用意周到な身バレ
『はい、ちょっと待った』
おぉう、また唐突だなアルフェ。
あ、流石に身バレはマズいのか?
『私は勇司君に“好き勝手自由に生き抜いて”って言ったのに、その程度で口出さないわよ。でも、このままだとレウルーナちゃんだっけ、その子が泣いちゃうから出てきたの』
そりゃどういう事だ?
『貴方の身体は神体よ、人間の使う魔法や魔導具なんて一切通じないのに、鑑定させたら……』
げっ、それじゃ頑張って魔導具造ったルーナの努力と苦労を否定しちまうじゃねぇか!
『落ち着きなさい、可愛い坊や。一先ず、思考速度を十万倍に上げて、猶予を創るのよ』
お、おう……よし、いいぞ。
『そしたら後は魔法で誤魔化すなり、神体能力に読み取り許可領域を設定するなり、自由にしたらいいわ』
えっ、それだけか?
それぞれのメリットにデメリットは?
『繰り返すけどその身体は神体だから、こっちから設定して読み取れるようにした程度じゃ、人間からすればどっちを選んでも同じなのよ、難しく考える意味がないわ』
マジかよ、この身体ってどこまでもチートだな。
『魔法と設定、どっちも感覚的にはSNSと同じノリだから、上手く使って! じゃあねー!』
おいこら、ファンタジー世界の女神様がSNSとか、世界観ぶち壊し発言すんなよ!
……あーもう、まーた助けられちまった。
ありがとよ、アルフェ!
さてと、思考加速してるだけで時間は有限、ここまでしょっちゅう魔法に頼ってたし、今回は読み取り許可領域の設定にしとこう。
おわっ、マジでSNSの設定と同じノリかよ、アクセス制限だって使えるし、プロフィール的な感覚でステータスの公開範囲も決められるし、変なドクロマーク付いてるBAN機能まである。
んじゃとりあえずはアクセス制限だけど、ここに居る全員は許可する。
ステータスは、氏名に年齢と性別、出身は地球の日本で、種族は異世界人にしといて、職業は冒険者に仮設定して、っと。
にしても、ルーナの為って言っても魔法とか魔導具ひとつで……そうだ、いいこと思い付いた!
鑑定されても信じてもらえないかもしれないし、ここは一つビックリ箱でも用意しよう!
そしたら余分に読み取り許可領域を広げて……よっしゃ、設定終了!
(【探索】……食堂周辺は問題なし。【空間封鎖】……これでしばらく誰も近寄れないな)
ここに居るみんな以外には聞かせたくないから、用心しといて損はない。
後は、思考速度を通常設定に戻せば――
「みんなお待たせーーっ! 鑑定の魔導具完成したよっ!」
「おぉ、もう出来たのか。早いなぁ」
――ちょっと棒読みセリフっぽいけど、ラグは無いようなもんだし、バレてないから無問題だ。
「そうそう! ユージ君のおかげでついに完成できたんだよ、ありがとっ!」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、ついにって事は途中まで造ってたんだろ。それならルーナが一人で完成させたも同然だと思うぜ」
「ユージ君の助言が無かったら完成しなかったんだから、素直に感謝の気持ちは受け取ってよ」
「あいよ、どういたしまして。それで、もう何か試したのか?」
「うん、ボク自身と周りの物を幾つかね。問題なくちゃんと鑑定できたよ」
おー、いきなり他人に試すんじゃなく自分を実験台にしたのか、いい研究者気質だな。
ま、もしオレが最初の相手だったとしても大丈夫だろうけど、とにかくいよいよ計画実行だ。
「んじゃここでお披露目代わりに、オレを鑑定してみてくれよ。自分自身に鑑定魔法って使った事ないし、面白そうだからさ」
「うん、いいよ! それじゃいくよー……【鑑定】……えっ?」
「おっ、どうした?」
うーん、我ながら白々しい。
もう結果がどうなるか分かってるのに、知らんぷりして聞き返すとか、嫌がらせみたいだなぁ……。
「あの、ね……異世界人って、なに?」
「「「「「えっ?」」」」」
「なんだと? お前さん、まさか伝説の……」
おい爺さん、なんだその思わせ振りな単語は!
