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傲慢な愚者への鉄槌


 翌日、オレはトリアーボさんと一緒に馬車に揺られて、衛兵隊詰所まで向かった。



 ちなみに昨日、夕飯に出されたライスっつーかお米料理は、料理人が慣れてないのか、それともレシピを入手出来なかったのか、でなきゃシークアルト辺境伯領とやらでも似た感じなのか……。


 思い出しただけで、イラつく代物だった。


 せっかく出してくれたんだからって事で残しはしなかったし、料理人さんとかロレットさんやトリアーボさんに文句だって言わなかったけどさぁ。


 あんなのもうご飯じゃねぇ、お粥でも、重湯ですらねぇ!



 お米を香り付けに使って作ったスープだ!



 美味かったけど、お米使ってるのにご飯成分が匂いだけだったってのが、腹立つんだよ。


 だもんで、かなり期待してただけに内心ムシャクシャしたから、勢い任せでオレが知ってる料理レシピと使い方を全部教えるって、全面協力を約束しちまった……。



 だから今は、心の口直し中。



「いやぁ、楽しみだなぁ! ところでユージ殿は、騎体を動かせるのかい?」


「あーいや、まだ 紋纏衣クレスキン が無いから……」


「そうなんだ、じゃあどうやって五騎の 紋繰騎クレストレース を手に入れたんだい?」


「決闘で勝ったらもらえたんだ」


「そうか! お嬢様を護衛する冒険者だし、やっぱり強いんだろうなぁ!」


「いや、そりゃどうだろうな……」



 うーん、ざっくり聞いた限りじゃ、トリアーボさんもインガルでの出来事は知らされてないみたいだから、流石に事件の内容をオレが勝手にあれこれ喋るのはマズいし、身バレしてない相手にオレの正体とか能力を話すのはもっとマズい。


 けど、のらりくらり誤魔化すのも限界あるし、気になる事も聞きたいから、ちょっと強引だけど話題を変えよう。



「ところでさ、ナーキスには紋繰騎って常駐してないの?」


「うん、とても残念だけどね。なにせ紋繰騎は高価だから簡単には購入出来なくて、領地の広さに対して騎体数が全く足りていないんだ」



 うーん、昨日の話でナーキスに常駐する騎体がなさそうだって分かってたけど、その理由はやっぱ予算絡みなんだな。



「世知辛い現実だなぁ」


「でもそれは、どの領地でも大体同じさ。だから隣あった領地や街同士だと、お互いに貸し借りとまではいかなくても、出撃要請のやり取りが割と頻繁にあるよ」


「もしかして、代官補佐ってその要請を出したり、相手から出されたら一番に知る立場なの?」



 うわぁお、そう聞いたらすっげぇいい笑顔になった。



「あっはははっ! これじゃユージ殿に隠し事は出来ないねっ! その通りっ、私は書類の上だとこの街で一番早く最も詳しく、近隣の紋繰騎に関する情報を知る事が出来る、そんな立場に居るよ!」


「そっか、なら昨日は相当ビックリしたでしょ」


「そりゃあそうだよ! 一切の知らせも無しに五騎も預かると伝令が飛んできてビックリ、その上急にお嬢様がお戻りになられたと聞いて二度ビックリ、ユージ殿が全ての騎体の持ち主と知って三度ビックリさ!」



 おっ、あれこれ話してる内に衛兵隊詰所に――


「ん? なんだろ、誰か訓練してるのかな?」


「あれは……すまないユージ殿、少々急ごう」


「うん、いいよ」


――それは構わないけど、オレ昨日は広場に行ってないから、他にも誰かの騎体があるなんて知らなかったな。



「って、なんでオレの騎体が倒れてるんだっ!」



 ちくしょうっ!


 せっかく爺さんやフィナ達と一緒に頑張って直したってのに、また壊されるなんて許せねぇっ!


