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さようならインガル


 それから丸二日、オレ達は 迎賓棟げいひんとう に足止めされ続けた。


 スロウホースを捕まえた翌日は、修理と並行して報酬分の群れを分けたり、要らない分を売ったりと中々に忙しかったし、その最中に馬寄せスキル持ちのリッシュが、群れを買い付けに来た連中にスカウトされそうになったけど、しっかり所属を伝えて全部断ったから問題はなかった。


 ついでに言うと、それ聞いて黒いオーラ全開になったハウザーさんが高値をふっ掛けたおかげで、オレのお財布はちょっとしたプラズマ並みに暖かくなってた。



 それから更に翌日の、昨日。


 今度は朝から、トライデントリザード討伐の報酬について話があるって、冒険者ギルドから査定した人と支部長さんが揃ってやってきた。


 討伐の手柄を衛兵隊に譲ったのが、ギルド側としてはやっぱ面白くなかったみたいだ。


 けどもう略式でも凱旋したし、どうするつもりだろって思ってたら支部長さんが提示したのが、“上級貴族お抱えで 紋繰騎クレストレース を貸与された、大型魔獣討伐専門の冒険者パーティー”って肩書きと、今回の討伐は衛兵隊とオレ達パーティーの協同戦果って形にしてくれ、そんな申し出だった。


 どうも、オレ達がただの協力者って立場だと、どうしても衛兵隊の影に隠れちまって、他の冒険者とかギルドには都合が悪いらしい。


 ここで交渉役として活躍したのが、なんとイレーヌさんだ。


 あの人は実質、フィナ達の上司的な役職だからって事で、五人分の冒険者登録とオレ達のパーティー登録を、ラクスター領に戻ったらでっち上……ゲフンゲフンッ、“日付修正して再登録”するから、それを向こうの支部長さんにきちんと口添えするよう、まずは手紙を書かせた。


 そしてそれが終わった途端、討伐と素材の報酬について本気で釣り上げ交渉をやった挙げ句、口止め料込みで大幅に金額を増やしてくれたんだよ。


 だもんで、前日にはちょっとしたプラズマ並みだったオレのお財布は、とうとう核融合炉級の熱さまで急上昇した。



 でも、それだけで昨日のイベントは終わらなかった。



 まず、ギルドとの話し合いには衛兵隊長のガルダンテさんも居たんだけど、士導院での捜査と聞き取り調査が終わったって報告を受けた。


 つまり、オレ達の足止めも事実上は昨日の午前中で終わりだったんだけど、撤収する衛兵隊と入れ替わりでここに派遣されてる 騎装士スキナー が大勢殺到して、 士導院しどういん 所属の鑑定魔法使いが犯罪で捕まった事で、自分達の鑑定結果が信用出来ないから、もう一度オレに調べてほしいって言ってきたんだ。


 でも、いちいち一人ずつ調べたらいくら時間があっても足りないから、適合は訓練次第で変化する目安に過ぎないって分かったオレ達の実験結果を伝えて、それで納得出来ないならどんなに調べても無駄って言い切って話を終わらせた……フィナが。


 これにはまぁ、かなりの説得力があったと思う。


 なにせフィナ達は士導院の鑑定結果のせいで低評価だったのに、もう派手な噂になってた衛兵隊との協同戦果が、裏付けみたいになってたからな。


 だから、口止めされてるフィナ達は苦い顔してたけど、それで一先ず再鑑定騒ぎは収まった。



 お次は、紋繰騎五騎を相手に決闘して勝ったオレに対して、難癖か回りくどい理由を付けて稽古とか模擬戦を挑もうとする、こっちの都合を全く考えないイラッとくる連中を一気に片付ける作業。


 やった事は簡単、一度に全員まとめて相手するって言って、合図と同時にそいつらを拘束魔法でその場に釘付け、これでお終い。


 後はもう、どんなにガタガタ泣こうと喚こうと完全に無視、晒し者にする為にわざと使った士導院の正門前広場で、オレ達が帰るまでゴミオブジェとして放置する事に決めた、ざまぁみろ。



