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あれこれ決まって、ひと段落

「それは一体、どういう事でしょう?」


 うん、そんな美味い話は信用出来ない、みたいな雰囲気がごく僅かだけど出てるし、それ以上に困惑してますって思いが表情に浮かんでるな。


「オレさ、 紋繰騎クレストレース が大好きなんだよ。だから、止まってるとこも、ただ動いてるとこも、実際に使ってる様子だって思いっきり見聞きしたいし、隅から隅まで余す所なく知りたいんだ。でもそれは自分で動かしてたら、出来ない事とか分からない事も出るから、そこを補う為に人手を貸してほしい、そういう提案なんだ」


「ふぅむ……」


 この様子だとハウザーさんは、予算とかの書類仕事がメインの担当なのか。


 だったら、その心配事も納得出来る。


 オレの読み通り、そして実際に使ってるこの世界の人達の一員である、ハウザーさんがさっきはっきり言ってた通り、やっぱ紋繰騎は相当の金食い虫なんだな。


「あの、それってやっぱりユージさんの趣味だから、ですか?」


「あぁ、そうだ。でもそれだけじゃないぜ。紋繰騎は道具だから、使ってりゃ故障するし壊れるし、使い勝手が悪いとこも出る。それを直したり良くしたりして、今よりいい物にしたいんだ。その方が、趣味をもっと楽しめるからな」


「なるほど……あい分かりました。では、私が責任をもって旦那様へとお話致しましょう」


「お父様とお母様には、私からもしっかりお話します、任せてください!」


「ありがと、ハウザーさん、アリス。まだどうすればいいか思い付いてないけど、決闘で紋繰騎の抱える問題点は幾つか判ったし、そこを改良出来たらラクスター家の騎体を真っ先に良くするよ」



 そう、実は紋繰騎って意外と欠点が多い。



 まず一つ目は、燃費の悪さ。



 二つ目は、周囲の確認とか索敵の方法が目視のみで、他の手段がほとんどない。



 そして最悪としか言えない三つ目が、騎装士に求められる適合性。



 兵器として見るなら、一つ目と二つ目は大問題ってほどじゃないし、元の世界でも似た問題を抱えてる現役兵器はあった。


 けど、紋繰騎を兵器として分類するのに致命的なのが、結構シビアに使い手を選ぶ点だ。


 兵器ってのは慣れるのに勉強や訓練が必要だけど、それと引き換えに誰が扱っても平均的な性能を発揮してなんぼなのに、こんな欠点があるんじゃ紋繰騎は、単に高価な個人向けの専用装備でしかない。


 それでも、この世界で国家戦力の主軸に据えられ続けてるのは、代わりになる物が無いのと、紋繰騎じゃないと勝てない相手が居るからだ。



 でもそんなの、オレが気にいらねぇ!!



 ロボット好きとしては、オンリーワンとかワンオフって言葉にゃ惹かれるけど、それと同じくらいに量産型とか制式採用型ってのにも魅力を感じるんだよ。


 だから、頭のてっぺんからつま先まで残らず紋繰騎を知り尽くして、 騎装士スキナー に求められる適合性っていう害悪を取り除いて、なるべく大勢の人達が使えるようにしたいんだ!



 おっ、ノックの音だ、って事は――


「お嬢様、エルフィナ及び隊員四名、戻りました」


「どうぞ、入ってください」


「失礼します。それから、ミトリエも先ほど何事も無く戻りましたので、すぐ参ります」


「そうですか、良かった」


「それと、お客様をお二人お連れしました」


「邪魔するぞ」


「お、お邪魔します」


「お嬢様、ミトリエです、ただいま戻りました」


「おかえりなさい、ミト」


――おおぅ、そこそこ広いはずの応接室が、一気に人口密度上がって手狭になったよ。


「全員集合したし、お互い自己紹介の前に、明日以降の予定を話しとこうか」


「承知致しました。ではまず明日ですが、エルフィナ隊長と隊員四名は、損傷した紋繰騎の修理補助と、それが済んだ騎体の動作確認、それと交代で軽めの実騎訓練を行ってください」