そりゃ、オレがこの世界に来た初めての異世界人だ、なんて思い上がるつもりはないけど、伝説ってなんだよ!
……いや、今それは置いといて、とりあえずは角見せからだ。
「あー、その……ハウザーさん達は、ちょっと知ってるだろうけど……」
「「「「「!?」」」」」
「新しい魔獣っ!?」
「「すごく格好いい!!」ですっ!!」
「むぉっ? そいつは角、か? それにしちゃ明らかに人の手で造られた道具ようだが、しかし見た事もない金属だな……」
だよなぁ、いきなりカミングアウトなんかしたら混乱して当然だし、逆の立場ならオレだってビックリするさ。
でもよぉミトリエ、オレは魔獣じゃねぇよっ!
んでルーナは、カッコいいの方向性がちょっと分からないけど、もし気が合うならいい酒酌み交わせそうだな……オレ達どっちも未成年だから、まだ酒飲めないけど。
ちょっと分からないって言えば、ルーナとハモったアリスの反応が不思議なんだよな。
今まで特に、 紋繰騎 とか普通の鎧や、それ以外の武器とか防具にだって、そこまで強い興味は持ってなさそうだったのに、いきなりそう言われても返事に困るぞ。
爺さんはさっきなんか意味深な単語出したけど、今はじっくりドリルの分析してるし、年相応に落ち着いてるって思っていいか。
「ちゃんと説明するから、聞いてくれ。オレは……」
こことは違う世界で生まれ育ったこと。
作業中の事故が切欠で、一度は失いかけた命を助けられて、アルフェと出会って今の身体と力を貰ったこと。
もちろん自分の趣味だって、理解してもらえる範囲を出来るだけ詳しく細かく。
話しておきたい色んなことを、一つずつ丁寧に伝えていった。
《《…………》》
一通り話したら、全員黙っちまったな。
「もしまだ信じられないって思ってるなら、この後一ついい証拠見せるけど、何か質問は?」
「……ユージ殿、何故この時点で正体を明かしたのですか?」
爺さんに次いで人生経験豊富そうなハウザーさんでも、まだ完全に衝撃からは立ち直ってないみたいだけど、その問い掛けはオレにも理解出来る。
「そりゃ簡単な話だよ。この身体と力は特別だけど偶然貰ったものでさ、中身のオレ自身はどこにでもいる普通の人間なんだ。みんなみたいに努力と経験を積んで、苦労して手に入れたわけじゃない」
そう、オレはルーナや爺さんみたいに、魔導具とか騎体を造ったりは出来ない。
ハウザーさんとイレーヌさんのように、経験を積んだ結果で頼りにされてるわけじゃない。
ミトリエや 騎装士 のみんなみたいに、毎日努力して自分達で決めた目標を達成して、今の立場に居続けてるわけでもない。
強いて言えばアリスの立場には近いけど、それだって先祖代々の積み重ねと、次の侯爵家当主になるって決めた本人の意志と、そうなれる努力があってこその今だから、やっぱオレとは決定的に違う。
「それでもみんなと仲良くなりたいし、これから同じ目的を持って一緒に居たい。だから身の上話をさっさとして、ちょっと変わり者だけど普通の仲間として、みんなの輪の中に入りたい、それだけなんだ」
「そうですか……」
あー、なんか野暮な質問だったって感じの渋い顔してるけど、聞いて当然だから気にしないで――
「ん、誰かここに来るよ」
「む……」
――さっき使った探索魔法は範囲控え目で、カバーしてるのは迎賓棟内全域と建物周辺を少しだけ、だから棟内での人の反応はほとんどが黄色の警戒対象、 士導院 自体を信用してないから使用人さん達には悪いけど、当然の結果だ。
それでも、歩哨とか立哨してくれてる衛兵さん達の白い中立反応は幾つかあるけど、その中で一つだけ、範囲内に入ってきて真っ直ぐオレ達目指して来るならきっと、衛兵隊長さんだ。




