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楽しい趣味を目の前にして、巻き込まれでおあずけ

「おぉ、ここが士導院ってとこか!」


「ああ、そうだ。兄さんみたいな若い男が、みんな一度は憧れる場所だぞ」


「だよな、だよなっ!」


「はははっ、浮かれて馬車から落ちるなよ」


 今、ハウザーさんを除くオレ達四人は、かなり広い敷地の中に建つ砦風な建物に向かって、同じ御者席の隣に座ってる衛兵さんが操る馬車に揺られてる。


 あれからすぐ出発して、ちょっと早足で移動した(させた)結果、まだ明るい内に王家直轄領にあるインガルって中堅都市に着いたからだ。



 けど、けどな。



 11匹の鎧賊が引く即席人力車がかなり目立って、街に入るだいぶ前で驚いて駆け付けてきた衛兵さん達に止められたことも。


 お嬢様がアリスティア・ラクスターって名前で、その身分が次期ラクスター侯爵家当主なのも。


 鎧賊を引き渡す時に、リーダー格の奴が使ってた鎧とか、換金に回された戦利品や連中の捕縛報酬と懸賞金、その権利が丸ごとオレに譲られたことだって。



 他にも色々と細かい事は、ぜ~んぶ置いといて!



 今オレは、ワクワクが止まらねぇっ!!



 なんたって、知りたくて知りたくて仕方なかったパワードスーツの情報が手に入って、しかもこの後ちょっとだけでも現物が拝めるからだ!


 インガルに来るまで色々と仕官について聞いたら、物理攻撃と魔法の両方を使って戦えるのと、せっかく手に入れたあの鎧、全体的な商品名は紋装殻クレッシェルって名前なんだけど、それを活かせる仕事の話がメインになったんだ。


 紋装殻持ちなだけでも戦闘以外に、土木建築とか運搬作業とか災害時の救助や復興作業と、パワーアシスト技術ならではの力仕事が山ほどある。


 実際、街道を塞いでた大木を退かしたり、死んだ馬達を掘った穴まで運んで埋めたりと、魔法無しの生身だとかなりキツい作業で大活躍だった。


 で、魔法を補助道具無しで有効に使える人材は少ないし、それを補う為に古代魔導文明の遺産を解析して作られた魔導具が発展したらしいんだけど、紋装殻クレッシェルとか、ハウザーさん達みたいに目立たないよう護衛役をする人が持つ、普通の服の下に着るタイプのパワーアシスト装備に使われてるのも、同じ古代遺産を解析して作られた魔法紋章技術なんだそうだ。


 そしたら当然の流れで、二つの他には使われて無いか聞いたら、本命の話になった。




 パワードスーツの正式名称は、紋繰騎クレストレース



 そのパイロット役職の呼び名は、騎装士スキナー




 基本的には対魔獣戦闘用なんだけど、一部は大規模な建設作業や農作業にも使われてるらしい。


 それでな、その騎装士はどの国や地域でも適合者が少ないから常に人手不足状態、もし適合するなら諸手を挙げて大歓迎するんだってさ。



 これ聞いたらもう、オレだけじゃなくロボット好きなら誰だって、目指すは騎装士一択だろ!



 だから、より詳しくって食い付いたら都合良く、ハウザーさん達の用事は、騎装士の養成を目的とした教育機関、士導院の訪問だって言うし、それならせめて一目だけでも紋繰騎クレストレースを見たいってお願いしたら、馬車用の馬を手配する為に別行動になるハウザーさんの代わりにって、護衛冒険者として同行する指名依頼を出してくれたんだよ。


 しかも、無料タダでいいのにわざわざ報酬として、後日ラクスター領にある冒険者ギルド支部で登録する時の登録料の肩代わりと、身元保証を兼ねた推薦状まで発行してくれる話になった。


 その上、同行中の費用まで全額出そうとするもんだから、流石にそれは貰いすぎだってことで、鎧賊捕縛の報酬が手に入るまでの分だけ借りる、って形で我慢してもらった。


 まぁ少しそういうすったもんだはあったものの、紋装殻クレッシェルが扱えたからこそのスカウト狙いな厚待遇は納得として、アルフェからもらった神体なら適合は問題無いはずだけど、お嬢様の用事がラクスター侯爵家所属の騎装士スキナーからの呼び出しなんでそっちが優先、紋繰騎クレストレースを見たいオレにとっちゃ渡りに船とはいえ、時間があればすぐに出来る適合検査は、一先ずおあずけになった。



 え、“それよりお前、角はどうした?”って?


 フッフッフ、こんなこともあろうかと、見られない内に透明化して隠しといたぜ!


