ナーキスの名所と名物
「うん……多分こうなるだろうって、オレはそう思ってた」
「ねぇユージ君、本当にそう思ってたの?」
「…………あぁ、もちろんだ」
「ちゃんとボクの目を見て、もう一度言ってみてよ、ねぇ」
おいおいルーナ、そんなに深く疑った目で見るなよ、ホントはそんな事ひとっ欠片も思ってなかったとしても、オレがそう言ったんだから、そう思ってたって信じとけって。
「お嬢様っ! お帰りなさいませっ!」
「お嬢様! 変わらずお元気そうで何よりです!」
「お嬢様ー! ようこそナーキスへー!」
……アリスって、実はすっげぇ人気者なのな。
そりゃあさ、あいつは産まれも育ちも侯爵家のお嬢様で、しかも次期当主様って肩書きまでくっ付いてるんだから、出るとこに出れば敬う人達はたくさん居るんだろうよ。
けどなぁ、出会った時や異常に怖がった時の無防備なうっかり行動とか、ハウザーさん達やフィナ達だけじゃなく、身バレする前のオレみたいに正体不明な奴にも、別け隔てなく優しくて妙に腰が低いとことか、どうもそういう面ばっか見てるからか、アリス個人と高貴な家柄の人物ってのが、イコールで結べなかったんだ。
だから、ナーキスに入る門に着いた時点での衛兵さん達のこの歓迎ぶりを見せられて、ホントにあれがアリス本人なのか、そして周りで騒いでる人達はサクラだったりしないのか、そんな疑いを持っちまったとしても、もっと言えばこうなるなんてこれっぽっちも思ってなかったとしても、オレは何も悪くない。
「みなさんもお元気そうで良かったです、また少し滞在しますね」
「はい、どうぞごゆっくり!」
「ありがとう、まずはロレットさんに挨拶してきます」
「いってらっしゃいませっ!」
なんかもう衛兵さんっていうより、どこかの高級ホテルのスタッフみたいだ。
「……派手だね」
「……そうだな」
「そんな事よりユージ、ワシらと 紋繰騎 と台車はどうするんだ?」
「みなさん、衛兵隊詰所裏の広場を貸してくれるそうなので、騎体と台車はそちらへ回してください。それが済んだら馬車を出すそうですから、ユージさんは先にお嬢様へご同行ください」
「だとさ、爺さん。ルーナもまた後でな」
一度降りて衛兵さん達に質問してたイレーヌさんに従って、アリス達の乗る馬車の御者席に着いたままのハウザーさんの隣にオレが座ると、すぐに出発した。
「ユージ殿、今更なお話ですが御者席でよろしいのですか?」
「護衛冒険者なんだし、オレはここでいいよ。むしろ、まだ馬車を操れないのに座ってるのが悪いくらいだ」
「こればかりは、いくらスロウホースが大人しいとはいえ慣れが重要ですし、上達までは練習あるのみですな」
流石にインガルじゃ常に緊張してたんだろうな、今はあっちに居た時よりかなり安心感が表情に出てるよ。
でもまぁそれはオレも同じで、完全に気を抜いてるわけじゃないけど、ゆったり流れてく街並みを眺めて楽しむ余裕はある。
広い通りをざっと見渡した限りでも、人とか馬車とか荷車の行き来は結構多くて、領地の端っこにある街だから辺境とか田舎って感じはしない。
建物は平屋がメインで時々二階建てがあるくらいだけど、どこもきちんと手入れされてて、貧乏って雰囲気だってない。
「ところでさ、オレ達これからどこ行くの?」
「このナーキスを治める代官を務めておられる、ロレット・アイライア殿のお屋敷です」
「そうなんだ、ラクスター領内にある街で一番偉い人の屋敷かぁ、どんなとこなんだろ」
「ロレット殿のお屋敷は庭の手入れが行き届いておりまして、様々な草花を育てる趣味も相まって、中々に見ごたえのある名所ですよ」
「へぇー、名所って言われるくらい凄いんだ」
そう聞くとイメージ的には植物園って感じだな、インガルだとほとんど出歩けなかったし、ナーキスで休みをとるのは決まってるから、たまにゃそういうとこで息抜きするのもありか。
それとは別にもちろん、買い物とか街中の散歩も楽しみにしてるけどな。
「お、もしかしてあの緑一杯な辺りなの?」
「えぇ、このナーキスで最も緑豊かな場所ですから、やはり遠目にも目立ちますな」
「はー、あんなに広いんだ……木の高さは低いけど、まるで森みたいだ」
周囲にある平屋の建物より少し高い木がたくさん生えてるとこはかなり広くて、そこだけどこかの森を切り取って持ってきたみたいになってる。
「名目上は代官屋敷の敷地ですが、中は小路や休憩用の椅子などがしっかり整備された公園として、屋敷周辺や一部の区画以外は一般向けに解放されておりますよ」
そう聞くとますます、植物園の印象が強くなるな。
「一部の区画って、立ち入り禁止なのかな。だったら勝手に入って怒られないようにしないと」
「いえ、そちらは農家の方々向けの作物を育てる実験をしているだけですので、立ち入り禁止ではありません」
「草花を育てる趣味って、農作物まで範囲内なんだ」
「ははは、文字通り畑は違いますが、ユージ殿にも心当たりはございましょう?」
「うん、同じ趣味なら多分気が合うくらい、その人の気持ちはよく分かるよ」
ロボットと植物で分野は丸っきり違うけど、そこまでのめり込める人なら、やってる事は理解出来る。
まだ会ってないからはっきり言えないとしても、聞く限りじゃ性格的に合わないって雰囲気は
ないし、顔合わせが少し楽しみになってきたな。
おっと、なんだろ――
「なんか衛兵さんが乗った馬が近寄ってきたよ」
「なるほど、本日のロレット殿は畑におられるのですな、このまま誘導に従います」
「はいよー」
――もう周りの人達がどう動いてるかで、動向把握されるくらいに名物扱いになってるのか。
この街で一番偉くてラクスター家から管理を任されてるはずなのに、ここまでくると代官やってるって聞かされるのが不思議なレベルだ。
そういやふと思い出した。
インガルに居た時は、急ぎの用事だからって 士導院 に直行して、そのまま事件に巻き込まれた後は、 迎賓棟 に足止めされてて気付かなかったけど、あっちの街を管理する代官とか貴族には一度も会わなかったし、あの事件に関してとかって理由で相手から会いにくる、そんな事も無かった。
もう終わった事だし、インガルからも立ち去ってるんだけど、なんか気になるな。
「ユージ殿、もうすぐ到着しますよ」
「うん、分かったよ」
まぁ今はとりあえずアリスのお供として、この街のお偉いさんに会わせてもらおう。




