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エッジシューター


 トライデントリザードは三匹揃って空きっ腹、だからスロウホースの群れを狙って追っかけてたのに、目の前に馬より遥かに遅い人間が山ほど居たら、そっち目当てに襲撃仕掛けるかも、って事か。


「なぁフィナ、あいつらって弱点とかあるのか?」


「えぇ、あります。奴は水属性や、その上位の氷属性の魔法に弱いですわ。ですけどそれも近距離での話でして、近付けば尻尾や三つの首で激しく攻撃してくるので、接近するのは危険です」


 そうかそうか、なら遠距離戦でいこう。


「リッシュ、馬寄せってのをここから出来るか?」


「ごめんなさい、もう少し近くないと確実な効果は期待出来ません」


 ふーん、それならやってもらう事は一つだな。


「一体どうするつもりなんだ、ユージ殿」


「みんなは馬寄せの範囲内まで、そのまま進んでくれ。オレは左にある程度逸れたら、魔法を撃つ準備をするから、スロウホースの進路をずらしてほしい。群れが動いたら、すぐさま攻撃する」


 今のオレ達は、魔獣共から見て左斜め前から接近してるし、先行してるスロウホースの群れを上手く誘導してやれば、土煙で視界を遮られて無防備なまんま突っ込んでくるトライデントリザードを、魔法を使った遠距離攻撃で真正面の安全地帯から全力で叩き潰せる。


「そんなっ! たった一人で三体を相手するなんて自殺行為だぞ!」


「大丈夫だよ、奴らが遠い内に仕留めるからさ。だから頼むぜ、きちんと群れを真正面からどかしてくれよな」


「……やりましょう。ただし一当てして無理でしたら、その時は何があろうと全騎で対処します、いいですわね?」


 フィナが隊長としての判断早くて、ありがたいな。


 それに仲間から信用されて任せられるのも気分いいし、サクッと決めちまおうか!


「了解っ! んじゃ行ってくる!」


 もうみんなと足並み揃えなくていいし、ちょっとだけ全力疾走してみようっと!


「うぉっ! なんっだあの速さっ!!」


「ひぇぇっ!」


 ビックリさせて悪いけど、角度とか距離考えるとあんまり時間無いからな、さっさと行ってとっとと準備だ!


 トライデントリザードの弱点は水か氷属性、でも今回は速度重視で攻撃するから氷の出番は無し、高い威力と低い魔力消費を両立させるなら、選ぶ魔法はたった一つ!


「よっし、トカゲ共の真正面ドンピシャ!」


 あ、そういや、こうして乗ったままで魔法が使えるのか聞いてなかったな。


 けどもう聞いてるヒマなんかねぇし、騎体ぶっ壊したくないし……なら、胸部外装を開いて――


(発動待機 【水刃】)


――数は少し控え目の、百発にしとく。


 後は、スロウホースが退くのを待つだけだ。



 お、向こうのみんなが位置に付いたな。


 陣形はリッシュを中心にベルドさん達が左右二騎ずつ、その更に左右にフィナとエリナが並ぶ、半円の形か。


 さぁて、馬寄せってのがすぐ発動するのかどうか――


「はははっ! すっげぇなぁ、リッシュは!」


――陣形整えてから多分、十秒も経ってないのに、もうスロウホース達が進路変え始めた!


 よしよし、後少し……もうちょい……今だっ!


「ぃよっしゃあっ! 正面ガラ空き撃ち放題っ! 待機解除っ【水刃】百連射ぁっ!!」


 まぁ連射っつっても実際、合図と同時で百個の水球から一斉に水の刃が一直線でカッ飛んでくから、多少の誤差はあっても全部同着だけどな。


 水刃のトップスピードを活かした超高速の雨だ、相対速度も合わせたらとんでもない威力だろ、なぁ一瞬で蜂の巣にされたトカゲ共。


 インガルにも、そしてすぐ近くにも、守りたい仲間達が居るんだ、言葉も通じない上にお互い絶対相容れないもん同士なら、オレは躊躇いも容赦も一切しねぇよ。


 さてと、んじゃまだ遠視魔法の効果続いてるし、このまま索敵しながら向こうに合流しよう。


 あぁそうだ、今さらだけどついでに探索魔法使って、全周索敵もしとくか。


「【探索】……っと騎馬隊の人達も無事だな」


 範囲内にある反応は、青色のフィナ達と白色の衛兵さん達に紫色のスロウホースの群れ、そして紫と黒の点滅で表示されてるトカゲ共だけ。


 まさか、今近くに他の魔獣が全然いないのって、実はあのトカゲ共が来たからか?


