魔導レーダーユニット 前編
「まぁでも、探索魔法がちゃんと発動して結果もきちんと見られるようになったし、魔力消費の問題は後回しに……」
「ちょっと待った、まだ調べる事があるから、もう少し続けよう」
「まだ調べるって、何を?」
初めて見る魔導具だからか、トリィがやけに食い付くな。
「君は探索魔法を使えるんだ、なら魔法と魔導具でどこがどう違うかを調べて、それを反映させればいいんじゃないかな」
「うん、トリアーボさんの言う通りだよ。それにさっきだって、ユージ君が探索魔法を知ってたおかげで簡単に問題が解決出来たんだし、もうちょっと調べてみようよ」
「分かったよ、オレだってこの魔導具に期待してるからな、続けてみよう」
「そうこなくっちゃ! それにしても、この幻視魔法の使い方は画期的だ! 今までは使い手しか結果を知る事が出来なかったのに、それを誰でも見られるようにするなんて、本当に素晴らしいな!」
「そうでしょうっ! これ、ユージ君に切欠を教えてもらったんですっ!」
あちゃ、調査続行って決まった途端に二人とも、テンション爆上げになっちまった。
「そうかっ、やっぱりユージは凄いんだなぁ! あぁ、これなら鑑定魔法もきっと魔導具に……」
「あ、そういやトリィにはまだ言ってなかったっけか、鑑定の魔導具ならもうルーナが完成させてるぜ」
「えぇっ!?」
「ルーナ、せっかくだから見せてやってくれ」
「うん、探索の魔導具の問題を調べるのにも使おうと思ってたし、いいよ。【鑑定】」
ははっ、開いた口が塞がらないってのは、今のトリィにゃピッタリの表情だ。
にしてもだ、魔力切れで探索の魔導具が止まってるのは変わらないけど、鑑定結果だとそれ以外は特に問題ないのが、逆に問題だな。
どこかに異常があるならそこを直せばいいけど、きちんと完成してるからこそ指摘出来そうな問題がないし、そのせいで削れるとこや改良出来るとこも無いから、魔力消費が抑えられない。
こりゃあ、堂々巡りになりそうだ。
「……ユージ、それにレウルーナ殿、鑑定の魔導具はもう協会に登録したのかい? もしそれが済んでいたら、君達の言い値で買いたいんだ、どうかな?」
おっ、やたらはしゃいでたのに突然真剣な顔してるけど、何かあるのか?
「いいえ、この魔導具はインガルに居た時に完成した物なので、まだ協会には持ち込んでいません」
「なぁ二人とも、その協会ってのはなんだ?」
「正式には魔導具開発普及協会といってね、その名の通り魔導具の開発と普及を目的とした組織なんだ。しかしそうか、まだ未登録か……」
「おいおい、真剣になったと思ったら今度は急に落ち込んで、一体どうしたんだよトリィ」
「ユージには、この魔導具が広く一般的に使われるようになったらどれほど便利になるかを、もっと理解してほしい」
そう切り出してそのまま、魔法式レーダーの改良そっちのけで、トリィは語りだした。
なんでも、オレが思ってる以上に鑑定魔法使いは少ないらしくって、居ても居なくても色々と問題があるそうだ。
まず、鑑定魔法使いは雇用費や魔法一回の使用料が、かなり高い。
質 の悪い奴だと、魔法使うだけで一回、結果を教えるのにもう一回、なんて金を取るらしい。
それでも色んな分野とか組織に個人と、鑑定魔法が必要な場面は山ほどあるから、需要と供給のバランスが全然取れなくてその価値は上がる一方、使い手の横暴はなかなか減らないんだとか。
実際に代官補佐をしてるトリィも何度か、そういう嫌な場面に立ち会った事もあるって言うんだ、なら鑑定の魔導具が協会に登録されて普及すれば、そういう問題が相当改善されるんだろうな。
元の世界の現代だと、科学とか技術の力で色んな調査とか検査が出来て、物の品質が保証されたり国に企業や組織とか個人まで信用や信頼性も色々だったし、そのおかげでまた科学技術が伸びるって効果もあったから、そういう土台が無かったり未熟だった時代でのオレが知らない苦労を、今この世界で味わってるような感覚だ。
「そっかぁ、ボクはただ 造師 としてあったら便利だなぁって思って造っただけですけど、色んな人達の助けになるんですね」
「今までは人材の代えがほとんど無く、たまに居たとしても雇い続けるのは費用が、ね」
代え、か……あっ、いい事思い付いたっ!
「ちょっと待った! 話戻して悪いけどさ、探索の魔導具に使う魔石、魔力が尽きたら勝手に交換されるとか切り替わるって方法なら、改良出来ないか?」
そうだよ、魔力が尽きたら代えの魔石を自動で交換するなり、別な魔力路で繋いでおいて切り替えれば、効果時間は確実に伸びるじゃないか!
「それは多分出来るだろうけど、それでも一度探索した範囲を抜けるとこまでは保たないし、交換する瞬間はどうしても止めなくちゃ駄目で幻視魔法も止まるから、有効とは言いづらいね」
「なら、魔力消費を抑える為に範囲を狭くすれば……」
「ユージは何とかしてこれを 紋繰騎 に載せたいんだろうけど、探索範囲を狭めると騎体の視覚に頼る方が良いなんて言われかねないから、それは止めておこう」
んー、なんか上手い解決法って他に――
「でもさ、魔力が尽きたら勝手に交換されたり切り替わったりって、面白い発想だよね」
「そうだね。あぁそれならいっそ探索の魔導具を二つ積んで、交互に使うのはどうかな?」
「そうすると騎体の頭の中に収まらなくなりますから、場所を移して魔力路が長くなる分、耐久性が落ちるんですよ。でも予備を積むっていう意味なら、いい考えですね」
「そうなのか……うーむ、こういう時に協会の魔導具開発記録簿をすぐ調べられれば……」
「魔法と魔導具の違い……二つを交互に……頭の中……記録……あぁーっ!思い付いたっ!」
――そうだっ、そうだよこの方法だっ!
「なになにっ!?」
「急にどうしたっ!!」
「ルーナっ、魔晶って実行式しか記録出来ないのかっ?」
「えっ!? ……うーん、あれは実行式を読めるようにしてるだけで、より具体的には使い手が覚えてる魔法で使う、特定の順序で羅列された魔号を記録した、いわば発動前の魔法の結果だから……ってまさかっ!」
おっ、気付いたなっ。
「頼むからユージ、今度は焦らすなんてしないでくれよっ」
「おぅ、もちろんだ! いいか、二人とも……」