 それからは、フィナ達と同じようにクソ野郎一味に言い寄られたり絡まれたりしてた、女性騎装士の人達からの感謝と妙なアピールと引き抜きなんかの攻勢を、適当に受け取ったりサラッと流したりガツンと断ったりして、派遣騎装士絡みの騒動は一応落ち着いた。



 その騒ぎの裏では、オレが使い倒した騎体から出た、一騎分ある中古の 筋線きんせん板筋ばんきん を是非とも買い取りたいって押し掛けてきた、 紋繰騎工房の人達とかフリーの 造師ビルダー さん達を、ハウザーさんが朝からまとめて相手してた。


 なんでも、魔獣討伐で最も活躍した騎体から出た中古部品は、験担ぎアイテムとして騎装士には大人気なんだとか。


 でもそれ詐欺の温床になるだろって思ったんだけど、造師には組合から発行される登録番号があって、手掛けた騎体の各部品にその番号を刻印する決まりがあるそうだ。


 そこでハウザーさんがとった売却手段が、騎体の各部ごとに分けた部品をまとめて競る、オークションだった。


 そのおかげでオレのお財布はついに、超新星級の高温に達した。


 とはいえそれも、五騎を無傷でも赤字運用してたら三年分、もし一騎でも大破させたら一年もたないくらいの額だってんだから、ホントどんだけ運用コスト高いんだって話だよ。



 とまぁ、そんなこんなあった二日が経って、いよいよ今日。



 ようやくインガルから解放されて、ラクスター領に出発する、んだけ、ど――


「後三日……うぅん、後二日あれば……」


「まぁだそんな悪足掻きみたいな事言うのか?」


――オレとかフィナ達とかハウザーさんやイレーヌさんが二日間忙しく動いてて目を離してたら、同じ間ルーナは魔導具造りで思いっきり貫徹やらかしてやがった。



 だからそれに気付いた昨日の夜、強引にふん縛って作業を強制終了させたんだけどなぁ。



「……たまには緊縛もいいねっ!」


「そりゃ貫徹ハイで勘違いしてるだけだっ!」


 興奮して結局昨日も眠れなかったこいつは今、目の下にくっきりクマ作って不健康そのものって顔して、頭おかしい事言ってる。



 ヤバい性癖の扉開こうとしてんじゃ――


「あっ、んうぅっ……」


「おい、急に身震いしてどうしたんだよ?」


「……ごめんユージ君、ボクをお花摘みに連れてって」


「はぁっ!?」


――ちょっ、お前モジモジしながら男に頼む事じゃねぇだろ、それっ!!



「フィナぁーーーーっ! 今すぐここに来ぉーーーいっ!」


「はいっ! いつでも駆け寄る貴方の忠犬っ! エルフィナ・クノックスただ今参上ですわんっ!」


「んな事言ってふざけてる場合じゃねぇっ! さっさとこいつをトイレに連行しろっ!」


「了解しましたわんっ! エリナも手伝いなさいっ!」


「わ、わかりましたっ!」


 ったくよぉ、この二日はくっそ忙しかったし精神的ストレス高かったからって、フィナまでおかしくなりやがって……。



「あっ、フィナさんにエリナちゃん、もう少し優しく持って……でないとボク、もれ……」


「お黙りなさいっ! ルーナさんっ、貴女には乙女の恥じらいや尊厳はありませんのっ!?」


 犬の真似してわんとか言ってる奴が、恥じらいなんて説教出来るのか?



「だっ、駄目だよルーナちゃん! もうちょっと頑張ってっ!」


「そんな事言われても~、もーれーそーうー……」


 なんで出発当日になって、こんな騒ぐはめになってるんだろ、ホント。



 もし出来れば、もう一日くらいはゆっくり休みの日をとって、何もしないでのんびりしたかったんだけど、インガルじゃうんざりするくらいに色々ありすぎたから、休みはラクスター領内に入って中間地点にある街でとろうって話だからなぁ。


 まぁもう決まった事にウダウダ言っても仕方ねぇし、ルーナ達が戻ってきたらとっとと出発だ。


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