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損傷の原因 世知辛い現実


「えっ、ただ走っただけ?本当に?」


「あぁ、ホントだぞ。だからむしろ、なんで走っただけであんな事になったのか、オレが知りたいくらいだ」


 知りたいって言えばついでだけど、クソ野郎一味が使ってた時より、どの騎体も明らかに長時間動いてる謎も聞きたいけど、そいつは爺さんが何か細工してたかもしれないし、優先度は低めだ。


「そりゃ恐らく、騎体に使っとった 筋線きんせん や 板筋ばんきん の番手が、お前さんの適合に合わなかったんだろ」


「ばんて?」



 やべぇ、また謎の単語が出てきたし、そろそろホントに基礎から学ばないと、知識が追い付かなくなってきたな。



「マッスルメタルはね、柔らかさって言うか、加工のし易さとか変形する反応の良さに応じて、番号が振られてるんだよ。ねぇ爺ちゃん、あの騎体に使ったのって、何番手だったの?」


「板筋はどの騎体も全部四番手だ。あいつらではそれ以上に上げると、まともに動かせなかったからな。だから、それを知らないユージが奴らの操作をド下手と言ったのは、心底笑えたわい」



 そうか、あの時あんなに笑ってたのって、そういう意味もあったからなのか。


 んで、“ばんて”は何番目って意味そのままの、番手なんだな。


 って、それよりもだ。



「その番手は、全部で何番まであるんだ?」


「実用に使えるのは十番手まで、一~三番手までは筋線に使われてて、板筋は四番手からだよ。ついでに言っとくと、番手が上がるほど硬くなって、加工とか動作に必要な魔力が増えるんだ」


「なるほど、つまり板筋で一番柔らかい四番手は初心者用で、熟練の 騎装士スキナー ほど上の番手が合う、そういう事か。でもさ、そうするとあのクソ野郎が魔力切れ起こしたのと、矛盾してないか?」



 板筋の消費する魔力が少ないなら、もっと動いても――


「そりゃ、ワシを脅して騎体を造らせたくせに、事の露見を恐れて普段は隠しとったし、魔石は最低限しか積んでなかったんだ。それが急に使うと喚いて、騎体の状態も確認せんで飛び出してったからな、魔力切れ起こして当然だ!」


――あぁそれ、元の世界でも車とかが燃料切れ起こす主な原因の一つだ。



 なんだよ、結局はクソ野郎の確認不足が原因の自業自得だったのか、全部の 紋繰騎クレストレース が燃費悪いってわけじゃないんだな。


 ただそれでも魔力については、板筋の番手を上げたら消費が増えるし、話聞いたり騎体とか魔導具の現状から推測すると、加工に必要な分も魔石に頼ってるっぽいんだよな。


 そうでなきゃ今頃、大気中にある無属性の魔力をかき集めるとかして、色んな物のエネルギー源にしてるはずだ。


 だから、魔石をたくさん手に入れるには、魔獣を倒さなきゃダメ……。


 つまり、どうしてもコストは高くなる。


 紋繰騎を動かす大事な柱だから、使わないわけにゃいかないけど、頭が痛いぜ。



「でも、走っただけでああなったなら、接近戦しなくて本当に良かったよぉ。もしそのまま戦ってたら、途中でどこかが駄目になって……」


「あのトカゲ共って、やっぱ凶暴なんだな」


「数多の言を重ねるまでもなく、その通りですわっ! トライデントリザードを相手に戦う紋繰騎や騎装士が、毎回どれほど犠牲になるかをご存知であれば、ユージ殿でさえお一人で正面から挑む蛮勇は避けたはずですわ!」


