あっちの事情、こっちの判断
今回は、少し重いお話です。
「それで、謝罪と感謝は置いといてもアリス達の事情って、オレが聞いていいのかな?」
「成り行きとはいえ、ここまで解決に尽力して頂いたユージさんに隠すなど、論外ですよ」
え、もしかして最初からこの件の為に、 士導院 を訪問したってことか?
「恐らく今、ユージさんは……」
「お嬢様、ハウザーです。ただいま戻りました」
「どうぞ、入ってください」
ありゃ、なんか話の出だしでおあずけされたな。
「おや、ユージ殿もいらっしゃいましたか、これは丁度良いですな」
「丁度いいって、なんのこと?」
「先ほどからお話しようとしていた私達の事情に関わる情報を、ハウザー様が入手されたようですね」
「ところで、ミトリエとあの五人はどうしたのですか?」
「訓練場の片付けが終わってミトは今、衛兵隊から借りていた 紋繰騎 を返しに行っています。そしてあの子達は、ユージさんからお借りした五騎の内装調整をしていますよ」
ん、理由は分からねぇけど、ハウザーさんの雰囲気が少しホッとした様子になったな、何か悪い情報だったのか?
「ではまず結論から申し上げますが、アルゴーとマーレの二名は既に死亡しておりました」
「そうですか……」
「ちょ、二人も死人が出たなんてかなりヤバいよ、しかもこれ話の流れ的に今回の件に繋がるネタなんでしょ、今さら蒸し返すのもなんだけど、さっさと士導院からおさらばした方がいいんじゃないの?」
「えぇ、ですからユージ殿がおられたのは丁度良い、と申しました。これは我らの事情を全てお伝えした上で、ユージ殿に判断して頂きたい、そういう内容なのですよ」
そう口火を切ったハウザーさんに、そして時折イレーヌさんとアリスも補足してくれて、事情ってやつの全貌が明らかになった。
切欠は半年前、アルゴーさんとマーレさんが士導院に派遣されてる最中に、突然失踪したのが全ての始まりだった。
どっちも優秀な 騎装士 で、しかもお互い想いあってる仲だったらしくって、同僚の間ではいつ結婚するのかってのが、二人のやり取りを温かく微笑ましく見守るネタにまでなってたそうだし、二人も人柄がよくて紋繰騎隊だけでなく色々な人達と、良好な人間関係を築いていた。
それが突然理由も知らせず失踪したもんだから、何か事件や事故に巻き込まれた可能性も考慮して、調査の密命を帯びて新たに派遣されたのが五人娘ってわけだ。
なのにいくら調べても、アルゴーさん達の痕跡は見つからないし、それどころか士導院での評価が低いって理由で、日頃の訓練もままならない有り様が、ずっと続いていた。
そしてその間しつこく、あのクソ野郎一味に絡まれたり言い寄られたりしてたそうだ。
でも、その日常は一気に変わった。
アルゴーさん達が派遣されてすぐの時期に同じように突然行方不明になってた、他の領地から派遣された女性騎装士が一人、別件で摘発された犯罪組織のアジトから遺体で見つかった、って情報を掴んだそうだ。
そして更に、流れてきたいくつかの噂によると、その女性騎装士も五人娘と同じ扱いを士導院やクソ野郎一味から長期間受けていて、それが嫌になったから逃げ出したんじゃないか、なんて囁かれてたらしい。
けどいくらなんでも、貴族に仕える人物が黙って勝手に逃げ出すのはおかしいし、何より失踪が立て続けに起きるのは明らかに異常だ。
そう考えたエルフィナさんが、当時アルゴーさん達が士導院でどう評価されてたかを、資料室に忍び込んで調べたのは、数日前の話。
そこで判ったのは、本人達の人柄とか能力に関するでたらめな評価内容と、それが女性騎装士に集中して改竄が行われている事実と、自分達五人もその標的になっている現状だった。
で、事の重大さと身の危険を再認識したエルフィナさんが手短だけど緊急で上げた報告を受けて、アリス達が急いでインガルに向かったのが、一昨日の話。
ところが、どこから情報を得たのか分からないけど、アリス達が士導院を訪問するって知ったクソ野郎一味が、口封じも兼ねて強引に五人娘を手籠めにしようとしたのが、今日の出来事。
オマケ情報だけど、士導院所属の鑑定魔法使いは真っ黒、あいつらと一緒にさんざん悪事を重ねてたそうだ。
もう一つオマケに、アリス達はもちろん緊急報告を上げたエルフィナさんや他の女の子達も、クソ野郎一味が古代の魔導具を持ってた事は今日まで知らなかった。
「アルゴーとマーレの最期については……」
「ハウザーさん、お願いします。……聞かせてください」
「……承知致しました。奴らの自白によると死因はどちらも自殺、ですが隷属の呪いをかけられたアルゴーの目の前で、同じく呪いに縛られたマーレを弄んだそうで、事後の隙を突いて剣を奪い、互いに胸を刺し合って、逝ったそうです。その後、事の露見を恐れて遺体は森の奥に打ち捨て、二人の所持品は全て売り払うか捨てた、とのことです。衛兵隊長殿の報告は、以上でございます」
「はぁ……今さら言ったってもう遅いけど、あんな軽いお仕置きなんかじゃ、ちっとも足りなかったな。みんな、ごめん」
「いいえ、その謝罪は筋違いです。ユージさんが解決してくださったおかげで、これ以上の被害を食い止められました。その上あの子達も救われて、更にアルゴーさん達の仇も討てたんです」
そんな泣きそうな顔で言われても、クソ野郎一味は生かされてるんだぞ、納得いかねぇよ……。
「因みに奴らは、古代の魔導具を悪用した罪で全員が処刑され、更に見せしめとして全ての係累が、無期限の犯罪奴隷を初めとした、様々な重い罰を与えられます。ユージ殿はアルゴーとマーレだけでなく、被害を受けた方々の無念と、我らや同じ立場の者達が抱える怒りや恨み、それを晴らしてくださったのですから、後悔よりも誇りに思って頂きたい、それが我らの願いです」
「そっか……まぁ、今さらもう遅いって言ったのはオレだし、この話はおしまいに……あ、そういや五人娘とミトリエには、この事どう伝えるの?」
ハウザーさんが聞かせなくて良かったって無意識にホッとするくらい、包み隠さず話すにはキツい内容だけど、教えないってのもマズいからな。
「彼女らには帰還後、最終報告として伝えますが、アルゴーとマーレの死は変えず、奴らの悪事を知ったが故に口封じされてしまった、という話と致します」
「分かった、口裏合わせはそれに従うよ。んでだ、ここまで事情を知ったオレに、一体どんな判断を求めてるのかな?」
「まず最初に大変残念なお話ですが、当家への仕官は諦めて頂きたいのです」
んー?
もう紋繰騎はゲットしたし、それは別に構わないんだけど、わざわざ判断させるほどなのか?
「当然の疑問はおありでしょうが、ラクスター家は貴族であり、このクーブリック王国の王家に従っている、その事実と今回ユージ殿が成した実績、とりわけ古代の魔導具の効果を解除した点が、良からぬ問題を起こしてしまうのです」
あぁそうか、話が読めてきた。
実は、アリスティアお嬢様ご一行と騎装士五人娘は、かなりの危機的状況に置かれてました。
もしも勇司君に出会っていなければ、複数のルートがあるものの、辿る道筋と行き着く先はどれもバッドエンドのみでした。
それほどまでに、この世界での古代の魔導具の効果の強力さと、それを悪用された場合の危険性は、とても恐ろしいんです。




