エンペリオンコア 後編
「うぐっ! ……て、めぇ……」
くそっくそっくそっ!
オレしか相手にしてなさそうだったからって、アリスとルーナにまで魔法使われるなんてこれっぽっちも思ってなかったっ!
とりあえず神体能力向上っ!!
つかなんなんだよこの二人の馬鹿力、アリス達ってこんなに力強くなかったはずだろ!?
なのに、ルーナに組み付かれてる左腕と腰も、アリスに両手で締め上げられてる首も、恐ろしいくらい圧迫されて変形してる感触が気持ち悪い!
これでもし普通の人間と同じ身体なら、今頃骨とか内臓にヤバいダメージ入ってるだろ!
「ほう、汝はなかなか強い身体をしているようだな、これは面白い。ではもっと力を加えてやれ」
「「……はい」」
「くっ……!」
この野郎っ、他人を奴隷扱いしてやりたい放題しやがってっ!
二人を助けたら絶対ぶっ壊すっ!
(【鑑定】っ……アリスティア・ラクスター、レウルーナ!)
くそったれな古代の魔導具が相手だから、状態異常以外にも呪いが付与されてるかと思って調べたけど、そっちは大丈夫らしいな。
なら後は――
「一体何事ですか!?」
(ダメだイレーヌさんっ! 入ってくるなっ!)
「む……【強縛】」
「ぅあっ!?」
「ふん、我の邪魔をするでない、わ……」
――ちくしょうっ!
ってなんだこいつ、今までなんともなかったのに、急にアバターの表示が薄くなった?
「ぬぅ……我の手を煩わせおって……」
そうか、魔力切れ起こしそうなんだな。
精神魔法の重ね掛け三人分と、イレーヌさんに使った拘束系の魔法、それにアバター用の幻視魔法と本体が使う分、これだけバカスカ魔力食ってたらいくら古代の魔導具でもそうなるか。
っつってもこれ以上、魔力切れ狙いで耐えるつもりはねぇ。
さぁ覚悟しやがれ、まずは状態異常を治して――
「……んぅ」
「……う」
(なにっ!?)
――アリス達の腕が、血塗れになった?
この馬鹿力ってまさか、身体のリミッター無視で強制的に全力出させられてるからかっ!
(ってなんで泣いてるんだよ、アリス!?)
おかしい、ルーナは傷付いてる今も無表情なのに、どうしてアリスだけ……あぁそうか。
二人の違いは体内にある無属性魔力の量だ、ルーナは生まれつき少ないせいで意識が無いけど、アリスは普通に魔法が使えるくらいあるから、中途半端に抵抗出来ちまったんだ。
オレが油断して失敗したせいで、この事だって全部覚えてるんだよな。
ごめん、ごめんなアリス。
「ふん、小虫が手間を取らせたがそろそろ汝も限界であろう、じっくり調べた後で我が手駒として有効に使ってやるから安心しろ」
今このクソ魔導具から助けてやる!
(範囲指定は念の為に研究所全域で、【状態異常全回復】っ!)
「なっ!? ……バ、カな……」
「……うっ」
「あぅっ! ……うぅぅ~っ! ご……ごっ、ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! ユージさんっ!」
くっそ、ホント胸くそわりぃっ!
「おいっ、落ち着けっ! 【全体治癒】っ!」
「お嬢様っ! ユージさんっ! ご無事ですかっ!」
「油断してごめんっ、イレーヌさんっ!」
「そんな事よりユージさんの首が!」
「う、うぅっ! ……手が、手が離れな……」
んなのどうでもいいっ、オレなんてこれだけやられても死にゃしなかったんだっ、お前の方がよっぽど辛いんだろうがっ!
「アリスっ!」
「あっ……」
空いた右腕で強引に抱き寄せたアリスの身体が、めちゃくちゃに震えてるのがよく分かる。
こんなに華奢なのに、人の持ってる力を肉体の耐えられる限界以上まで引き出されて、無理やり従わされてたんだ、怖かったよな。
「ごめ……」
「お前は何も悪くねぇ、オレの方こそ悪かった」
「そんなっ! わた……わぷっ」
頼むから、落ち着いて腕がまともに動かせるようになるまで静かにしててくれ、でなきゃ怒りと罪悪感でオレがどうにかなりそうなんだよ。
(【魔法消去】)
これでイレーヌさんに使われた拘束系魔法は解けたな、身体に悪影響がなければいいんだけど。
「イレーヌさん、体調とか問題ないなら悪いけど、先にルーナの様子を見てやってほしい」
「し、承知致しました……お助け出来ず申し訳ございません、お嬢様、ユージさん」
「いや、捕まっちまったイレーヌさんにこれ言うのはなんだけど、奴が魔力の無駄遣いしてくれたおかげで、オレ達はこれ以上酷い目に遭わされずに済んだんだ、助かったよ」
「分かりました……」
それにしても、これだけアレコレやってるのに、クソ魔導具がずっと黙り続けてるのは、変だな。
「この魔導具は、どうしますか?」
ホントは、アリスとかラクスター侯爵の許しが必要なんだろうけど、こんなヤバい代物いつまでもそのまま置いとけねぇ。
でも下手に触ってまた動き出したら面倒だし、もうこの場でさっさとぶっ壊すしかないな。
「とりあえず、一度オレ以外のみんなには外に出てもらってから、二度と動かないように壊すよ。んで悪いけど、もしかしたらこの部屋にも余波で被害が出るかもしれないから、その時は遠慮なく修理代は請求してね」
「いいえ、ユージ殿が金銭的な心配をする必要はございません」
「ハウザーさん、いつの間に……」
「危険な古代の魔導具には、封印や破壊といった処置がなされますが、それとて無料というわけには参りませんし、むしろその代金の方が部屋の修繕費用より高くつく場合すらありえます。危険性を把握出来た上に被害を最小限に抑えて頂き、しかも対象の破壊すらお任せしてしまうのですから、どうぞお気になさらず」
あぁもう、オレの話ぶった切ってそこまで言うって事は、交渉の余地すらねぇのか。
なら、また後から何か別の方法で恩返しっつーか、油断して招いた失敗の罪滅ぼしでも――
[……貴方、もしかして日本人なの?]
「なっ!?」
「また動き出したですとっ!?」
「ちょっと待って二人ともっ!」
[さっきのあいつは貴方が消滅させたから、心配しなくていいわよ]
――おい待て、なんで古代の魔導具が流暢な日本語喋ってるんだよ!?




