古代の遺産
魔獣の大量発生、スタンピードは一応オレの脳内メモ帳にも、基本的な事は記録されてる。
発生原因も、いつ何処で始まるかも、その終わりも、発生する魔獣の種類さえ、誰にも予測出来ない、大嵐とか猛吹雪以上の大災害。
その代わり、上手く乗り切れば使った分を遥かに上回る魔石と、状態はピンキリだけど魔獣から取れる素材とか肉が、大量に得られるそうだ。
「一度スタンピードが起きると、終わるまで整備も修理も魔石の補充すら満足に出来んからな、ある程度落ち着く頃にはどの騎体もガタが来る。その時によく聞ける音と同じだったぞ」
「うへぇ……たった一回全力出すだけでスタンピード級の消耗と同じなら、見返りが無い分こっちが酷いって話だろ、それ」
「まぁ確かにその通りだが、逆に見返りが大きければお前さんだけを出す、そんな戦法もありだ」
「つまり、普段からしっかり情報収集して、稼ぎ時を逃がすなって事か」
「まともに稼げる冒険者なら、それは誰でもやってるよ」
なんだか趣味と仕事がごっちゃになってる気がするけど、仕事道具はイコール趣味を満喫する為の必須アイテムだし、そうなるのも仕方ねぇな。
「それはそうと、今日全部バラした騎体の修理は、どんな具合なんだ?」
「そっちはようやく腰骨を矯正し終わったから次は足、そしてその次に腕と首だ。お前さんは 騎装士 の嬢ちゃん達全員と一緒に、筋線と板筋の交換やってても構わんぞ」
そう聞いてフィナ達をチラッと見たら、全員揃ってしっかり頷いてるし、直接監督してなくてもすぐ側には爺さんもいるから、整備と修理は完全に初心者なオレが混じっても大丈夫だろうな。
「んー、なら明日はそうするかぁ。ところでもう一つ……いやもう二つだな、爺さん達 造師 に聞きたい事があるんだ」
「マッスルメタルと 騎導紋 の事なら、ワシよりルーナがよほど詳しいぞ」
長生きしてる爺さんより詳しいって、ホント努力の申し子だな。
「そっか、んじゃルーナに質問だ。騎導紋とマッスルメタルの大元になった古代遺産について、詳しく教えてくれ」
さっきルーナが、 紋繰騎 は騎導紋とマッスルメタルを二つ併せて使うって言ってたし、今と同じように昔もこういうパワードスーツ的な物が、きっとあったはずだ。
しかもそれがあったのは、今より遥かに魔法とか魔導具の技術が進んでた、古代魔導文明時代。
だったらその大元をより詳しく知れば、紋繰騎をもっと改良出来るはずだし、何よりもしかしたらどこかの遺跡には、動かせるオリジナルがまだ残ってるかもしれない。
なら、そんなワクワクして当たり前の魅力的なアイテム、探し出すに決まってる!
騎装士として騎体を動かすのはもちろん楽しいけど、こういう浪漫を求めて冒険者活動するってのも、たまにゃいいだろ。
「うん、いいよ。その大元は魔王って呼ばれていて、古代魔導文明が滅ぶ原因になった、七体の魔導兵器なんだ」
「えっ、魔王!?」
昔は魔王が居たってアルフェから聞いたけど、でも七体ってまさか――
「な、なぁルーナ、それってもしかして、どれも紋繰騎の三倍くらいの大きさだったのか?」
「うん、言い伝えとか文献にはそう遺されてたし、現存する魔王の残骸から予想された元の大きさはそのくらいらしいけど、もしかして知ってるの?」
「いや、知ってるんじゃなくて、送り込まれたっつーか……ついでに聞くけど、完全な状態で残ってる奴ってあるのか?」
「うぅん、無いよ」
――おいおいマジか、女神様よぉ。
デカい人型ロボ、もうどこにも無いじゃねぇか!
『あら、私は一言も“無い”なんて言ってないわよ』
うぐ……そりゃ確かに、そうだけどさ。
『それにしても、レウルーナちゃんは凄いわねぇ。まだ若いのに、自分に出来る範囲で可能な限りきちんと調べて、個人に許されるギリギリのレベルまで知ってるんだもの』
なにっ、そりゃどういうこった?
