裏ワザ的出撃準備
「申し訳ありません、ユージ殿」
オレに断りもしないで勝手に交渉したみたいに思ってるなら、それは違うよ。
「いやいや、まだまだ世間知らずなオレじゃいいように使われてたはずだし、助かったよ」
「その点のみでしたら、失敗もまた良い経験ですと後ほど諌める事も出来ますが、あの条件から始めて報酬が六割というのは、明らかに私の力不足です」
えっ、あれからまだ報酬釣り上げるつもりだったのっ!?
怖っ! プロの執事さん怖っ!!
「え、えーと……とりあえず、さっさと準備して出ようか」
「はい。しかしその前に、ユージ殿が先ほど使っておられた何やら空間に影響するらしい魔法ですが、具体的にはどのような効果なのですか?」
「え、もしかして気付いてたの!?」
「えぇ、突然外の様子を探れなくなりましたので、私とイレーヌは気付いておりましたよ」
マジかぁ……。
チラッと見たら、イレーヌさんも黙って頷いてるし、この二人だけホント別格だなぁ。
「……さっきのは空間封鎖魔法、文字通り指定した空間を封鎖して、出入り出来なくする効果だよ」
「なるほど、つまり単純に立て籠るには丁度良い手段ですな。では四人が出撃した後、その魔法を……」
「それはいいけど、オレも出るから残りの三人を決めようよ」
「む? 話では 紋繰騎 のみで全騎出撃だぞ、お前さんはまだ 紋纏衣 が無いから居残りではないか?」
「さっき証拠を見せるって言ったろ、ついでだからそれも片付けちまうのさ」
はははっ、爺さんはさっぱりわけが分からねぇって顔してるけど、オレの思い付きで今から始める事見たら、きっとビックリするぜ。
「とにかく、まずは誰が出るかを決めるけど、オレとフィナとリッシュは確定だな」
「リッシュは分かりますけど、本当に私でいいんですか?」
「何言ってんだよ、みんなのまとめ役なんだから真っ先に頼るに決まってるさ、よろしくな」
「はいっ! ふつつか者ですけど、末永くよろしくお願いしますっ!」
「ふつつか者って……まぁいいや。それで後一人、どうする?」
残り一枠はエリナか、それともアリアとイリアのどっちか一人だけど――
「……ユージさんは私の騎体を使って」
「……今回はエリナに譲る」
「それでいいのか?」
「「私達は、出撃準備した後のゴロンゴさんとルーナちゃんを守る」」
――うーん、あの魔法は指定した空間を封鎖するんだから、外に出た後で駐騎棟全体を対象にしてもいいんだけど、気合い入れてそこまで言うなら二人に任せるか。
「よし分かった、頼りにしてるぞ、アリア、イリア。もちろん、エリナもな」
「「任せて」」
「はい! 頑張りますっ!」
「んで爺さんでもルーナでもいいけど、 紋纏衣 に使ってる魔法紋章を貸してくれ」
「そいつは紋纏衣のも騎体のも全く同じ 騎導紋 だからすぐに用意出来るが、どうするつもりだ?」
んー?
どっちも同じ魔法紋章だって?
確かアリアの話じゃ、紋纏衣と騎体の両方に刻まれた騎導紋を魔力的に接続して、 騎装士 の意志を伝えるってのが操作方法のはずだけど、それでもなんで同じ物なんだろ……?