 停止させてる騎体が勝手に倒れるわけねぇし、やったのは間違いなくあいつだ!



「くっ! 遅かったか!」


「動いてる方に乗ってる奴って、誰?」


「……相手の名はベスティア・ミール、王家直轄領内のステイラルという街を治める領主、ミール子爵家の者だ」



 インガルとはまた別な街の奴、でも今そんなの知ったことか!



「ユージ殿……大変申し訳ないが、まずは私に話をさせてくれないか?」


「……分かったよ、でも奴の返答次第じゃ問答無用にぶちのめすから、そのつもりでいてね」


「あい分かった、その場合は私自らその結果に対し全責任を持つ」



 あぁそっか、怒ってるのはオレだけじゃない、トリアーボさんもなんだな。



「そこの騎体っ、いますぐ停止しろっ! 私の名はトリアーボ・アイライア! ここナーキスの代官補佐だ! 繰り返すっ、いますぐ停止しろっ!」


「うるさいですわね、どうして私が貴方ごときに従わなければなりませんの?」



 不機嫌そうに応えてるのは女か。



「あちらに停止中の騎体を、倒してしまう事故が起きたからだ! もう一度繰り返す、いますぐ停止しろ!」



 なるほど、トリアーボさんとしては出来るだけ穏便に済ませたいから、“事故扱い”で貴族同士の示談に持ち込む気で、“誰がどうやって”なんて事を名言しないのは、公の場での派手な言い争いっていう、相手の恥にしない為にだな。


 そんな気遣いしてくれてるのに、この馬鹿は全然気付かないのか。



「何かと思えば、そんな下らない事を。先ほど耳にしましたけれど、そこのガラクタは全てどこぞの冒険者の所有物ですってね」



 ガラクタ……オレの騎体を、ガラクタ呼ばわりね。



「口を慎みたまえ、ベスティア嬢。紋繰騎は決してガラクタなどではない」


「私のような高貴な身分の者が操る本物の紋繰騎と比べれば、ガラクタでも上等な言葉、むしろあんな物はゴミですわ。ですから、大事な騎体を預けて差し上げたせめてものお礼にと、私自らゴミ掃除をしましたのにそれを事故などと、失礼極まりないお話だとは思いませんか」


「そうか、つまりこれは事故ではなく故意だと、あくまでそう仰るのだな」


「あら、はっきり言わなくては何も理解出来ませんのね。えぇもちろん、私がしっかり片付けて差し上げましたわ」


「だ、そうだ。ユージ殿、ここまで我慢させてしまって悪かった、先ほども言ったがこの全責任は私が持つ、すまないが犯罪者の捕縛にご協力願う」



 そんなさ、我慢なんてオレよりよっぽど、トリアーボさんがしてるじゃねぇか。


 自分は適合無しだから乗れないのに、目の前のゴミ女はたかが騎体を動かせるってだけで、ここまでやりたい放題やってるんだからな。


 それでもオレにちゃんと断って、頭下げてまでお願いするなんて、ホントに立派な大人だよ。



「うん、任された。すぐに騎体から引きずり出して、とっ捕まえてやるよ」


「今度は誰ですの、貧相な服装の貧乏人が私を捕らえるですって?」


「ゴミ女相手に名乗る気はねぇ。てめぇは捕まって犯罪奴隷決定だ、どこぞの冒険者に負けて恥かいた元貴族として、死ぬまで絶望しろ」


「貴方、無礼討ちという言葉はご存知かしら?」



 はっ、わざと見せつけるようにゆっくり近付いてるけど、もうずっと魔法の射程内にいるなんて、馬鹿だから気付いてないか。



「【水刃】」



 フィナ達と一緒に修理して、どこをどう狙えば素早く紋繰騎を止められるかは、ちゃんと覚えたんだよ。


 両腕と両脚の魔力路をピンポイントで射ち抜けば即終了、後はかわいそうな騎体からゴミを取り除けば、掃除はお終いだ。


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