みんなの「これから」を決めよう
今までどうしようもなかった事、今回の件だと古代の魔導具の効果を解除した点だけど、それを一個人の能力で解決したって知れ渡ったら、親しい貴族に雇われてる立場から一転、例え強引にでも王家が人材確保に動く。
そしたら当然、ラクスター家は従わないといけなくなる、でもそこでオレが嫌がったら、最悪の場合は国そのものとケンカしなきゃならなくなるから、仕官は諦めてくれと、そういう事か。
それならまぁ、アリス達にゃ迷惑かけたくないから諦めるけどさ。
だからって、この国と王家に対する義理なんて何も無いし、その上 紋装騎 と無関係な事で引っ張られても、オレはこれっぽっちも面白くねぇし、どうすっか……。
『あーあー、テステス、こちら女神ー、こちら女神ー。勇司君、勇司君、聞こえてるかしらー?』
うわぁ、とんでもないタイミングで割り込んできたなぁ、女神様よぉ……。
『だって仕方ないじゃない、カッコ良く人助けした君が困ってるんだもの! この私、アルフェが直々に手助けしようというのだ、勇司君!』
んー、こういうのって “エゴ” 贔屓もいいとこだけど、困ってるのは確かだし……。
『でしょでしょっ! だからちょっとしたヒントをあげるわ、上手く使ってねっ!』
ちょっとしたヒント、ねぇ――
「あー、その手しかないか」
「ユージ殿、どうされましたか?」
――っといけねっ、口に出しちまった。
「えーとさ、解呪の話だけど、同じ古代の魔導具で対抗したから成功した、って話ならどう?」
「ふぅむ……それならば誤魔化せるかもしれませんが、そうなりますと献上を求められるかと思いますので……」
「そこはそれ、解呪の魔導具じゃなくて、魔法の威力を増幅する魔導具って話だったら、十分誤魔化せるでしょ。んでついでに、どこかの行商人から手に入れた使い捨ての物で、もう使い切って現物は消滅したって言っとけば問題ないよ」
アルフェのやつ、魔導具の詳細まで伝えてきやがったからな、ホント至れり尽くせりだ。
そいつは数が少ないけど実在するブツで、王家の保管庫とか魔導具の研究機関とか冒険者ギルドにもあるし、オレが言った通りの性能を持ってるらしい。
今までは、遺跡で発見されたらすぐ冒険者が使うせいで、使用例は攻撃と治癒の魔法のみ、研究機関ではあらゆる魔法を増幅する可能性があるって仮説が出てるそうだから、それを意図せず実証しちまった、でカバーストーリーは完璧だ。
「なるほど、でしたら後はユージさんがどこから来たのか、辻褄を合わせてしまえば……」
「それでもやっぱり、仕官は……」
ん、アリスは反対してるけどなんでだろ、って――
「もしかして、決闘の話か?」
「えぇと、冒険者の中にもごく希にですけど、紋繰騎と戦いたがる人はいるそうです。でも、それだって相手は一騎だけで、ユージさんのように五騎を全滅させた上で無傷だなんて、その……」
――でもそっちはもう、誤魔化せねぇよなぁ。
『ねぇねぇ、勇司君は紋繰騎が大好きよね?』
おぅ、見て聞いて知ったら、好きになったぜ。
『だったら何も誤魔化さないで、紋繰騎大好きな性癖を暴露したらいいじゃない!』
おいこら、まるでオレが変態みたいな言い方すんなよ、性癖ってなんだ性癖って!
『世界中の紋繰騎を見聞きして、全てを知り尽くす為に流離う流浪の愛好家! なんて、いい口実になるわ!』
無視すんなよ! オレは変態じゃねぇ!
『でも、そう言われてもねぇ……見たいでしょう、知りたいでしょう、そして深く理解したなら……より強くしたいんでしょう?』
くっ、その殺し文句はオレに深く効くっ!!
『ね、どこの貴族や王族だろうと、どんな権力者や富豪だって、有象無象の区別なく! 勇司君のロボット愛は、これっぽっちも止められないわ!』
うぐっ……何一つ反論出来ねぇっ!
