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願いと希望


 はぁー、ようやく終わってアレも落ち着いたな。


 オレが知ってて、その上でこっちの世界でも出来る事を片っ端から伝えたら、ロレットさんはさっき以上に尊敬の目をして感謝してたけど、アレの満足感と自分自身のやっちまった感がごちゃ混ぜで、正直少し疲れた。



 だもんで今は、ロレットさんの厚意で貸してもらった部屋に引っ込んで、のんびり一人を満喫中、ってドアをノックする音が――


「ユージ殿、ハウザーです」


「どうぞー」


――なんだろ、特にこの後は予定なんて無かったはずだけど、何かあったのかな?



「お休みのところ失礼致します、ユージ殿にお会いしたいと仰る方をお連れしました」


「いや、のんびりしてただけだし大丈夫だけど、オレに会いたい人って誰なの?」


「はい。ロレット殿の夫君であられる、トリアーボ・アイライア殿です、お呼びしてよろしいでしょうか?」


「うん、この部屋で構わないなら、どうぞ」


「承知致しました。トリアーボ殿、中へどうぞ」



 代官のロレットさんが既婚者なのは別にビックリしないけど、その旦那さんがオレに会って、一体何の話するんだろ?



「失礼、突然お邪魔して申し訳ない。改めて名乗ろう、私の名はトリアーボ・アイライア、ロレットの夫で代官の補佐を務める者だよ」


「どうもはじめまして、ユージです」



 この人なんかずいぶん気さくだな、比べちゃ悪いけどロレットさんより親しみやすいって感じるよ。



「前もって聞いているけど、ユージ殿は堅苦しい態度や話し方が苦手だそうだから、出来るだけそういう顔は見せないようにするよ。しばらく色々と話させてもらうから、よろしくね」



 あぁなるほど、それでか。


 でもそういう気遣いが出来るのは多分、代官の補佐って役職になって長いからだろうな、身分を踏まえればオレみたいに平民と同じ立場の人間に、そんな態度はとれないはずだ。



「こちらこそ、よろしくお願いします。それで……」


「あぁその前に、ユージ殿も私の事は気にせず、普段通りの話し方でいいよ。ここは非公式な場だから、ね」



 うーん、イケメンは何やっても似合うってのはホントなんだな、細身だけどロレットさんと同じように外仕事してるらしいし、こんがり健康的な小麦色に焼けた笑顔でウィンクされると、女の子だったら一発でKO負けだろ。



 まぁオレは男だけどなっ!



「分かったよ、よろしくねトリアーボさん」


「うん、こちらこそよろしくっ。それで、急にお邪魔した理由なんだけど、さっき妻やお嬢様方からユージ殿がライスの正しい育て方を教えてくれたと聞いてね、そのお礼とお願いに来たんだ」


「お礼ならもう、ロレットさんから十分もらったけど、お願いってライスの事で何かあるの?」


「はははっ、ユージ殿は先読みが上手くて、話が早いから助かるよ。実は今ね、我がラクスター領ではこれから先ライスを主要な農作物にしようと、そういう動きがあるんだ」



 げっ、あの畑ってかこの代官屋敷の役割って、農業系の先行試験場みたいなもんなのかっ!?


 やべぇ、アレ発散させる為にって色々喋ったら、いつの間にか恐ろしく大規模な話になってた。


 どうすっかなぁ、もしそのお願いってのがここに残ってもらいたいとか、そういう仕事を任せたいって話だったら、お断りしたいっつーか間違いなく断るんだけど――


「あぁそうだ。先に言っておくけど、そういった動きの為にユージ殿の自由を妨げるなんて話じゃないし、むしろそんな事はさせないから安心していいよ」


「そうなんだ、そりゃ良かった。おかげで、穏便なお断りの言葉を考えなくて済むよ」


「あっはっはっ! ユージ殿は正直者だなぁ!」


――ふぅ、とりあえず心配事は一つ回避したな。



「それで、そのお願いってのはなんなの?」


「ライスを主要な農作物にする動き、それは単に良い作物の育て方を広めたり収穫量を増やすってだけじゃない、食べ方や使い方だって工夫して、一般に広く浸透させなきゃならないんだ」



 なるほど、この先の展開が読めた。



「つまり、オレが覚えてる料理のレシピとか使い方を知りたい、そういう事なんだね」


「うん、正にその通り、実に素晴らしい洞察力だよ。そこでだ、明後日にはお嬢様方が出発するからそこに私も同行して、ユージ殿と共に旦那様へ面会したいんだ、どうかな?」



 トリアーボさんの言う旦那様って、そりゃもちろんラクスター侯爵なんだろうけど、最初はアリスとハウザーさんから紋繰騎の領内運用を許可してもらう話を通すってだけだったのに、なんだか大事になってきちまったなぁ。



「先日ユージ殿が仰った 紋繰騎クレストレース に関する事柄は、変わらず私がご説明致しますので、その点はどうぞご安心を」


「ハウザーさんにそう言ってもらえるのは助かるし嬉しいけど、自分自身の持ち物なんだからさ、オレもちゃんと話すよ」


「承知致しました。お気遣いありがとうございます」


「なんだって!? ユージ殿は紋繰騎を個人で所有しているのかい!?」



 ありゃっ、もしかしてその辺は事前に聞いてなかったのかな?



「うん、インガルでちょっと色々あってさ、今は衛兵隊詰所裏の広場に置かせてもらってるんだ」


「あっ! そういえば伝令で、騎体五騎と大型運搬台車四台を預かると聞いたけど、あれはユージ殿の持ち込みだったのか!」


「あー、もしかして持ち込みにお金かかるとか、する?」


「いやいやっ、それはないよ! そんな事より、紋繰騎だ!」



 おっと、この反応はもしかして――


「いいなぁ。私はとても残念だったけど適合が無くてね、 騎装士スキナー にはなれなかったんだ。だからだろうか、代官補佐をしている今でも、紋繰騎にも騎装士にも強い憧れがあって、たまにインガルから来る騎体や騎装士達を見ては、少し離れた所から楽しんでいるんだよ」


「そっか、なら今日はもう遅いけど明日は一日休みだから、一緒に見に行く?」


「いいのかいっ!? ……あぁでも、午前中の少ししか時間が……」


「もちろん、いいよ。そうだ、午前中だけでも時間あるなら、詰所まで行く間でいいから、買い物出来るとこ教えてくれるかな?」


「それなら喜んで行くよっ! ありがとう、ユージ殿! いやぁ、今日も明日も本当にいい日だ!」


――そうか、適合無しに動く新型騎を造るって目標にちょっと悩んだけど、逆にトリアーボさんみたいな人達の、助けとか希望にもなるかもしれないんだな。



「今日とか明日だけじゃないさ、明後日からオレ達と一緒に行くんだし、今度はすぐ目の前で動いてる騎体も見られるんだから、ずっといい日だよ」


「そうだったっ! その通りだよユージ殿っ!」



 ははっ、こんなに喜んでくれる人がいて、もっと大勢だって同じように嬉しくなる人達がいるかもしれないんだ、新型騎開発についての話だって、しっかり侯爵様に伝えないとな!


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