 まさに神体様々……ホントはもっと早くアレコレ調べて知っとくべきだったんだろうけど、そしたらハウザーさん達が酷い目に遭ってたかもしれねぇから、深く悩むのは止めにした。



「動いてる紋繰騎とかいないかなっ?」


「残念だったな、さっき昼後四つの鐘が鳴ったから、今日はもう店仕舞いだ」


「そっか、でも待機中の姿が見られるだけでも、十分嬉しいよ」


「おっ、ほらあそこ! 騎装士達が歩いてるぞ、って……」


「ん……なんだろ、訓練中にケガしたのかな?」


 衛兵さんが指差した先、そこには何人か若い連中が歩いてるんだけど、その半数がぐったりした様子で運ばれてた。


「おかしいな、このくらいの時間ならもうみんな休んでるはずなんだが」


「すみませんっ、馬車を止めてくださいっ」


「了解しましたっ」


 普段と違うらしい光景に首を傾げてた衛兵さんだけど、お嬢様からの急な指示にも素早く従って、歩いてる連中のすぐ近くに馬車を止めた。



 もしかして、この集団のどっちかがラクスター侯爵家所属の騎装士スキナーなのか?


 って、いくら安全な場所でも護衛無しに馬車から飛び出すなよ、お嬢様っ。



「貴方達、その四人はどうしたのですか?」


「なんだお前、ってなかなかいい女じゃん」


「へぇ、新しく派遣されてきたのかね」


「いいねぇ、色々楽しめそうだ」


「こりゃ教えがいがありそうだな」



 なんつーかこいつら男全員、お嬢様を見る目と仲間内でボソボソ喋ってる内容が気持ち悪いな。


 お嬢様の方は、運ばれてる女の子四人に気が向いてるから気付いてないけど。



「私の名はアリスティア・ラクスター、その四人は我が領から派遣されている騎装士なのですけど、何があったのか教えてください」



 おっ、流石に家名から身分が判ったらしいな、男共の顔色がサッと変わりやがった。



「しっ失礼致しました! 彼女達は、ライアー訓練教官より課せられた、体力作りの為の走り込み中に倒れたので、監督していた我々が医務室に運んでいた所です!」


「そうですか……みんな、頑張っているんですね」



 倒れるほどの走り込みだって?


 それにしちゃ女の子達の様子が変だし、こいつらの話はどうも怪しいな。



(【鑑定】……なんだこりゃ?)



「ところで、四人のまとめ役のエルフィナ・クノックスはどこなのですか?」


「彼女はライアー訓練教官と共に、教官室で今後の訓練課程を相談しているかと思います。……申し訳ありませんが、この子達の容態が心配なので、我々はこれで」


「はい、宜しくお願いしま……」


「【探索】」



(ついでに探索魔法に上乗せして、【鑑定】エルフィナ・クノックス)



「えっ、急にどうしたんですか?」



 ふーん、女の子五人全員が “状態異常” ね。



「おい待て、医務室は真逆だ。そっちは男性寮だぞ」


「なっ……」



 はっ、これからやろうとしてた悪さがバレたって、どいつもそんな顔してやがるな。



 探索魔法の結果は嘘を吐かない、つまり状態異常な対象の位置も正確に示してくれる。


 そんな対象の居る場所は、今んとこホントの医務室と、目の前のこいつらに運ばれてる四人、そして教官とやらと一緒らしいエルフィナ・クノックスだけ。



「なぁ、二つ質問に答えろ」


「おいっ貴様! 何が狙いなんだ!」



 嘘つき野郎に応える気はねぇよ。



「まず一つ目、教官とエルフィナ・クノックスが一緒なのまでは正しい、けど居場所が嘘だ。なんで二人は男性寮の寝室にいるんだ?」


「えっ!? それって、その……」



 あーはいはい、お嬢様はそういう系の免疫が無いんだな、顔真っ赤なのは可愛いけど、今は多分きっと緊急事態だから、大人しくしてくれ。



「ふん、男のくせに女性の面前で恥知らずな質問とは、無粋だな」


「遠回しに二人が男女の仲って言いたいんだろうけど、これで嘘三つだな。で、二つ目の質問だ。そっちの女の子四人はなんで “状態異常 気絶 呪い 隷属” って出てるんだ?」


「なんですって!?」


「かっ、鑑定魔法だと!?」


「馬鹿なっ!!」


「貴様の方こそっ、そんなの嘘だろうっ!」


「くそっ! こうなったら……」


 おっと、なんか魔導具らしい代物取り出しやがったし、やられる前にやっとくか。


 ついでに、こいつらギャアギャアうるせぇし、喋る口も範囲内にして、っと。


「【拘束】」


 とりあえず護衛役は果たしたけど、しっかしどうすっかね、これ。


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