネリオンを造ろうとしたわけじゃないわ]
[待て待てっ、エンペリオンはともかくそのセンチネリオンってのはなんだよ?]
[センチネリオンは、エンペリオンを守護する近衛役を司る、六機の人型ロボットよ]
[皇帝専用機と近衛専用機で全七体って、またとんでもない戦力造ったもんだ]
なるほどな、一機は完全ワンオフで残りの六機は量産型、それでアルフェが送ってきたあのイメージから読み取れた、バリエーションの違いが判ったぜ。
[造らせようって計画は立てたけど、戦うつもりなんて無かった……まして、友達だった大勢の竜族や巨人族の人達を犠牲にして造るつもりなんて……]
[全ての魔王に使われた素材の事、知ってるのか]
[魔王……そうよね、とても優しかった人達にあんな酷い事をして、最後は世界を、私なりに精一杯出来る事を頑張って良くしたはずの、文明を滅ぼしたんだもの、そう呼ばれて当然だわ……私にはきっと、魔王を造りだした悪の帝国の皇帝にして残虐非道な大魔王、そんな役所がお似合いね]
やべぇ、オレが下手な事言っちまったせいで、恐ろしくネガティブ思考になってるよ。
[機械の身体って、実際にそうなってみると凄く不便ね、こんなに悲しいのに泣いたり当たり散らしたりなんて、何も出来ないもの。せめてコアに自爆機能くらいは備えておくべきだったわ]
[おい止めろよ、こんなとこで自爆とかヤバ過ぎだろうが]
[もう既に、貴方達にはこれだけ迷惑をかけているのに、これ以上何かするつもりはないわ。でもごめんなさい、さっきはあいつのせいで酷い目に遭わせてしまったけれど、私が知っている言語は日本語と帝国公用語だけなの、だから女の子達と使用人さん達には、貴方が代わりに謝っておいてくれないかしら]
[そりゃ構わねぇけど、あんたこれからどうするつもりなんだ?]
[貴方はもう、このコアにマスター登録されてしまったから本体を譲って成仏したいけれど、同じ日本人の立場としては殺人なんてさせられないし、貴方が生きている内は貴方の下僕、そして貴方が死ぬ前に解放してもらえなければ、貴方の子孫かコアとキーを譲った誰かの下僕、未来永劫その役割は変わらないわ]
なんつーか、爺さんから聞いたお伽噺での皇帝のイメージと全然違ってて、いっそ一思いに殺っちまうとか、でなきゃ朽ち果てるまで永遠に封印するとか、そういう目に遭わせるのが嫌になったなぁ。
って待てよ――
[なぁ今、オレがマスター登録されたって言ってたけど、それ解除する方法は?]
[無いわよ、コアの記憶容量がどれだけ膨大か知らないでしょうけれど、エンペリオンは帝国の象徴として長く在る為に造られた機体だから、本当なら歴代皇帝のマスター登録をずっと保存していく役割も担うはずだったの]
[メモリアル的な機能まで完備してるのかよ]
[そうよ。そして逆説的に言うと、貴方は私の後を継ぐ新たな皇帝って立場にもなり得るわ]
[棚ぼた感覚で面倒な立場譲ろうとすんな]
――やっぱ厄介な話になってきちまったかぁ。
新たな皇帝云々はブラックジョークとしても、エンペリオンコアはラクスター侯爵家の持ち物なのに、キーを挿して起動させたら、いつの間にか所有者がオレになっちまってたとか、どうすりゃいいんだろ。




