仲間意識と決意
「ルーナさんだけズルいですっ!!」
「は?」
今、なんて言った?
「私だってユージさんと、ユージさんとっ……その……つまりっ、とにかくズルいんですっ!」
え、何がつまりで、何がとにかくなんだよ?
怒ってるのか勢いだけなのか、顔真っ赤にしてるけど、フィナは一体何が言いたいんだ?
「……ユージさんは新しい 紋繰騎 を造りたい、それでいい?」
「あ、あぁ、そうだ」
一人で謎のヒートアップしてるフィナとは真逆で、アリアは落ち着いて正確に要点を伝えてくるから、二人のギャップの差でむしろこっちが戸惑っちまうな。
「……新しい騎体に適合は要らなくなっても 騎装士 は必要、それはあってる?」
「もちろんだ」
そりゃ当然だぞ、イリア!
パワードスーツとか人型ロボットは中に人が乗って操作してなんぼ、それが弱点になるって意見もあるけど、逆に人が乗ってないから生まれる弱点だってある。
何より、オレが乗って動かせる騎体じゃなきゃ意味ないし、つまんないからな!
まぁオマケに言えば、遠隔操作とか無人騎なんて、このファンタジーな世界でどうやって造ればいいか、今は何も思い付かないし。
というわけで、せっかく今ある騎体を自由に改造出来るんだから、それを活かして誰でも使える騎体を目指すのが、一番正しい道筋なんだ。
異論は認めんっ!
なんて、あれこれ思いっきり語れたら気分いいんだけど、一方的な趣味の押し付けはダメだ、質問に答えるだけで我慢しよう。
「「それなら私達は、ユージさんを手伝う」」
「アリア、イリア、ありがとな」
「使い手を選ばぬ紋繰騎、ですか……これはまた、頭痛の種が増えますな。しかし、領地や民を守る手が多くなるのは実に喜ばしいお話です。如何なさいますか、お嬢様」
そっか、人手を貸し出すくらいなら、ハウザーさんやイレーヌさんの権限でも決められるけど、新型騎の開発は金や物とか人の動きが大きくなって時間も長くかかるから、この場のトップって立場のアリスに――
「私達が協力する……いいえ、立場が逆ですね。ユージさんに協力して頂ければ、何か解るかもしれません」
「立場が逆って、新型騎を開発するんだし、オレが助けてもらうって話であってるだろ?」
「ユージさん、ラクスター領に戻り次第、貴方に見てほしい物があります。新型の紋繰騎を開発しながらで構いません、手を貸してください」
――おいおい、かなり真剣に話してるから何か重要な事なんだろうけど、なのに開発の片手間でいいからって、一体なんなんだ?
「その見せたい物ってのは、どんな物なんだ?」
「ごめんなさい、今この場で話すには説明が難しいんです。古代の魔導具なのは判っているんですけど……」
「それをオレが調べる代わりに、新型騎開発に協力するって話か」
「いえっ、見てもらうだけで十分ですっ! 既に動いている古代の魔導具なんて、近付くだけでどんな危険があるか分かりません! むしろ、見るだけでも危ないかもしれないんですよっ!」
「わ、分かったから、まず落ち着いてくれ」
うーん……アリスのこの反応、嘘とか演技でオレを騙したり、隠し事があるから近付いてほしくないとかじゃなくて、冗談抜き混じりっ気無しのマジビビりだな。
古代の魔導具って、今までどんだけヤバい物が発掘されてきたんだよ、この怖がり方は異常だろ。
んでそれと反対に、騎装士五人娘は不思議そうに首捻ってるだけだし多分、魔導具が動き出したのはこの半年以内、それもつい最近の出来事なんだろうな。
「なぁ、その魔導具が動き出したのって、誰が最初に見つけたんだ?」
「わ、私です……」
「んで、身体の調子が悪いとかは?」
「特に何もありません……」
「確かにな、オレから見ても具合悪そうな感じはしないし、問題ないんじゃないか?」
「なっ、何も無いから怖いんですよー!」
「だから落ち着けって! 何なら今すぐ鑑定魔法で調べるからっ!」
周りガン無視で男のオレにしがみ付こうとするとか、いくらなんでも取り乱し過ぎだ!