「……なぁフィナ、もしかして元々はその口調なのか?」


「違いますわ。一度こうなってしまうと、しばらく元に戻りませんの」


 なんだかまるで、方言がキツい地域出身者が普段は標準語喋ってるけど、しばらく地元に戻ったら方言が地の口調になっちまって、標準語に直らないみたいな感じだな。


「話の途中で悪いがな、ユージは専用の騎体を用意するまで、緊急時を除いて出撃禁止だ」



 げっ、やっぱそうなるかぁ……。



「分かった、しばらくは騎体と 騎導紋ガイスト の勉強するよ」


「ユージさんはあれだけ趣味に拘ってたのに、出撃禁止には素直に従うんですね」


「そりゃあオレだって、ホントは思いっきり動かしたいさ。けどなエリナ、世の中何をするにも基本的には金が必要なんだ」


「えっ、お金ならトライデントリザード三体とスロウホースの群れで、かなり余裕出来るはずですよね?」



 それだけじゃないぞ、手元で自由になる金で言えば、鎧賊共の捕縛報酬と戦利品を売却した分もあるから、確かに余裕はかなり出来たはずだ。



「だけどその金は、オレ一人で好き勝手に使えるわけじゃない、今持ってる紋繰騎は五騎、それ全部に金がかかるんだよ。なのに、一度動かしたら筋線も板筋も全部交換しなきゃいけないとしたら、あっという間に全財産が吹っ飛ぶぞ」


「でもそれはゴロンゴさんが言ってた、板筋の番手を上げれば……」


「それがさぁエリナちゃん、今使われてる四番手が最高の品質だと仮定して、例えば一番上の十番手で最低限の品質でも、値段の差は三倍以上するんだよね」


「さっ、三倍っ!?」


「なっ、簡単に交換したらはいおしまい、なんて楽に事は運ばねぇんだよ。だからオレは色々勉強しながら、爺さんがわざわざ言った専用の騎体ってのを、ワクワクしながら待てばいいんだ、気にしてくれてありがとな」


 普段から整備とか修理の補助やってるフィナ達でも、流石に素材とか部品の値段までは知らなかったらしいな、みんなビックリしてるよ。



「ふむ、こりゃかなり期待されとるな」


「そりゃあそうさ、でなきゃ爺さんなら別の騎体って言葉で終わらせてるはず、そうだろ?」


「ぶわっはっはっは! おうおう、その通りだわい! 見てろよ、ユージ! お前さんが全力で動かしても使い倒せない騎体を、必ず造ってやる! 約束だぞ!」


「わぁ、こんなに気合い入ってる爺ちゃんなんて、初めて見たよ。それならボクも、弟子として頑張らなきゃっ!」


「あ、気合い入れてるとこ悪いけどな、ルーナにはまた新しく魔導具造ってほしいんだ」



 おぉう、魔導具って聞いた途端に、ルーナの目がギラギラ輝き始めたな。



「なになにっ! またって今度は何造ればいいのっ!」


「探索魔法の魔導具だ、しかも五騎全部に載せる分な。必要な金とか素材は、オレに言えば出してやる、どうだ?」


「やるやるっ! ボクそっちもやるよっ!」


 おいおいっ、そっち “も” って事はお前、魔導具造り以外も普通に全部やる気かっ!?


「いやいやっ! 普段の整備とか修理に、オレ専用騎と魔導具までって、いくらなんでも欲張り過ぎだろ! せめて整備と修理はオレに、専用騎は爺さんに譲れ!」


「えぇーっ!? ボクを除け者にするつもりなのっ!?」



 馬鹿野郎っ!


 除け者じゃねぇ、オーバーワーク対策って言えや!



「人聞き悪い事言うな! お前が働き過ぎて倒れないか心配してんだよ!」


「そっ、それは……」


「言葉に詰まるって事は、前に何かやらかしたな、爺さんなら知ってるだろ?」


「おうともさ、ルーナは……」


「わーっ! わーっ! 爺ちゃん言っちゃ駄目っ!」



 はっはっはぁ!


 ルーナの弱味、発見だぜ!



「なら今は聞かないでおいてやる、その代わりお前はしばらく魔導具に専念しろ、いいな?」


「うぅ……分かったよ。でもそれが済んだら、必ず手伝うからねっ」


「なんだ、聞かんのか。どうせいずれは知るんだし、それが早いか遅いかだけだろうにな」



 オレが知ったらもう弱味じゃなくなるからな、そいつは爺さんの頭の中にしまっといてくれ。



「それよりさ、爺さんはあの音聞くのオレで三回目って言ってたけど、前の二回はどんな状況だったんだ?」


「それならどっちも魔獣の大量発生、スタンピードが起きた時だ」


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