魔導生物とアリスティアの能力、その謎
「はー、やっと帰ってきましたね」
「本当にお疲れ様でした、お嬢様」
魔導生物技術研究所っていう大げさな名前の建物、その正面玄関口を開けようとしてるアリスがそうぼやくのも仕方ねぇか。
本人達は、どれくらいでインガルでの用事が済むか多少は想定してただろうけど、それを遥かに上回ると思える密度の出来事だったからなぁ。
「それじゃあ、結界を解除しますね」
あぁ、何でアリスが自分でドア開けようとしてるのか気になってたけど、もしかしてその結界って本人しか解除出来ないような、認証みたいな仕組みがあるのか?
ま、とにかく建物に入れば安心でき――
「待てっ、開けるなっ! アリスはドアから離れろっ!」
「えぇっ!?」
「何事ですか!?」
「なんで、なんで中に魔物がいるんだ!?」
「なっ!」
――結界とやらを解除した途端、突然探索魔法に魔物を示す茶色の反応が出るなんて、予想外過ぎだろ!
「数は複数、その内の反応二つはこのドアのすぐ向こうだ」
「む……ではまず私が突入致しますので、ユージ殿はお嬢様をお守りください」
「ねぇ、その前にちょっと聞いてもいいかな?」
「なんでしょう?」
「ここで研究してる魔導生物って、魔物とかも含まれてるの?」
そうか、魔導生物って名前だけどオレとルーナはまだ詳しく知らないし、もしかしたら魔物がベースだったりするかもしれないのか。
「いいえ、魔導生物に魔物は含まれません。ユージさん、ドアの向こうの反応って、具体的にはどこにあるんですか?」
「玄関ホールの左右の壁際に一つずつだ」
「えっ、それってもしかして……」
「何か心当たりあるのか?」
「はい、その位置にはリビングアーマーを二体、配置しているんです」
魔導生物が魔物由来じゃないのはともかくとして、リビングアーマーってあっちの世界じゃモンスター扱いされる奴だぞ――
「じゃあちょっと待て、もう一度調べてみる」
(【探索】……に上乗せして【鑑定】……マジかよ)
――ホントにリビングアーマーって結果が出た。
「どうですか?」
「ふぅ……アリスの言う通りだった、みんな騒がせてごめん」
「そっかぁ、いきなり魔物って聞いて驚いたよ」
それ言ったらオレだって、探索魔法だと魔導生物が魔物と同じ反応示すって結果になって、ビックリだ。
「こちらこそごめんなさい、ユージさん、ルーナさん」
「いや、多分だけど今まではどんな反応示すか調べてなかったんだろ。オレも魔導生物を探索魔法で捉えるなんて初めてだし、知らないもん同士で気にしても仕方ねぇさ」
「あー、もしここにフィナさんが居れば、魔導レーダーユニットでも同じ反応か、すぐ調べられたんだけどなー」
「オレ個人としちゃ一人で騒いで空回ってた分、そうなってたら赤っ恥もいいとこだけどな」
「いいえ、ユージ殿は護衛の役割を担っております、その警戒心は誉められて当然ですし、決して恥などではありません。冒険者の油断はそれ即ち死ですから、どうぞお気になさらず」
あぁそうか、元ベテラン冒険者のハウザーさんは、そういう誰かが油断した場面も知ってるよな。
「そう言ってもらえると助かるよ、ありがとね」
「それにしても本当に、魔導生物ってどんなものかすっごく気になるね」
「だなぁ、さっき言ってたリビングアーマーだって、生物ってんなら動くんだろうし、色々と見てみたいぜ」
「ふふふっ、ユージさんもルーナさんも興味津々みたいですし、そろそろ中に入りましょう」
確かにアリスが言う通りだけど、興味あるっていやもう一つあるんだよな。
「ところでアリス、この建物に使われてる結界の効果って、どんなもんなんだ?」
「そうですね、内と外を遮断する障壁としての規模と強度は、結構大きくて強い方に分類されます」
「って事は、こういう結界ってあちこちに普及してるのか。だったらこれからは、探索魔法使ってる間も油断は禁物だな」
へぇ、研究所って名前からして物々しい雰囲気かと思ってたけど、中は普通のってかちょっとした豪邸みたいなんだな。
ナーキスの代官屋敷も広かったけど、玄関ホールだけでもあっちに負けないくらい広いし、何より派手って言うほどじゃないけど、十分豪華な内装だ。
んであれが、リビングアーマーか。
文字通りに見た目通りの鎧だけど、あの全身分厚い鉄板らしい造りからして、人間が着て動くなんて使い方は想定されてねぇな。
そうなるとまず魔導生物って分類が不思議だけど、ホントにあんなのが動くのかも疑問だ。
「そういえばユージ君、馬車に乗ってる時は建物には誰も居ないって言ってたけど、結界で遮られてたから中の様子が判らなかったんだね」
「そうなんだよな、けど今は普通に結果が表示されてるし、ここの結界って相当優秀だろ」
「そ、そうですか?」
「そうだと思うぜ」
なにせ、全力じゃないっつってもこの身体で使ってる魔法を遮ったんだ、それだけですげぇよ。
「でも私、魔法の強さは特に凄くないですよ」
「だったらあれだよ、魔法の強さに直接は結び付かないけど、別な何かが凄いんだろうね」
「あぁ、表面だけじゃ読み取れない何かって奴か、それなら納得だな」
「だとすると、あのリビングアーマーもだけど、魔導生物をアリスさんが造ったんなら、魔物の反応になっちゃうくらい凄い性能なんだよ、きっと!」
うーん、まだ証明出来ない仮説だけど、ルーナの言葉がホントなら今ここにある反応全部が、何かしら高い性能持ってるって事か。
「なぁ、アリスがここで研究してる魔導生物って、どんな物があるんだ?」
「えぇと……スライムに……」
「スライム!? えっ、スライムって魔獣とか魔物じゃないのか!?」
「はい、たまに遺跡で見つかったという報告もありますけど、間違いなく魔導生物ですよ」
「マジかぁ……あ、話の腰折って悪い、とりあえず続けてくれ」
あの、あっちの世界じゃ国民的人気を誇るゲームのマスコットが、まさかの魔導生物かよ……。
「……はい。スライム、シャドウパペット、サンダーラット、リビングアーマー、ストーンゴーレム、パラライズ・アクティブトラップ……これまで創造したのは六種類です」
「ん? 今何か、変なのが混じってなかったかな?」
「うん、オレもそう思ったけど最後の奴はトラップ、つまり罠だろ。流石にそれを生物扱いするのは、どうなんだ?」
「いいえ、この罠は指定された範囲内で活動して、相手を見つけると簡単にですけど敵か味方かを見分けて、敵が指定範囲を出るか捕縛するまで追跡する能力を付与してます。リビングアーマーや他の幾つかの種類と同じで、屋内向けに創造した警備用の魔導生物ですよ」
「なにそれすご過ぎでしょ!?」
やべぇ、アリスの話聞いてるとだんだん、オレの中での生物って分類が狂ってきそうだ。
アリスの能力といい魔導生物といい、謎が多過ぎだろ。
でもまぁ、とりあえず建物内は安全らしいし、先に例の魔導具を調査してから、魔導生物について詳しく聞くか。




