一つ解いても増える謎
「よし、二人とも降りてくれ。イリア、アリアの代わりに動かしてくれるか?」
「……ふぇ?」
「ごめんなさい、こっちの騎体は少し待って」
「どうしたアリア、なんか不具合か?」
「……ん、内装調整が甘かった。小柄なエリナに合わせてあるから、あちこち狭くて中がキツキツ」
あぁ、それで身体がぶつかった感覚が、イリアにも伝わってたのか。
「分かった、じゃあイリアはフィナの騎体で、魔獣と戦ってるつもりで動いてみてくれ。始めと終わりはオレが合図する」
「……う、うん」
「アリア、そのまま調整してていいから、鑑定魔法使うぞ」
「……いいけど、どうしたの?」
「そいつはイリアが始めてから説明する」
オレがさっき見たのが正しければ、きっと同じものが見られるはずだ!
「……お待たせ、準備出来た」
「よし、始めっ!」
「……ん! はぁっ!」
「【鑑定】……出だしは変化しない、か」
よーしよし、騎体の調子は問題無し、イリアの動きはなかなか鋭いな。
フィナの騎体はクソ野郎が使ってた時のまんま、確か爺さんは重剣とか呼んでたけど、見た目は 紋繰騎 サイズにデカい大剣で、それを突きと剣の腹でぶっ叩く攻撃を主体に、仮想敵と戦ってる。
刃で斬る動きが少ないのは、硬い相手を想定してるのか、それとも剣の耐久性を温存する戦い方が好みなのか、ちょっと判断つかないな。
「ユージさん、アリア騎の再調整済みました」
「おぅ、ありがとな……お、きたぞっ!」
「……なに、きたって何が?」
「アリア、身体の調子はどうだ?」
「……大丈夫、フィナ隊長は一番おっきい、だからユルユルすっごく楽」
そっか、ならしばらくそのまま動かさせるか。
「ちょっと! まるで私が太ってるような言い方しないでよっ!」
「ほら落ち着け、フィナ。それより面白い結果が出てるぞ」
「あぅ……ユージさんに、撫でられぇへへ……」
「……羨ましいから、後で撫でて」
うーん、このままだと騒いで話が進まなくなるから、落ち着かせる為にやってるんだけど、そのくらいならまぁいいか。
「あぁ、後でちゃんとアリア達も撫でてやる」
「やった! ……それで、何が判ったの?」
「まず一つ目な、アリア達は適合を共有してる」
さっきイリアと話してる時に見えたのは、何もしてないのに勝手に上がってく適合の棒グラフで、最初は目の錯覚かと思ったけど、今こうして交代させても同じ現象が起きてるんだから、もう断言してもいいはずだ。
「えっ!?」
「さっきと同じ状況を、二人を入れ替えてやってもらってるけど、今この瞬間もアリアの適合が少しずつ上がってるんだよ」
言われた本人が驚いてるのはフィナの時と同じで、自覚出来るほどの変化が無いからだと思うけど、多分アリア達は感覚だけじゃなく、身体を動かす経験もある程度は共有してるんだろう。
そして、そこから判るっつーか推測出来る二つ目の内容は、この質問をしたら答えが出るはず――
「ところでフィナ……おい、フィナ?」
「えへっ、えへへ……」
「……これじゃ話し掛けても無駄、今フィナ隊長はポンコツってるから、代わりに私が聞く」
――頭撫でられただけでトリップするとか、いくらなんでも男に対する免疫なさ過ぎじゃねぇのか、ポンコツ隊長さんよぉ。
しかも、妹みたいな隊員から辛辣なセリフ出てるのに戻ってこねぇし……もうアリアに聞くか。
「んじゃアリア、紋繰騎はどうやって動かしてるか、その仕組みを答えられるか?」
「……ん、大丈夫。紋繰騎は、 騎装士 が着る 紋纏衣 と騎体、両方に刻まれた 騎導紋 を魔力的に接続して、騎装士の意志を伝えて動かしてる」
そうか、推測がほぼ正解になったな。
「おっと、イリア! そこまでっ!」
「ふっ! ……ふぅ、いい訓練だった」
うん、止めたらアリアの適合もストップしたし、これで謎は解けたな。
「よし、それじゃ駐騎棟に戻ってから謎解きの答え合わせだ。アリアは自分の騎体を戻してくれ。んで……隊長殿っ!」
「……っは! あれ、なでなでは? 私の天国は?」
「やっと帰ってきたか。謎解き終わったから 駐騎棟 に戻るぞ」
「えっ? えっ!?」
なんつーか適合って、解っちまえば謎ってほどでもなかったけど、逆になんで適合検査の時に一回鑑定したら、それ以降は調べないのかが謎だ。
でもまぁとりあえずは、調べた結果をみんなに伝えて、その時知ってそうな誰かに聞けば分かるだろ、って――
「おっ、ぅおぉーっ! 紋繰騎の中身って初めて見たけど、こんな構造なのかっ!」
――オレ達があれこれやってる間に、一番損傷酷かった騎体の外装ほぼ全部取っ払われてるっ!