 やっぱイレーヌさんは人事担当、それもハウザーさんを除く全員に指示出来る立場なのか、役職は侍女長なのに 騎装士スキナー の予定まで決められるなんて、不思議だな。


「「「「「了解しました!」」」」」


 それに騎装士って騎体の操作だけじゃなく、修理の補助も出来るのか、こりゃ実働データの収集が捗りそうだ。


「それじゃワシらは修理だな」


「はい、よろしくお願い致します。もし何かあれば、私かハウザー様、もしくはユージさんに仰ってください」


「なら今伝えとこう。五騎の内、頭部損傷のみの一騎はもう直した。投げ飛ばされた奴は、明日の朝に動作確認して修理箇所を特定する。残り三騎は損傷が少ない順に手を付けるから、手伝いや見学はそれに合わせてくれ」


「ぶっ壊したオレが言うのもなんだけど、結構手間かかりそうだな」


「いんや、実はそこまで苦労はないぞ。なにせ、出来る限り丁寧に壊しとったからな。馬鹿の親玉が重剣でぶっ叩いた騎体が一番酷いが、それ以外はむしろ部品交換しやすくて助かるわい」


 あぁそうか、攻撃手段が限定されてたから関節だけ狙って無力化したけど、そういう部分って磨耗とかが理由で予備部品が多いんだな。


「そうだ! 馬鹿の親玉で思い出したけど、あいつの屋敷に爺ちゃんとボクの持ち物が置かれてるんだよ。何とかならないかな?」


「そうですね、朝の内に私と衛兵を何名か連れて、こちらへ引き上げてきましょう」


「出来れば一騎、荷物持ちで出せる?」


「ではエルフィナ隊長も追加しますね」


 そういや、五騎全部が爺さんからの資材持ち出しで造られたんだし、その分荷物が多いなら紋繰騎を駆り出すのも納得だけど、引っ越し荷物抱えるパワードスーツって外見と生活臭のギャップが激しくて、なんかシュールだなぁ……。


 まぁ便利そうだから、文句は言わねぇけどさ。


「ミトリエは引き続き、お嬢様の身辺警護です」


「ミト、よろしくお願いしますね」


「はい、お嬢様、イレーヌ様」


「んじゃオレは、明日は丸っと一日修理の……」


「ところでユージ殿、鎧賊捕縛の報酬ですが、いつ頃お受け取りに参りますか?」



 あ、すっかり忘れてた。



 うーん、今は無一文だし早めに受け取りたいとは思うけど、迎賓棟に泊まるから金なんて使いどころ無いんだよなぁ。


 それでも強いて言うなら、明日以降に必要そうな服とか日用品が欲しいけど、足止め解除されないと気軽に買い物出来ねぇし、どうすっか――


「許可を頂ければ、私が代理として受け取って参りましょう。そのついでに、身の回りで必要な物を揃えてしまいますが、よろしいですかな?」


「そうしてもらえると嬉しいけど、いいの?」


「はい、これも執事としての職務の一つですから、どうぞお気遣いなく」


「ありがとっ! 助かるよ、ハウザーさん!」


――会った時も思ったけど、やっぱ本職のプロってカッコいいし、気配りの達人って感じだなぁ!


「んじゃ改めて、オレは明日一日修理の見学と紋繰騎の勉強だ! みんなの邪魔はしねぇから、よろしくっ!」


はい、というわけで色々アレコレあった勇司君の異世界趣味満喫生活の一日目、ほぼ終了です!


そして、二話ほど幕間的なお話を挟んでその後はいよいよ、お楽しみの紋装騎の修理と整備を通じた騎体の解説や騎装士に求められる適合など、様々なお話を展開していきます!

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