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名物代官とあの作物


「あら! アリスティアお嬢様、インガルからお戻りになられたんですねっ!」


「こんにちは、ロレットさん。お仕事お疲れ様です、先触れも無しにお邪魔してごめんなさい」


「いえいえ、そんな! 私こそ、こんな格好で申し訳ございません」



 ……うーん、なんつーかシュールな光景だ。


 よそ行きらしいドレス姿のアリスは相変わらずな腰の低さで謝ってるし、それに応えて逆に謝ってるのは野良仕事姿のロレットさん。


 両方の立場を事前にきちんと聞いてなきゃ、どっちもそれぞれ偉いなんて分からないぞ、これ。


 しかもそれを、ついさっきまでロレットさんが耕してた畑の前でやってるもんだから、もうなにがなんだかって感じだよ。



「行きはお急ぎでしたけれど、もうご用件はお済みなのですか?」


「はい、この方のおかげでみんな無事で全て解決しました」



 ちょ、ここでオレに振るのかよ!?



「あら、行きの時はお見かけしませんでしたけれど、私にもご紹介頂けるのですか、お嬢様?」


「えぇ、もちろんですよ。彼はユージ・ヒューガさん、私達全員を色々と助けてくださった、大切な恩人なんです」



 おいこらっ、何も知らないロレットさんに曖昧な言葉で恩を刷り込もうとするなよっ、アリス!


 ほら見ろ、お前が余計な事言うから明らかに不必要な尊敬の目で、オレをロックオンしちまった!



 んぁーもうっ!


 前もって要らん事言うなって伝えとけばこうはならなかったし、今だって普段の態度で止められれば、ここまで大げさな反応はされなかったはずなんだよ!


 でも流石に、アリスを敬ってる大勢の人達の前でいつもの口調はマズいし、それ以前にこいつが敬われる立場だって事が、頭からすっぽ抜けてたしなぁ!



 くそぅ、時すでに遅しってこういう事かよ……。



「えと、はじめまして。ユージです」


「お初にお目にかかります、私の名はロレット・アイライア、ここナーキスを任されております代官でございます」


「これは、ご丁寧にどうも」



 あぁもう、オレ自身が自分には似合わねぇって思ってる態度と口調って、やっぱ堅っ苦しくて苦手だっ!



「いえいえ、私こそこんな所で立ち話など、失礼致しました。お嬢様方をお救いくださったご恩のあるお方に、是非ともお礼をさせて頂きたいのですけど、ヒューガ様のお時間やご予定は如何でございますか?」



 くっ、そう聞かれてチラッとアリスに目を向けたら、今までで初めて見るいい笑顔でうんうん頷いてるだけだし、ハウザーさんもイレーヌさんもミトリエだって、誰も助けてくれそうにねぇ!


 つまりなにか、オレに何もかも諦めて受け入れろって、そう言いたいのか?



 ……だが断る。



 やった事が結果的にアリス達の助けになったのまでは認めるけどな、だからってそれをロレットさんみたいに会ったばかりの人だとか、これから会うかもしれないどこかの誰かに、恩を押し付ける気はねぇよ。


 それに何より、オレはどこまでいっても何をやっても、オレ自身を変えるつもりはねぇ!



「あのさ、ロレットさん」


「はい、なんでしょうかヒューガ様」


「まずその名字……じゃなくて、オレを家名で呼ぶのと様付けするの、やめてくれよ」


「えっ?」



 うん、そりゃ目上の人から刷り込まれた事を急に止めろって言われたら、ビックリするよな。


 ってアリス、お前さっきより更にニコニコしやがってこの野郎っ、覚えてろよっ!



「あんな風に大げさに言われたけど、オレは家名ってか名字はあっても貴族じゃないし、様付けで呼ばれる立場でもないんだ。助けたのは成り行きと、たまたま出来るからそうしたってだけで、恩を売り込もうなんて考えは、これっぽっちもないよ」


「で、ですが……」


「頼むよ、ロレットさん」



 オロオロしてるロレットさんを追い込むつもりじゃないけど、頭でも下げないと――


「そのくらいで許してあげてください、ユージさん。ロレットさんも、ユージさんはこういう方で堅苦しい態度は苦手だそうなので、そのへんで」


「承知致しました、お嬢様」


――おま、それ自分が蒔いた種だろ!



 でもなぁ、こういう半分公の場でお互い引っ込みがつかない状況だと、仲裁役が必要なのはオレでも分かる。


 つっても、お前がやらかした事はしっかり覚えとくからなっ!



「それでは改めまして、ユージさん。屋敷へご案内しますので、どうぞごゆっくり」


「ありがと。それとよろしくね、ロレットさん」



 そうしてようやくお互い収まったから、デカい建物に向かってそのまま歩いてくロレットさんの後に続いて、オレ達も移動する。


 ちなみにオレは、わざと最後尾につけた。



「ユージさんは相変わらず、ユージさんですね」



 なんだよアリス、その禅問答みたいなセリフは。


 顔は見えなくても上機嫌なのは、声の調子で分かるけどさ。



 って、あの畑の作物、どっか見覚えが――


「ねぇロレットさん、あの畑で育ててるのって、なに?」


「あぁ、こちらはつい最近シークアルト辺境伯領から取り寄せて育て初めました、ライスという作物です」


「えっ!?」


――ライスって、まさか米なのかっ!?



「ね、ねぇ……それってさ、もしかして白くて小さい粒がたくさん採れる、そんな作物?」


「まぁ! このラクスター領では、まだここでしか育てておりませんのにご存知なんて、ユージさんは見聞が広いのですね!」



 そりゃそうだっ!


 この世界に来るまでは、それこそ毎日食ってたんだからな!



「で、あのさ、もう収穫したライスって、ある?」


「今育てていますのは収穫時期がまだ先ですけれど、苗と同時に収穫済みの物も参考にと、多少は手に入れましたが、それがどうかしましたか?」



 いよっしゃあーっ!


 異世界に放り出されて今まで、一度も見なかったから諦めかけてた米が食えるっ!


はい、というわけでとある理由で出したかったお米さんご登場です!


その理由については、またしばらく後のお話で。

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