って、今はそんな事より――
「まずは準備を始めようぜ、どうするかはその時のお楽しみってな」
「むむ……そうだな、衛兵隊に遅れをとるわけにゃいかんか」
「それじゃあボクは、騎導紋を用意するよ」
「ならワシは、内装調整するとしよう」
「「私達もお手伝いします、ゴロンゴさん」」
――急に思い付いたんだし、何もなければのんびり試す予定だったけど、自分からやるって言ったんだ、ぶっつけ本番なのは黙って見逃してもらおう。
「んじゃアリス、行ってくるぜ」
「いってらっしゃい、ユージさん」
そして、魔法で食堂を空間封鎖した後は一目散、さっさと駐騎棟に行って出撃準備をする。
目の前には、乗りたくて動かしてみたくて仕方なかった、紋繰騎のコックピット。
その内装を、爺さんとアリア達が大急ぎでオレの体格に合わせて調整してくれてる。
「お待たせっ! これが騎体用の騎導紋、その全部を収めた記録魔晶だよ。魔力を流して騎導すれば展開されるから、試してみて」
ルーナから手渡されたのは、透き通った宝石みたいに青い色した、手の中サイズなガラス風の球っころだけど、この中に四~五メートルクラスの騎体に使われる大きさの騎導紋が入ってるなんて、不思議だな。
魔法に必要な実行式とか、それを構成してる魔号については、脳内記録にちゃんとある。
魔力を通じて世界の理に干渉する為の記号、組み合わせ方式のアクセスキー。
それが魔号だ。
そして、魔号を複雑にかつ丁寧に、それでいて淀みなく魔力が流れて円滑に制御出来るように、目的に沿って組み合わせられたプログラムコード。
それが実行式だ。
んで魔法紋章技術ってのは、これまで魔法使いの頭の中だけで使われてた実行式を、魔力を通しやすい素材に刻んで魔導具に仕立てる為の手段。
古代魔導文明の遺産を解析した結果から生まれた……いや、再現された便利な技術だ。
それをオレは今から真逆な手順で、魔法使いと同じように実行式を読み込んで、騎導紋を直接この神体に、脳内に刻もうとしてる。
まぁ、記録容量は大丈夫だろ、さっきステータス設定した時に余分に空けといた読み取り許可領域は、そこそこ余裕持たせたからな。
もし問題があるとすれば、神体が紋纏衣の代わりになるのかってのと、きちんと騎体との魔力的接続が出来るのか、そのくらいだ。
「よし、じゃあ早速読み込むぞ」
「読み込むって、まさか……」
「騎導」
魔力を流して騎導した瞬間、オレの立つ真正面には魔晶をレンズにして表示したホログラムみたいに、魔力の光で描かれてる騎導紋が展開された。
輪郭は力強そうだけど、直線が多くて生物的な温かみは少ない人型、大きさは普通の人間と同じ、髪が無くてツルッとした頭には省略された記号みたいな目と耳と口はあるけど、なんでか鼻だけが無い。
四本の手足にはちゃんと、全部の指まで揃ってるのにな。
でも、一番気になるのは、胸部の空洞だ。
そこだけぽっかり穴が空いてて、実行式どころか魔号の一つも存在しない。
「なぁ、この胸のとこの穴って……」
「ごめんね、爺ちゃんもボクも、それと多分この世界の誰も、その穴の事は分からないんだ」
「そうか、ならこの出撃を終わらせた後で、じっくり調べてみようぜ」
さてと、そんじゃとりあえずは、騎導紋を読み取り許可領域に取り込むとするか。
つっても作業は簡単、空いた片手で人型の輪郭に触れたら、丸っとコピペであっさり終了だ!
「……うん、問題ないな」
「もう気付いちゃったけどさー、まさか普通の魔法と同じように騎導紋を扱おうとするなんて、ほんとにとんでもないね」
「よしユージ、内装調整の仕上げやるぞ」
「はいよ! ルーナ、記録魔晶返すぜ」
「うん……ユージ君、気を付けてね」
心配顔なんてちっとも似合わないルーナの頭をポンポン軽く撫でてやってから、爺さんやアリア達が待つコックピットに向かう。
さぁ、いよいよ搭乗だ!
爺さん「お前さんが操れる騎体は無い」
勇司君「なら裏ワザ使って出撃するぜ」
身バレ回の時に勇司君が思い付いたのは、こんな裏ワザでした。




