魔獣との遭遇
「衛兵隊の皆様、お待たせしました。ラクスター侯爵家所属 騎装士 三名とユージ殿、只今到着致しましたわ」
おっと、動きで舐められないように整列して――
「なにっ! 兄さんは騎装士だったのか!」
「その声っ、審判役の衛兵さんっ!」
――なんだよ、そっちこそ騎装士だったんじゃないか!
「おいベルド、どうした?」
「いや、どうしたもこうしたも、この騎体動かしてるユージ殿こそ、昨日の決闘の勝者だよ!」
「なんだって! じゃあこの四騎は……」
「そうだ! 紋繰騎 五騎を相手に本人はかすり傷一つ負わず、全てを鮮やかな戦いで制した、彼の戦利品さ!」
や、あの、ちょっと待って!
そこまで持ち上げられると恥ずかしいからっ!
「そいつはすげぇ! ユージ殿っ、握手してくれっ!」
「ぼっ僕もお願いしますっ!」
「俺も頼むっ! 妻と息子に自慢したいんだっ!」
うわ、うわぁ……。
有名人に握手求めるのって何が楽しいのか分からなかったけど、それ知るより先に握手求められる側になるなんて、ちっとも思わなかった。
「あら、やはりユージ殿は大人気なのですね。女性騎装士より注目されるなんて、少しばかり妬けますわ。私の名はエルフィナ・クノックス、ラクスター侯爵家所属の紋繰騎第05小隊の、隊長を務めております」
「おっと、これは失礼した。自分の名はベルド、インガル衛兵隊における今月の紋繰騎担当第四班で、今回限りの班長を務めている、よろしく頼む」
おぉ、ポンコツったり意味不明な発言してたフィナだけど、こういう場だと生まれながらの貴族らしい、堂々とした名乗りが出来るのか、口調もなんかお嬢様っぽくなってるよ。
それに審判役の衛兵さん、ベルドさんもまとめ役する立場なんだな、気さくに話し掛けてきてたから、そんな雰囲気全然感じなかった。
でもまぁ、フィナのおかげでこの場は一応収まったな、もし胸部外装をこのまま開けたら、流石に 紋纏衣 無しで動かしてるのがバレるだろうし、そうなったら確実に面倒な話になるから、助かった。
にしても、二人の名乗りだけでも、気になる事が色々あるなぁ。
ラクスター侯爵家所属の紋繰騎隊って総数何騎で騎装士は総勢何名なのかとか、インガルの衛兵隊って月ごとに紋繰騎担当が替わるのかとか、他にもあれこれ。
スロウホースの群れが近付いてる状況じゃなきゃ、それこそ何時間でも根掘り葉掘り聞きいてみたいし、紋繰騎談義もしてみたい。
けど、今は我慢だ。
「それで、スロウホースの推定現在位置は、掴めているのですか?」
「えぇ、もちろん。南東の平原とインガル北部の森を結ぶ、大体あの辺りを今も移動中だ」
ベルドさんが指差したのは、オレ達が集まってる辺りの真横、外壁に沿ったその先だった。
「それは少々困りますわね、このままですと森へと逃げてしまいますし、少し急ぎましょう」
「その点は心配ない、森側には少数だが騎馬隊を勢子役として配置してあるんだ。どうやらガルダンテ隊長は、出来るだけ多く捕まえたいらしい」
そりゃあな、オレ達が協力する見返りに捕まえた内の6割を報酬として差し出すんだから、手に入る数は多ければ多いほどいい。
「そうですか。ですが、騎馬隊の皆様にあまり負担をかけるのも良くありませんし、そろそろ参りましょう」
「衛兵隊への気遣いに感謝する。ところで、そちらは全騎武装のみのようだが……」
「急な協力要請でしたので、あいにくと網や縄の用意が整いませんでしたの。ですから私達は追い込み役と馬寄せに徹し、捕獲はお任せ致します」
「おぉ、牧場勤めの経験者がおられるのか! それは実にありがたい! 我らが衛兵隊長殿が無理を申し出たようですまんが、重ねて協力を願う。報酬については、私からも強く言っておこう」
ありゃま、急いで出撃したから馬捕まえる道具なんて持ってこなかったし、何か文句言われるかと思ったら、逆に衛兵隊長さんの落ち度扱いになっちまったか。
それにしても、牧場勤めの経験者ってだけであんなに喜ばれるとか、その馬寄せってのはなんだろな?
