意外な全損
「はー、もうすっかり真っ暗だな」
凱旋自体は略式らしかったからサッと終わったけど、帰り始めの時点で夕暮れだったのが、完全に夜になっちまった。
地球だと街中ならどこにでもある街灯はこっちじゃ一つも無いし、部屋の灯りを通す透明なガラス窓は裕福さの象徴だから数が少なくて、インガルみたいなデカい街でも無条件で頼りに出来る明るさは、得られない。
つまり、本来なら日が暮れる前に必ず帰るべき。
なんだけど、遅くなっちまったのは仕方ないから、とにかく気を付けて戻るしか――
「あ、ゴロンゴさん達が 篝火 を用意してくれたみたいですね」
「ふぅ、事前に準備してくれて助かるぜ」
―― 士導院 の敷地入り口から 駐騎棟 まで、等間隔に置かれた篝火のおかげでかなり明るくなってる。
出撃中はテンション高くて気にならなかったけど、流石に今は疲れた感覚が強くて集中力が途切れそうだったし、もうすぐ帰れるって気分で持ち直せるから、ホントにありがたいな。
「帰りを待っててくれる人達がいるのって、嬉しいですね」
「あぁ、そうだな。さぁて、アリス達の為にもさっさと魔法解除したいし、もう一頑張りだ」
つっても、敷地に入れば足元だってもうバッチリ見えるし、表通りを歩くより遥かに速く――
「ユージ! 中に入って、今すぐ騎体を止めろ!」
「お、おう」
――なんだ、爺さんがわざわざ建物の外まで迎えに来たと思ったら、急にそんな指示出すなんて、留守中に何かマズい事でも起きたのか?
よし、整備台座に駐騎して胸部外装開いたら、 騎導紋 の魔力接続を解除して、停止プロセスは完了だ。
「騎体が無事とは到底言えんが、本人はどこもケガしとらんようだし、まぁよしとするか」
「えっ、騎体が無事じゃないって、別にどこも攻撃とか受けてないし無傷のはず……」
「おーい、ルーナ! ユージが珍しい損傷抱えて帰って来たぞ! こっち来て調べてみろぃ!」
はぁっ!?
騎体が壊れてるだって!?
「おっ、おい爺さん! 壊れてるって一体どこがだ! オレもそこ見たいから、早く固定外してくれっ!」
「今外してやるから、ちと落ち着け。それとな、いくら見たくてもこの損傷は目に見えんから、お前さんも鑑定魔法で調べてみろ」
「目に見えない損傷……じゃあ、爺さんは音で判ったのか」
「そうだ。この音を聞いたのは三度目だが、お前さんが見た目は普通に歩いとったから、ワシの耳がおかしくなったかと思ったわい」
いやいや、そんな満面の笑顔で言われたらさ、真正面からトカゲ共と戦ったわけでもないのに、騎体が壊れてるって聞いた、オレの耳がおかしくなったと思っちまうぞ?
「【鑑定】……うわぁ……凄いね、これ」
「そうだろそうだろ! 馬捕まえに出ていって、一体何をしたらこんな有り様で帰ってくるのか、ワシゃ気になって仕方ないわい! ……ほれ、固定全部外したから、後は自分の目できっちり調べろ!」
あーもう、そこまでボロクソに言われたらオレの方が気になって仕方ないっつの!
