適合の謎
「こうして騎体の整備と修理に関わってみて、ハウザーさんの言った事が少し解ったよ」
「確かに様々な費用は頭痛の種ですが、 紋繰騎 が無ければ敵わぬ相手もおりますので、安全や安心を買ったと思うことで納得はしています」
どこの世界でもやっぱ防衛予算の金額って、そういう意味合いが強いんだな。
「そうそう、さっきルーナが鑑定の魔導具造り始めたからさ、それ完成したら少しは予算繰りも楽になるんじゃないかな」
「なんですと!?」
「オレが鑑定魔法使って騎体の確認してたら、そういう魔導具の話題で盛り上がっちゃって、切欠掴んだら飛び出してったよ」
まさか、あんな少しのヒントで製作始めるとは思わなかったけど、もしかすると前から温めてたアイディアなのかもな。
「鑑定魔法は今まで、使い手に大きく左右される不安な要素なので、導入されているのは極一部でしたが、それを魔導具として誰でも使えるならば、実に素晴らしいですな」
鑑定魔法は使い手が少ない上に、結果は使った本人しか解らないのが、色々と面倒事や問題を引き起こしてたんだろうな、ハウザーさんの心底嬉しそうな笑顔が裏事情を物語ってるよ。
「ユージさんっ! ただいま戻りましたっ!」
「おぅ、おかえり。実騎訓練してきたのに、フィナは元気……ん?」
あれっ、一瞬だけどなんかフィナの状態が――
「あの、ユージさん?」
「ごめん、ちょっと鑑定魔法使っていいか?」
「はい、構いません」
「ありがとな、【鑑定】……んんぅ?」
――あっれぇ、これホントどういう事だろ?
さっきまで騎体確認に使ってたし、そっちの影響で見間違えたと思ったんだけど、改めてしっかり鑑定してみても、結果は同じだなぁ。
「え、えっ、なん、なんですか?」
「えっとな、フィナの適合が上がってる」
「えぇっ!!」
「なんとっ!」
「あれっ、二人とも驚くって事は、こういう実例って今まで無かったの?」
オレが知らなかっただけじゃないのか?
「そんな話、今まで聞いた事もありません!」
「えぇ。 騎装士 の適合は、全く変化しないものと言われております」
「でも実際、昨日より確実に上がってるんだよ、具体的にはあのクソ野郎の倍近くになってる」
「これは、どういう事でしょうな」
「そうだなぁ……フィナは訓練中に、何か違いは感じたか?」
「うーん……」
唸りながら思い出してるって事は、劇的に変わった感じはしなかったのかもしれないけど、そもそもこの適合って、紋繰騎を使えるかどうか以外にはどんな意味があるんだろ?
「……すみません、特に何か違いがあったとは感じませんでした」
「いや、フィナは悪くないから、謝らなくていいさ。おーい! 爺さん!」
「なんだ?」
「悪いけど、こっちの両肩修理中の奴、残りは首の不具合だけだし、急ぎで直せるか?」
「そりゃ構わんが、何かあったのか?」
「あぁ、実は……」
爺さんに聞かれたオレは手早く、鑑定で判った適合の謎を伝えて、実験の準備を進める。
鑑定結果で見える適合に具体的な数値は無くて、上限が分からない棒グラフで表示されてるけど、連続で見てても変化する様子はなかったから、上がりはしても下がらないのかもしれない。
でもそれだって、確実にそうだって断言は出来ないから、騎体を二騎と騎装士をフィナとアリアにイリアの三人を揃えて、訓練場を借りて実騎訓練を兼ねた調査を始めることにしたんだ。
「フィナは訓練終わったばっかなのに、付き合わせて悪いな」
「いいえっ、ユージさんのお役に立てるなら、私は何でもしますっ! そう、何でもですっ!!」
「お、おう、ありがとう?」
なんか妙に鼻息荒いなぁ……。
「「私達も、役に立てて嬉しい」」
「アリアとイリアも手早く修理補助してくれたから、こうして調べる事が出来るんだ、二人ともありがとな」
「「えへへ」」
うん、アリアとイリアは普通に喜んでるな。
「それじゃまずは三人とも、鑑定していいか?」
「ユージさん、私達に毎回断らなくても……」
「いや、鑑定魔法は他人を調べられる手段だけど、だからって好き勝手に覗き見する気はないし、急ぎじゃなければこれからも必ず断りは入れる。手間かけるけど、慣れてくれ」
これで相手が男なら、その内断りのやり取りが短くなったり雑になるんだろうけど、女の子にそんな事してもし何か余計なものでも見えたら、一方的だけど気不味くって嫌だからな。
「今まで会ったどの男性より、紳士的ですね」
「「ユージさんはやっぱり素敵な人」」
「オレなんか褒めたって、何も出ねぇからな。さて、それじゃ始めるぞ」
「「「はい!」」」
「【鑑定】……うん、やっぱフィナはさっきと同じ、アリアとイリアも今は特に変化無しだ」
フィナと比べたらアリア達は低めとはいえ、あのクソ野郎を除いた一味の奴らより明らかに高いけど、それよりも気になるのは、アリア達二人の適合が不自然なくらい同じ高さで揃ってる点だ。
「なぁフィナ、アリア達ってラクスター領で紋繰騎に乗った回数は、どっちも同じだったのか?」
「いいえ、覚えている限りではイリアがやや多めでしたけど、何か判りましたか?」
「結果が間違ってなけりゃ、二人とも同じ適合の高さなんだけど、でもそれっておかしいよな」
「えぇ、確かにおかしいです。実騎訓練で伸びた事といい、それもまた謎ですね」
「その謎をこれから解き明かすんだ、三人ともよろしくな」
「「「はい!」」」
ということで、まずはフィナとアリアのペアで軽く訓練してもらう。
動かしてる最中の様子も見たいから、一騎ずつ交代で胸部ハッチを全開にさせて、歩行や膝の屈伸なんかを中心に運動させていく。
「うん、やっぱ中見えないと本人の鑑定が出来ないな、爺さんと相談して……」
「……んっ」
アリア達が言った通りだな、お互いの身体に起きた事がもう一人の感覚に伝わってるらしい。
「なぁ、イリア」
「んっんぅっ……な、なに?」
「辛いみたいだし、今日は中止にしようか?」
「あっ、ち、ちがぅんっ……の」
「違うって、何が?」
あんまり無理させて調査自体が失敗したら、それこそ問題だし――
「ん……ぁのきたいっ、エリナにぁっ……あわせてあるから、なかぁ……せまく、て……いっ、んくぅっ……いろいろっ、こすれ……ユージさ、ぁんっ」
「な、なんだ……これ」
――おいおい、こいつぁ一体どういう事だ!
「おーいっ! フィナ、アリア、一旦戻れ!」
「えっ」
「どうかしたんですか?」
どうもこうも、とんでもねぇぞこりゃ!




