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冒険者の戦い

今回は、第三者視点でお送りします。

 扱い慣れない武器を教え通りに構え、開始の合図代わりに一つ吠えた勇司だったが、しかしその威勢とは真逆にまだ一歩も動けない。


 正面の有名らしい冒険者が二人して、シェミナは身の丈以上の巨大武器を右肩に担いでゆっくりと歩み寄り始め、ウォーカーはその場で微動だにせず、それぞれ思惑通りの場を作り始めたからだ。



 だからこそ勇司は、動けない。



 迂闊に自ら仕掛ければ、間違いなく二人から同時に攻められて成す術なく敗北するだろうが、しかしこのまま何もせず待っていれば確実に、シェミナの得意とする間合いで戦わざるを得ない。


 手にした武器は長剣一本、とてもシェミナが持つ長柄の双斧槍の長さには敵わない、そして一方的に対応させられている内に、結局ウォーカーの接近を許した末に同時攻撃を受けての敗北が待っているのは、明白だ。



(なら初手から魔法ぶっぱで……)



 そう決意した、次の瞬間――


「判っ断がぁっ! ぉおっそぉいぃゃあぁっ!!」


「んなっ!?」


――自らも身に纏い、あるいは一度ならず行使した覚えがあるはずの勇司は、一つ完全に失念していた事を、激しくぶつかり合う剣から返る衝撃のおかげで、身を以て思い知らされていた。



 この世界には、金さえ有れば誰でも手軽に身体強化を行えるパワーアシスト技術や、使い手には適性が必要なものの道具要らずで行使可能な強化魔法、その二つを存分に活用した戦闘技法がきちんと発展している可能性を、忘れていたのだ。


 相手の掛け声とも叫び声ともつかないそれを聞かされなければ、恐らく何ら反応出来なかったであろう超速の突進を以て、先に動き出したシェミナを後方へと置き去りにしたウォーカーが瞬時に、最も優位をとれるらしい間合いへと、踏み込んできた。


 辛うじて対抗し得たのは、果たして 紋装殻クレッシェル による強化機能故か、あるいはそう相手に誘われただけか、いずれにせよあっという間もなく、勇司は防戦一方へと陥れられている。



「ユー坊よぉうっ! 忘れちゃ駄ぁ目だぜぃ! 身体強化のっ! 魔法やっ魔導具はっなぁ! 下地がぁ大事ぃぃいぇえぁっ!」


「んがぁっ! くっ! はぁっ!? うぉぅっ! ぐうぅうっ!?」


(そう言われりゃそうだっ!)



 先ほど戦闘前に読んでいた通りの、片手剣二本から繰り出される猛攻を、幾つかは受け止め掻い潜り残りは当てられつつ、最後は振り回しの遠心力さえも乗せられた強烈な一撃で、横っ飛びに弾かれるその最中、勇司は気付かされていた。



 身体強化は魔法と魔導具のどちらも、効果対象を基礎とした能力や機能の強化に過ぎない。


 つまり、ウォーカーのように鍛え上げられた肉体を更に強化するのは当然の戦法であり、対人戦闘においては最も警戒すべき手札の一つなのだ。



「いらっしゃぁいっ! ユーちゃぁんっ!」


(なにぃっ!?)


「ぐはぁっ!!」



 そしてもう一つ、嵐のように荒々しく激しいウォーカーの攻撃にかまけるばかりに、シェミナがいつの間にか飛ばされた先へと回り込んでいたのにも、重厚な斧刃が長剣に激突する瞬間ようやく気付かされたが、もう何をするにも遅かった。


 やや打ち上げる角度で振り抜かれた巨大武器の、重さと速度を乗算した攻撃に対し、地に着かない足では踏ん張って耐えるなど不可能、まるで射ち出された矢の如く恐ろしい速度で吹き飛ばされてしまう。



 しかしそこでようやく、反撃の 好機チャンス が訪れた。



(食らってたまげろっ! 【追尾炎弾】っ発射ぁ!)



 声を上げて行使すれば悟られると思い至り、更に着地の算段や喋る暇さえ惜しいと焦って、空中へ飛ばされた姿勢のまま無言で放った、攻撃対象への高速追尾と高温で燃え盛る炎の性質を付与された、魔法の弾丸が総数三百発、ウォーカーとシェミナに襲いかかる。


 高速追尾とはいえ速度は比べるまでもなく遅いが、その数は大型魔獣トライデントリザード三体に放った水刃の三倍、二人はそれほどの脅威だと、無意識の内に判断した結果である。


 だが勇司は、相手が腕利きの冒険者であるという前提と、それを加味して行使するべき魔法の選択を、誤っていた。



「……ぐへっ!! さぁど、う……ウソ……だ、ろ……」



 背中から叩き付けられるように落着した勇司は、一瞬でも状況を覆す為の目論見が粉砕されるような、その光景が信じられなかった。


 基本的に知恵ある生き物は炎を怖れる、そんな恐怖心を掻き立てる狙いで属性は火を選んだ。


 相手が慌てて回避しようが、魔力の続く限り素早くしつこく追い掛け仕留める、重傷の阻止と不殺を考えつつも出来るだけ体力や逃げ道などの対処手段を奪う狙いで、高速追尾の性質を付与した。



 けれども、相手は腕利きの冒険者である。


 ウォーカーとシェミナは迫りくる多数の炎弾を前に怖れず逃げない、のみならず回避さえも一切しない。


 故に真っ直ぐ飛んでいった魔法は、二人が繰り出す武器によって次々と地面へ打ち落とされていく。



「甘い甘いあんまぁぁぁぁいぁっ!」


「ユーちゃーんっ! 属性魔法はっこうやってっ! 対処するのよぉーっ!」



 それは先日の決闘で勇司自らやってのけ、その上軽く講釈まで口にした魔法への対抗手段だ。



 属性付与された魔法は無属性の魔力と反発干渉する、そんな特性を活かして所持した武器へと単純に魔力だけを送り込み、後はその密度と武器自体の強度と身体強化の恩恵を以て、弾き返しあるいは打ち落とす。


 そうしてこの二人は、これだけの炎の雨に真っ向から立ち向かい、全てを叩き落とそうとしていた。



(だったら……【爆風球】っ!)