 普通の動物だって、身の危険を感じればさっさと逃げ出すから、十分あり得る話だ……いや、素人の思い込みは良くないな、戻るまでは警戒続けても損はないし、帰ったらフィナ達に確認しよう。


 にしても、魔獣はこの世界に来て初めて見たけど、生きてるかどうかに関係なく紫なんだな。


 ……あ、なんか久しぶりな感覚がする、脳内メモ帳が発動した。


 なるほど、魔獣は体内に魔石があるせいで、倒した奴にも紫の反応が残ってるから、探索魔法は仕留めた獲物を探すのにも便利、か。


 って事は多分、取り出した魔石はアイテム化するから、探索魔法に引っ掛からないんだろう。


 そうでなきゃ、魔導具のエネルギー源として魔石が山ほどある人の住んでる場所なんて、どこも紫反応だらけになっちまうもんな。



「ただいまぁ~」


「いやぁー、本っ当に凄い男だ! トライデントリザードは、一体に付き五騎以上で相手してようやく互角って言われるのに、たった一人の魔法の一撃で三体全滅って、凄すぎだっ!」


 おぉう、遠くから見てたし大丈夫だとは思ってたけど、むしろ安心出来る距離だったからかテンション高いな。


「あっ、あのっ! さっき使った大魔法って、何ですかっ!」


「いやあれ大魔法じゃなくて、ただの水属性魔法の水刃だけど?」


「えっ!? 大型魔獣を一撃で全滅させたのに、あんな威力でただの水刃なんて、あり得ませんよっ!! 大体、水の刃なのにちっとも切ってないじゃないですか!!」


 ほほぅ、かなりデカいとは思ってたけど、トライデントリザードの分類は大型魔獣なのか、この辺もどんどん勉強しないとなぁ。


「いやいや、確かに水刃は切り裂く魔法だけど、ただの水が物を切れるくらいの速度で飛ぶんだし、速さを活かすのが一番だろ。それにな、切るって事は当たってる部分をずらしてるんだぞ、そうやって常に無傷なとこを攻撃してくのと、一度付けた傷をどんどん深くするの、どっちが楽に相手を倒せるか明白じゃないか」


「えぇ~……僕が習った魔法の使い方と、全然違うぅ~……」


 そりゃ多分、この魔法はこう使いますって教科書通りのやり方しか頭に入ってないだけだ、道具も魔法も工夫次第でゴミにもお宝にも化けるから、もっと柔軟に考えた方がいいと思うぞ。


 なんて、上から目線で偉そうな事言うのもなんだし、密かに頑張れって応援だけしとく。


「いやはや、ユージ殿は凄まじいな! トライデントリザードを全て倒してくれたおかげで、安心したスロウホースの群れは残らずこちらで捕まえられたし、今日はインガルの歴史に記されるほどの大収穫だ!」


「ちょっとちょっと、ベルドさん! あんまり持ち上げないでくれよっ! オレ一人の手柄じゃないでしょっ!」


 スロウホースを見つけたり、森に逃げられないように見張ってるのは騎馬隊の人達だし、群れを全部捕まえたのはオレ以外のみんな、特にリッシュの馬寄せが効果を発揮した結果だし、この後だって倒したトカゲ共を運ぶのも、手を借りなきゃ出来ないんだからさぁ!


 オレだけ誉められても恥ずかしいだけだっての!


 でもここで、もっとはっきり言っとけば良かったって後悔するのは、この時のオレにゃ先に立たずって奴だ。


 だって後日、いつの間にかステータスに 〔刃の射ち手〕 って称号が付いててビックリして調べたら、誰が言い出したのか知らないけど、世間じゃオレを“エッジシューター”っていうこっ恥ずかしい二つ名で呼んでたなんて、これっぽっちも思ってなかったからなぁ。


トカゲ「目の前のエサ追っかけてたら蜂の巣にされたでござる」


勇司君「物理で殴ると思ったか? 魔法攻撃だっ!!」


実は、この勇司君の選択は大正解だった事が、後のお話で判明するんです。

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