「うぅ……お願いします、ユージさん……」
「へいへい、【鑑定】……やっぱ問題ないな」
「はぅぅ~、良かったぁ~」
「ハウザーさんとイレーヌさんにミトリエも、念の為って事で調べとこうか?」
「ご迷惑おかけしますが、お願い致します」
「【鑑定】……うん、三人とも大丈夫だよ」
「……ありがとうございます」
流石に三人とも取り乱したりはしてなかったけど、アリスが大丈夫だって判っただけでも心底ホッとしてたし、古代魔導文明ってホントどんだけヤバかったんだろ。
「こんなに安心してもらえるなら、出会った時に鑑定しとけばよかったかな」
「いえ、あの時はまだ我らの事情を話しておりませんでしたし、ユージ殿が鑑定魔法の使い手とも存じませんでしたから、どうぞお気になさらず」
「そっか、分かったよ。ところでさ、その魔導具が動き出したのは、もしかしてつい最近なの?」
「はい、緊急報告を受けてインガルへと向かう、その当日に前触れもなく動きましたので、原因究明より先にお嬢様の身に問題が無いかを、 士導院 にて鑑定して頂く予定でした」
「今だから言えるけど、その予定が狂って良かったと思うよ」
なにせ、士導院所属の鑑定魔法使いは、クソ野郎一味の仲間だったからなぁ。
それにしても、新型騎開発の話からとんでもなく脱線してるな。
けど、はっきり参加表明したのはアリア達だけ、フィナは最初の意味不明な発言以降は会話に入れてないし、エリナとリッシュに至っては一度も発言のチャンスがもらえなかったんだから、こっちから話題振った方がいいか。
「話戻すけど新型騎開発の件、エリナとリッシュはどうする?」
「わ、私はっ!?」
「フィナは最後に聞く予定。んで、二人はどうする?」
「もちろん、手伝いますよ! ユージさんが騎装士を必要だって言うなら、頑張ります!」
「そりゃ助かる。ありがとよ、エリナ」
元気一杯ガッツポーズではっきり応えてくれると、それだけでも嬉しいもんだ。
「私で、ユージさんのお役に立てますか?」
「もちろんだぞ、リッシュ。つかもう既に、騎体の修理を補助してもらえて助かってるし、騎装士としての知識と経験にも、期待してるんだぜ」
「そう言ってもらえて嬉しいです、ユージさん。私にも、開発を手助けさせてください!」
「こっちこそよろしくな、リッシュ」
少し引っ込み思案な性格だけど、素直だからサポートにも向いてるんだろうな、損傷と不具合が二番目に多かった騎体の修理はもう済んでたし、その手際とこれからの活躍にも期待出来る。
「それではいよいよっ! 私の……」
「出来たぁーーーーーっ!」
うぉっ!? ビックリしたぁ!
なんだ、突撃しかけて来たのはルーナか、大声あげて出来たって叫んだって事は、もう鑑定の魔導具造ったのかよ。
チラッと見たら、黙って成り行き見守ってた爺さんがニヤッと笑って、“自分の目で確かめろ”的な視線だけ寄越してきたし、マジなんだな。
ならテストのついでだ、もう身バレしとくか。
さっきまでなら鑑定魔法はオレしか使えなかったし、おでこの角以外に証拠なんて……いや、たまたまイレーヌさんが知らなかっただけで、もしかしたらこっちの世界には、しっかり探せば角生えた人みたいな種族もいるかもしれない、ファンタジー世界だからな。
そしたら、証拠になりそうな物なんて他には何一つ持ってない以上、どんなに説明しても信じてもらえないなんて事も十分あり得る。
けど流石に、鑑定魔法は一発で色々見抜いてくれるだろ、なんせ魔法だもんなっ!
さぁ、そうと決めたら後は上手いことルーナを誘導して、さっさと身の上話を済ませちまおう!