はー、やっぱっつーか当然っつーか、外装は見たまんま鎧で強度と剛性を持たせられるから、中はセミモノコック構造なのか。
気になるのは、リッシュが動作確認してる時に見えた魔力が集中してたとこに、分厚い金属の板が幾つもある点なんだよな。
紋繰騎は魔力で動くんだし、あれが動力源だって言われたら納得出来なくもないけど、その金属板から色んな太さのワイヤーが何本も伸びてて、それが明らかに関節を動かす為の仕組みになってるのが謎だ。
あの金属板が魔力を貯めとくバッテリーなのか、それとも何か特殊な使い方をする物なのか、気になって仕方ねぇ。
それに、ここまでバラされて中丸見えなのに、騎体の制御中枢らしい部分が何処にも見当たらないのも、不思議だ。
“重要で貴重で取り扱い注意な精密機器だから、分解前にあらかじめ取り外しといた”って言われたとしても、そっちは納得出来ねぇんだよ。
なにせ、そういう部品が納まってますって主張してそうな空いたスペースが一切無いし、何より動作確認の時にもそれらしい働きをしてるとこなんて、どこにも無かったもんなぁ。
動力源は不明、制御中枢は無し、謎の部品が幾つもある、それ以前に構成部品の材質も知らねぇ、こんな不思議の塊、隅から隅まで知り尽くしたい、ホント今すぐ飛び付きたい!
適合の謎さえ無きゃ、バラすとこから拝めたし手伝えたし聞き倒せたんだけど、それはもう今さら言っても遅いから、また今度必ず見せてもらうし、新しい騎体も絶対造ってもらうぜ!
「む、きりのいいとこで戻ってきたな、イレーヌの嬢ちゃんがもうすぐ昼飯だと言っとったぞ。こっちはようやく外装を外したとこだが、そっちは何か分かったか?」
「あぁ、適合の謎は解けたし、その上面白い結果も見られたぜ。今聞いとくか?」
「ほぉ、そいつは気になるな。話しとると飯が進まんし、今の内に教えてもらうとするか」
「よし、じゃあみんな集まってくれ」
そうして揃ったみんなに、オレが知った事や推測から正解に変わった謎の答えを伝えた。
といっても大げさな話じゃない。
適合ってのは、騎装士がどれだけ正確でスムーズに紋繰騎を動かせるかを表してるだけだった。
高いほど自分の身体と同じように思い通り動かせるし、何度も訓練を重ねればその分上手くなるのは確実で、逆に怠けてれば下がるかもしれない、そんな程度だ。
それと、アリアとイリアが適合を共有してる話はかなり驚かれたけど、どういう仕組みか誰にもさっぱり解らないから、今後も一人一騎体制で活動しながら様子を見るって決まったくらいだな。
「皆さん、昼食の時間ですよ」
おっと、ここでイレーヌさんの無慈悲な昼飯コール、続きはまた後でだ。
はい、というわけで前回浮かび上がった適合の謎を解いたと思ったら、また新たに幾つもの謎が増えちゃいました!
果たして勇司君は全ての謎を解明出来るのか、そして紋装騎に乗れるのはいつになるのか……。