しかもまたご丁寧に世界各国の紋繰騎の、興味をそそるアングルとか構図のイメージを、大量に送り付けてきやがった!
ここまでやるならイメージだけじゃなく、スペックデータも教えろよっ!
ちくしょう、分かったよ……オレはそういう奴だって、そんな設定で生き抜いてやるさ!!
『そうそう、その調子! また困ったら、このアルフェママに頼ってねー!』
うるっせ! 誰がママだ、この野郎!
けどまぁ、今回は……感謝しとくよ。
「はぁー……もうごちゃごちゃ考えるの疲れたし、オレは趣味の為ならどこにでも行って、正面切って紋繰騎とだって戦うメチャクチャな奴、って人物像でいいよ」
「ユージさんの趣味、ですか?」
「おぅ、三度の飯より紋繰騎が大好きで、見て聞いて知り尽くす為にあちこち旅する 趣味人 、ってな」
「ですがそれだけでは、もしもユージ殿に王家からの仕官命令が下った場合、はね除けるのは不可能なのでは?」
「そん時ゃ本気でよその国にでも逃げ出すよ、それこそ全部ぶっ飛ばしてでもね。けど今はラクスター家と、アリス、ハウザーさん、イレーヌさん、ミトリエ、そして五人娘に爺さん達と、ひょんな切欠で縁があるから一緒に居る、オレはそう決めたんだ」
建前上は、この国の国民じゃないから、相手が誰だろうと命令なんか聞かないし、旅人だからオレが居たいところに居て、今回は気が向いたからアリス達に協力してる、ってわけだ。
つってもはっきりとは言わないけど、もしよその貴族とか王家がアリス達に無茶振りしたり難癖つけてきたら、売られたケンカは買うぜ。
「それならユージさん、やっぱり仕官じゃなくてお互い助け合う関係が、一番いいと思います」
「アリスはそれでいいのか? 侯爵家って確か上級貴族のはずだし、そんなとことオレみたいなの、釣り合いなんか取れねぇだろ?」
「どちらが上か下かなんて、どうでもいいんです。ただユージさんと一緒に居たい、それだけですから」
「そっか、ありがとな」
「はい! そしてこちらこそ、ありがとうございます、ユージさんっ!」
親しい人達が亡くなったって聞いて辛そうにしてたけど、やっぱこう元気な笑顔がアリスにゃ似合ってるな。
「そういや聞き忘れるとこだったけど、明日とかその先の予定はどうするの?」
「そうですな、明日は特に何もありませんが、やはり一刻も早くラクスター領へ帰還するのが、最優先の予定です」
「それって、あの五人娘も含まれてる?」
「はい。事ここに至っては、彼女らを派遣している意味が失せましたので、帰還後は今まで通り 騎装士 として活躍して頂きますが、ユージ殿は彼女らに何かご用がおありですか?」
「うん、今調整してもらってる五騎をしばらく使い続けてほしいんだけど、もしかして領地に専用騎とか持ってたりする?」
「いいえ、紋繰騎は様々な意味で高価ですから、一人に一騎という運用は難しいのです。彼女らも、五人一組で二騎を扱っていましたよ」
「だったらオレは紋繰騎を出すから、ラクスター家からはあの五人を専属騎装士として派遣する形にして、領内で今までやってた通りに活動させたいんだけど、問題ないかな?」
提案を聞いたらハウザーさんだけじゃなく、イレーヌさんも考え込んでるな。
思い返せば、イレーヌさんは五人娘に対して上司みたいな接し方してたけど、指揮とか人事ってどうなってるんだろ?
「私からは特に申し上げることはありません。むしろ、余った騎体を他に回せる分、色々と余裕が出来ますので、ユージさんのお申し出とご協力は、とても助かります」
「確かに、人員や騎体に余裕が出るとなれば、何かと捗る面も多いでしょう。しかし、これほど多大に貢献して頂いたユージ殿に、我らがお返し出来る事は少ないのですから……」
「見返りって意味なら、紋繰騎を使ってもらえる事自体がオレにとって一番ありがたいから、そんな深刻に考えなくてもいいよ」
お、二人とも会話も身動きも止まっちまった。
女神印の特濃キャラソースで、こってり味へ華麗に変身w