『彼女が言った通り、七体の魔王は全て魔導兵器なの。古代魔導文明の遺産は、例えばそこらの適当な遺跡から冒険者が持ち出した発掘品でさえ、物によってはとても危険だって知ってるでしょ』
おぅ、昨日のアレな。
『で、小物さえも危険なら即回収されて封印って流れなのに、紋繰騎の三倍もの巨体で、しかも明らかに兵器だって判ったら……』
あぁ、そりゃ国家機密とか軍事機密に指定されて、厳重に隠蔽管理されるわ。
『でしょ、だけど人の口に戸は立てられないから、時々チョロチョロ情報が漏れるのよ。だから、せっかく努力してここまで探り当てた彼女の話、ちゃんと聞いてあげてね』
へいへい、分かりました。
……それと、思い込みで疑って怒鳴っちまった、オレが悪かったよ。
『うふふっ、勇司君のそういう素直なところ、私は好きよ。まだこの世界に来て二日目、焦らずゆっくり楽しみなさい、それじゃまたねっ』
はぁ……別に焦ってるつもりはなかったんだけど、思い返せばたった二日でパワーアシスト技術とパワードスーツまで手に入れて、ちょっと調子に乗ってたのかもな。
つっても、この世界そのものなアルフェがあるって言うなら、探せばあるんだろうけどさぁ。
ここにきて急に、雲を掴むような話になっちまった――
「何か悩んでるみたいだけど、どうかしたの?」
「いや、ホントにもうどこにも無いのかな、って思ってさ」
――やべっ、ルーナと話してるの忘れてた!
「うーん、そう言われたらボクも確証はないけど、でも古代魔導文明が滅んでからざっと数千年くらいって言われてるし、魔王が引き起こした戦争が滅亡の原因だからね、どうなんだろ……」
「魔王が戦争起こして世界が滅んだって、なんか世界征服狙ってましたみたいなノリだなぁ」
「今も残っとる言い伝えやおとぎ話だと、まさにその通りだぞ」
えっ、まさかホントに世界征服しようとして、文明が滅ぶレベルの大戦争やらかしたのかっ!?
「なんだ、そんなに驚いた顔しおって。ルーナが言っとったろうが、魔王は古代の魔導兵器なんだぞ。強い武器を持てばそれを使って、あれこれやりたくなる奴が居てもおかしくはなかろう」
「まぁなぁ、それが世界を滅ぼせるくらい強けりゃ、なおさらか」
「いんや、魔王はただ強いってだけじゃなく、しぶとさも売りだったかもしれん」
「なんだそれ、どういう意味だ?」
「お前さんが気にしとるマッスルメタルな、ありゃあ魔王の外装を調べて造られたんだ」
なんだって!?
「え、マッスルメタルは紋繰騎の筋肉なんだろ、それがなんで大元だと外装なんだ?」
「魔王の残骸を解析した結果なんだけどね、大きな体を支えたり強い力を出す為に、騎導紋と外装と中身の筋肉、この三つを併せて使ってたかもしれないんだ」
「でもそれだと、復元能力とか爺さんが言ったしぶとさは、関係ないだろ」
「そこは生き物の肉と皮で考えてみろ。どこにも隙間はないし、どっちも一緒に動くし、その上傷付いても飯を食えば治る、それと似た事を紋繰騎よりでかい体でやったら、相当にしぶといはずだ」
「そう言われたら、その通りかもって思えるな」
なるほど、魔王は単純に兵器ってだけじゃなく、魔法と魔導具の技術で生き物の能力を再現して、武器としての強さと生物としてのしぶとさ、両方を備えてたんだな。
「まぁそれとは別で考えれば、紋装騎より遥かにでかい外装が傷付くたびにいちいち交換するより、魔力ってエサを食わせとけば勝手に直る方が楽だ、なんてのが案外大当たりかもしれんぞ」
いや、爺さんは冗談っぽく言って笑ってるけど、それはそれで正解だと思う。