 相手が火魔法攻撃への対処で手一杯な内にと、自身を中心に全周へ爆発的に拡大していく、威力重視の風属性魔法を選択して発動させる。



「シェミナぁ!」


「はいはぁーいっ!」



 対するウォーカーとシェミナは、互いに一言だけを発するや否や、即座に対応し始めた。


 まずはウォーカーが、勇司に向けての道を切り拓く為に炎の雨を一転突破で前進する。


 それに続くシェミナは、二人を通り過ぎて側面と後方から迫る炎弾を必要最低限のみ打ち落とす。



 そして、とうとう――


「よっしゃっ! 行けぇえっ!」


「はいなぁっ!」


――炎の弾幕を抜けた瞬間、合図を受けたシェミナがウォーカーの背中を踏み台にして飛び越える。



 が、高く飛んだ彼女はすぐには着地せず、手にした双斧槍を大きく振って、更に自身も身体を捻って回転し始め、横倒しで飛ぶ竹トンボのような姿が、あっという間に凄まじい速度に達していた。



 そうしてそのまま、巨大武器の重量と遠心力に回転速度が追加された技が、シェミナの吐く気勢と共に地面に到達した途端に――


「はぁっ!!」


「うぇっ!?」


――接地した地点が、大きく爆ぜた。



 しかもそれだけでなく、爆ぜる範囲が信じがたい速度で、明らかに前へ向かって進むのである。



(なんだよあれっ!? これじゃ爆風球とぶつかって、二人に魔法が届かな……いやっ! アレは違うっ! オレに当てる攻撃だっ!)



 そう勇司が気付いた時には既に、拡大を始めていた爆風とシェミナの繰り出した技は、接触する寸前だった。


 片や勢いは強いがただの風で、それにぶつかるのは大量の土砂なのだ、双方の密度があまりにも違い過ぎて相討ちになる訳もなく、あっさり突破されてこちらへと攻撃が届くのは明白である。



(とにかく直線上から離れないとっ!)



 咄嗟にそう判断した勇司は、間違っていない。


 しかし、ついに爆風と触れた瞬間、爆ぜ進む謎の技は接触する球面に沿って、広範囲に拡散した。



「な……ぐあぁぁっ!!」



 避ける為に一歩踏み出したところで、そんな変化を目の当たりにした驚きで逃げ遅れ、無防備な姿勢で足下から噴き上がる土砂の直撃を受けてしまう。


 そのまま埋もれて姿が見えなくなった彼の前に、大技を放った直後にしっかり着地したシェミナは仁王立ちして、息を整えつつ言い放った。



「ふぅっ! ユーちゃん、広範囲に攻撃して追い打ちする狙いは良かったけど、周り全部ってのは無駄よ。もっと……」


「なぁシェミナよぅ、これユー坊は無事なのかぃ?」


「そりゃ、もちろんよっ! ……多分」


「おいおいおいっ! 早いとこ掘り出さないと、あいつ死んじまう……」


「ぅがあぁぁっ!」



 あまりに無責任なシェミナの発言に、青くなったウォーカーが慌てふためいた次の瞬間、復帰した勇司が勢い良く埋もれていた地面から立ち上がった。



「おぉっ! 生きてたっ!」


「うそっ!? 無傷なのっ!?」


「もういいっ! 武器は邪魔だぁっ!」



 そう叫んで、あの技を受けても握っていた長剣を投げ捨て、続いて身を包む紋装殻にも手を掛ける勇司は、相当頭に血が昇っていた。



「……まぁだやる気かぃ」


「ったりめぇだろっ! 男ならゲンコツで勝負だっ!」



 ウォーカーが見る限り、装備や服装はダメージを受けていても、勇司自身は問題ないと思える。



「なぁシェミナ、わりぃけど手ぇ出すなよぅ」


「分かってるわよ、可愛いユーちゃんに嫌われたくないもの」


「よっしゃ! んならまた、あいてっ!」



 そんな彼にぶつかって良い音を立てたのは、勇司の装備していた紋装殻の一部だった。



「おいこらユー坊っ! 冒険者なら自分の装備は大事にしやが、いってぇっ!」


「るっせぇっ! そんなの勝ってから考えらぁっ!」


「んにゃろうっ! シェミナみたいな事言いやがってぇ! 覚悟しやがれよぉっ、とっ捕まえて尻ぃひっぱたいてやるぁ!」


「やれるもんならやってみろぉっ!」


「やらいでかぁっ!」


「はぁー、ずいぶんと大きな子供達だわぁ」



 そのまま合図も技もなく、子供染みた取っ組み合いを始めてしまった二人を前にして、シェミナは仕方なさそうな苦笑いを一つして、その様子を微笑ましく見守っていた。


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