貴人だけど今はちょい役だから即退場、そして気苦労さんと情報交換(なお、悪人への慈悲はない)
「あの、ヒューガ様、鎧賊達は全て縛りあげましたので……」
「話遮って悪いんだけどイレーヌさん、やっぱ様付けで呼ばれるのって堅っ苦しくて、どうしても慣れないからせめてさん付けで、それと名前で呼んでくれないかな、頼むよ」
「分かりましたっ! よろしくお願いしますっ、ユージさんっ!」
えっ、いきなり誰だ!?
「おっ、お嬢様っ! まだダメですってばぁ!」
追加の知らない声も馬車から聞こえてきたしそっち向いたら、後ろから誰かに羽交い締めされつつ、窓から身を乗り出して必死にアピールしてる、ドレス姿の女の子がいた。
思わずチラッとハウザーさん達を見れば、今にもため息吐きそうな困り顔はしてるけど、怒鳴ったり叱るような雰囲気じゃないし、あの子はハウザーさん達の雇い主、馬車と服装の豪華さからすると、いいとこのお嬢様ってことか。
「……イレーヌ、こちらは私に任せなさい」
「……承知致しました。それでその、ユージさん。最初に捕らえた二人の拘束魔法を、解除して頂けますか?」
「わ、分かったよ。後はこっちでやっとくからイレーヌさんも、その……頑張ってね」
「……ありがとう、ございますぅ」
あぁ、蚊の鳴くような声って、こんな感じか……。
「お助け頂いたというのに、ご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございません」
「とりあえず、拘束魔法解除したらあいつら馬車まで連れてかないといけないし、手伝ってくれるかな」
「承知致しました」
んー、なんつーかハウザーさんもイレーヌさんも、それと馬車の中のもう一人も、あのお嬢様のせいで苦労してそうだなぁ。
でも、このまま気まずい雰囲気なのもキツいし、何とかしてみるか。
「あのさハウザーさん、もし見られちゃまずかったんなら、オレ何も見なかった事にして全部忘れるし、なんなら森を抜けた後で別な街とかに一人で行くよ」
「いいえ、その点は心配ご無用です。元々、安全な場所へ辿り着いた後に、ご紹介する予定だったのです。むしろ問題は、このような誰に聞かれるか分からぬ所で、ユージ殿の名を大声で呼んでしまった事なのですよ」
なるほどな、オレに迷惑かけたってのは、鎧賊共の残党や新手が後で襲ってくる可能性の心配か。
思い返せばハウザーさんもイレーヌさんも、ずっと周囲を警戒してたし、自己紹介の時だって声は極力抑えてたもんな。
つくづく、気遣いと気苦労の多い人達だなぁ。
「あー、そっちは今のとこ、さっき使った探索魔法の範囲内にはあいつら以外誰もいないし、もし聞かれてても自力で片付けるよ」
「なんと、強化魔法や風魔法に鎧賊共を一蹴する体術に加えて、探索魔法まで。もしユージ殿に今後のご予定が全く無いのでしたら、当家への仕官を請うのですが……いえ、強化魔法と探索魔法だけでも冒険者としては引く手あまたですし、仕官のお話はお忘れください」
うーん、聞いて知った限り今選べる進路的な選択肢は、何かしら普通の職業か、魔法を活かす職か、冒険者か、貴族への仕官ってとこか。
パワーアシスト技術付きの鎧は盗賊すら持ってるから、金さえ出しゃどの職業でも買えるはずだけど、パワードスーツやデカい人型ロボットは間違いなく金食い虫ってのがロボ物ネタのお約束だ、縁があるのは貴族とか国の兵隊くらいだろう。
ただし、アルフェがよこしたあのイメージ以外は名前すら知らないから、パワードスーツとかロボットなんて言っても通じないし、むしろ言ったら身の上話的にマズい。
なら、仕官以外は後で調べるとして、ここはいい機会だから情報収集だけでもやっとこう。
「後で街まで行く途中に、仕官の話を聞いてもいいかな?」
「ほぅ、興味がおありですか?」
「どっちかってーと興味よりも、オレに何が出来るかはともかく、自分がやりたい何かを選ぶ為の選択肢を増やしたいんだ」
「なるほど、単に仕官といえども様々な役職がございますし、事前に知るのは良い手ですな」
まぁ、そうは言ってもやりたい事なんてもう決まってるけどな。
でもその前に、やるべき事から片付ける。
「おらお前ら、今から魔法解除すっから大人しく言うこと聞けよー」
「けっ!」
「おっ、おいやめろ! 逆らうなって!」
あれ、なんでこいつら態度が正反対なんだ――
「なぁ兄ちゃん、今さら逆らったりしないから、乱暴はしないでくれっ、なっ」
「ガキ相手に媚びやがって、情けない野郎だぜ。俺達の時と同じで、コソコソ隠れて魔法でちょっかいかけただけの弱っちそうな奴に、ビビってるのかよ」
「馬鹿野郎! お前は見えてなかったからそう言えるんだ!」
――なるほどな、ここから馬車の辺り見て判ったけど、ビビってる奴からはオレの立ち回りが丸見えだったのか。
「ハウザーさん、悪いけど大人しい方を頼むよ」
「うがっ! ……くそっ、なにしやがる!!」
魔法解除した途端、縛られてるのに即逃亡しようとした奴の襟首と鎧の腰辺りを捕まえて、方向良し、角度良し、強化魔法良し――
「喜べ、今からオレがお前を馬車の近くまで届けてやる……おらぁぁっ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁー…………」
「んで【強風】っと」
――おー、流石に強化と強風の魔法二つでぶん投げたら、いい勢いで飛ぶなぁ。
にしても、強化魔法ってこんだけ便利なのに、それでもパワーアシスト技術とかパワードスーツが発展してるのって、嬉しいけど謎だな。
おっと、そのまま墜落死させる気はねぇし、出迎え出迎えっと……よし、馬車前に到着ー。
オーラーイ、オーラーイ――
「…………ぁぁぁぁぁぁあげふっ!」
――着地の瞬間、強風で飛ぶ向き変えて勢いも殺してやったし、見事に馬車の前まで背面スライディングしてきたから、肩を踏んで止めてやる。
「いよぅ、お空の旅は楽しかったか?」
「ひっ! や、やめっもぅ逆らわないからっ!」
よしよし、こいつも大人しくなったな。
「いいかーお前ら全員、大人しく指示に従えよ。もし逃げようとしたり逆らったら、そん時ゃ風魔法抜きでお空の旅にご招待すっからなー」
おーおー、目の前で高いとこからギリギリ助けられたの見てみんな素直に頷いてるし、ちょいと派手だったけど、こういう見せしめがよく効くのは、世界が違っても同じなんだな。
さてと、後はかわいそうな馬達を弔ってやって、のんびり街まで向かうとするか。