単に動物を動かす掛け声とかなら、真似すりゃ誰にでも出来るだろうからそこまで喜ばれるわけないし、また何か魔法だとか特殊スキルみたいなファンタジー技なのか?
「……よし、では大まかな役割も決まった事だし、出発しよう。駆け足用意!」
おおっと、ボケッとしてたら置いてかれるな、フィナは全体号令をベルドさんに任せるつもりらしいし、オレもさっさと従っとこう。
「かけあーしっ! 始めっ!」
ほいほい、駆け足駆け足っと。
おっとっと、あんまり力むとあっさりみんなをぶっちぎりそうだ、もうちょい抑えて――
「おぉ、実に滑らかな動作だ! まるで熟練の騎装士が騎体を踊らせているように見えるぞ!」
「わぁ! こんなに上手な操作、僕初めて見ましたよっ! 凄いですね、ユージ殿っ!」
「むむっ! それは俺も見たいっ! ユージ殿は最後尾だし、何とか前に来てくれんかな」
――おいおい、ちょっとよそ見して走れるくらい操作は上手いんだろうけど、あんまりこっち見んなよ、恥ずかしいだろっ!
「しっかり見られていいなぁ。ユージさん真後ろだから、足音以外何も分からないよ」
こらエリナ、便乗して後ろ向こうとするなよ、危ないぞ。
うーん……駆け足だとさっき先導してくれた衛兵さんの馬より速いみたいけど、やっぱ揺れは深刻な問題にならないのか。
ホントに 騎導紋 って、不思議だけど良く出来てるよなぁ。
「ベルド殿、どうやら推定位置より群れの先頭が近いようですわ、どう致しますか?」
へぇ、どれどれ、走るライン取りを少しずらして……あぁ、あの派手な土煙がそうか。
よし、見通し効くなら魔法で偵察だ!
「【遠視】」
「えっ!? ま、魔法で見るんですか!?」
「っかぁ~! それだけ騎体操作が上手くて、その上魔法も得意ときたかっ! ユージ殿っ、あんたすげぇ男だな!」
だから、あんまり持ち上げるなっての、恥ずかしいんだよっ!
それより……えーと、大体どのくらいの数か――
「ん、群れが二つに分かれてるぞ。数が多めな先頭集団と、ちょっと離れて第二集団って感じだ」
「ひょっとして、ずっと走ってて疲れたから遅れてるんでしょうか?」
「いや、どいつも必死そうに走ってて……あ、群れの後ろ、なんかデカいのがいる」
――馬に詳しいらしいリッシュに応えてたら、変な奴がスロウホースを追い掛けてるのが見えた。
「すまんが、もう少し具体的な報告を頼む」
「了解。えー、首が三つあるデカいトカゲが全部で三匹、第二集団の少し後ろを追走してる」
「三つ首の巨大なトカゲ、だと……」
「まさかっ! トライデントリザード!?」
「しかも三体だってぇ!?」
おぉなんだなんだ、もしかしてヤバい奴なのか?
「くっ! 巡回騎馬小隊は何を見てたんだ! こんな脅威をみすみす見逃すとはっ!」
「いや、オレは遠視の魔法で見てるから両方ともはっきり分かるけど、スロウホースが上げる土煙も、そのトライデントリザードってのも、どっちも同じ茶色だ。遠く離れてる状態で目視だけなら、見落としても仕方ないよ」
インガルを守る衛兵隊に見落としは許されない、怒ってるベルドさんはそんな雰囲気だけど、群れを発見した騎馬隊は遠距離で確認しただけらしいし、天然のカモフラージュが邪魔してたらどうしようもないだろ。
「……そうだな。ユージ殿、報告ありがとう」
「それで、どう致しますか? 群れを諦めて迎撃戦に移るか、あるいはインガルへの影響を除く為に遅滞誘導戦を展開するか。早目に決断しませんと、未だに捕食出来ないスロウホースから狙いを変えて、都市を襲いに来るかもしれませんわ」
そうか、あのトカゲって肉食なんだな。