……うん、念の為に確認した外装全体の目視チェックはクリア、どこにも損傷は無しだ。
爺さんが音で判った目に見えない損傷って事は、つまり内部の動作する部分を指してるのか――
「【鑑定】……なんだこりゃあっ!?」
――魔法使って表示された結果は悲惨そのもの、外装の下は損傷だらけっつーか、してない部分が無かった。
「ま、人間で言うなら極端な疲労で全身ボロボロ、歩くどころか立つのも辛いってところだが、本当に何をしてこうなったのか全く分からん!」
そう言いながら手早く外装の一部を外した爺さんは、剥き出しになった損傷部分、あの謎の金属板をコンコン叩いて笑ってる。
「その金属板、一体なんなんだ?」
「こいつは 紋繰騎 にとっての筋肉、 板筋 だ」
「ばんきん?」
「別名マッスルプレート、他にも魔導筋肉とか魔法筋とか魔力筋なんて呼ばれてる、魔法金属の一種だよ」
「よその工房や錬金師の呼び名はどうでもいいわい、板の形した筋肉だから板筋で構わん」
魔力を貯めてたからバッテリーの役割かと思ってたら、駆動系の板バネだったのかよ。
「じゃあその板筋に繋がってたワイヤーは、ありゃなんだ?」
「あれも同じ役目の 筋線 だ」
「筋線と板筋を合わせて、マッスルメタルって名前で売られてるから、素材として買いたいならちゃんと覚えてね」
なるほど、全金属製の筋肉が疲労してるから、目に見えない損傷として鑑定結果に出てるのか。
「なぁその、マッスルメタルの特性って簡単に説明出来るか?」
「おうとも! こいつは魔力を与えると、元の形に戻る復元能力を持っとるんだ」
「形状記憶合金かよ……」
「もしかして、ユージ君の世界にも同じ性質の金属があったの?」
「あぁ、あったぞ。ただしあっちのは、魔力じゃなくて熱に反応するし、こんな巨大な物動かせるくらいの力は無いんだ」
ホント、聞いてビックリ見てもビックリだ!
まさか、魔力で形状変化する金属で、駆動系を構成してるなんてなぁ!
でも待てよ、いくら魔法のあるファンタジー世界の金属でも、限界はあるんじゃないか?
「なぁ二人とも、マッスルメタルは魔力を与えたら元の形に戻るって言ってたけど、こんなに分厚い金属板じゃ魔力を抜いても最初の形には戻らないか、戻るとしてもかなりゆっくりになるんじゃないか?」
昼にバラされてたイリアの騎体に付いてた板筋は、どれもこれも弾性なんて考えられてなさそうな厚みと大きさだったし、目の前で動いてるのを見て、自分でも動かしたからはっきり分かる。
マッスルメタルは、金属としての弾性や塑性っていう性質からは信じられないくらい、異常な柔軟さを持ってるらしいけど、魔力を与えたら素早く形状が復元するとしても、使ってる金属の形状とか特性を超えた動きは不可能なはずだ。
それも、魔力がある状態ならともかく魔力が抜けた後じゃ、それこそ魔法でも使わなきゃ――
「同じ魔力で働く騎導紋がその質問の答えでな、あれは謂わば騎体を支えるもう一本の柱だ」
「紋繰騎はね、マッスルメタルと騎導紋の二つを併せて使って、それで初めて動かせるんだよ」
――マジか、ホントに魔法使ってやがった。
「んな事より今日はもう終いだ、まずは食堂行って晩飯にしよう」
「そうだね、それにアリスさん達もずっと食堂に閉じ込められてるようなものだし、早く行って安心させてあげようよ、ユージ君」
あ、そういやそうだった。
騎体降りる前はさっさと魔法解除しようなんて言ってたのに、ついつい好奇心優先で行動しちまってたな。
「そうだ、食事の後で疲れが酷くなかったら、何してあんな事になったのか、詳しく聞かせてよ」
「少し疲れちゃいるけど辛いってほどじゃないし、オレも二人に聞きたい事があるからいいぜ」
「そりゃ構わんが、せめて飯食ってる間は待つんだぞ、でなけりゃ忙しなくて敵わんわい」
「はいよ、もちろんそうするさ。にしても、アリアには騎体ぶっ壊した事、謝らないとなぁ」
「馬鹿もん、ありゃ壊したとは言わん、使い倒したんだ。 騎装士 や 造師 にとっては、存分に動いてくれた騎体を誉めるべき事だぞ、よく覚えとけ」
あんだけ損傷の嵐だったのに、そんなにいい笑顔でそう言われたら、もう苦笑い返すしかねぇよ。
はい、というわけでトライデントリザード戦での遠距離魔法攻撃という、勇司君の選択が大正解だった理由があっさり判明しました!




