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悩み事と食い違い(解決編)

「いやいやいや、ちょっと待ってくれ! 謝罪と感謝って、お嬢様は怒ってるんじゃねぇの!?」


「えっ!? なんで私が怒るんですか!?」



 んん? なんだこれ、ホントどうなってんだ?


 さっきはあんな顔してキツいセリフ言ったのに、怒ってないってそれマジか?



「あの、どういうことなのか全く分かりませんので、まずはユージさんにお聞きしますけど、何故お嬢様がお怒りだと思ったのですか?」


「いやだって、あんな事件の後だから 士導院しどういん にゃ長居したくないだろうし、色々引き止められたとしてもさっさと帰りたいだろうに、帰れない理由の一つは確実にオレが関わってるから、きっと迷惑かけられて怒ってるだろうなーって」


「では、応接室にお連れする前に私が話した事は、覚えてらっしゃいますか?」


「ごめん、実は今言ったこと考えてて、前半聞いてなかったんだ。でもお構い無しにグイグイ押されるし、後は聞き直すヒマ無かったからさ」


「なるほど、そうでしたか。私は、 “今回の件でのユージさんの活躍を、お嬢様はとてもお喜びです。そして皆さん揃って、ユージさんともお話したいと仰っています” と申しました。ですが不思議なのは、お嬢様の様子をご覧になっても、お怒りだと判断なさった理由です」


 あー、聞き逃した前半ってそんな事言ってたのか、てっきりオレを無理矢理丸め込んで猛獣の巣穴に置き去りにした、なんて思い込んでたよ。


 でもお嬢様のあの笑ってない目は、明らかに怒ってたと思うんだけどなぁ。


「怒ってるって思った理由はさ、ここに入って挨拶したら、全然目が笑ってない笑顔で “若い子達に囲まれて嬉しそうですね” って言われて……」


「あっ、あれはユージさんがみんなに抱き付かれてデレデレしてたから、ムッとしたんですっ!」


「ちっともデレデレしてねぇよ! こっちは明るく笑顔で挨拶したのにあの表情とセリフが返ってきたから、愛想笑いすら許さねぇくらい怒ってるのかって、内心ビビってたんだぞ!」


「ユージさんの想像する私って、一体どんな悪魔なんですかっ!!」


「悪魔とまでは思ってねぇよ! ただ、貴族ってのは機嫌損ねたらヤバいって思ってるだけだ!」


「はい、お二人とも落ち着いてくださいまし!」


 おおぅ、絶妙な間合いでイレーヌさんが割り込んでくれたおかげで、止めどころなかった言い争いがバッサリ断ち切られたよ、正直カッカし過ぎてたから助かった。


「それでは、ユージさんは何をもって私達に迷惑をかけていると、思い悩むのですか?」


「決闘で手に入れたはいいけど、今のオレじゃ動かせない 紋繰騎クレストレース 五騎って大荷物のせいで、帰れないんじゃないかと思ってるんだよ」


 そう、だからこそ今のオレの立場である“お嬢様の護衛役の冒険者”を踏まえると、迷惑かけてるんだろうなって悩むんだ。


「そうしますと、お嬢様に会いにこられたのは、インガルに残るとお伝えする為ですか」


「いいや、迷惑かけてる謝罪の代わりって言うのもなんだけど、あの五騎を貸そうって考えてさ、爺さん達に準備してもらってるから、調整の為に五人を連れてっていいか、聞きに来たんだ」



 おっ、話に口を挟めなくて黙ってた五人娘が、無言のままだけどすっげぇ喜んでるな、やっぱここでの評価を理由に、ろくすっぽ紋繰騎を使わせてもらえなかったのか。



「あっあの、ユージさんとはここでお別れじゃないんですねっ?」


「おいこら、例え建前だとしても今のオレはお嬢様の護衛を依頼された冒険者だぞ、契約はラクスター領に戻るまで、報酬はあっちの冒険者ギルドでの登録料の肩代わりと、身元保証を兼ねた推薦状の発行だろ、忘れるなよ」


「はいっ! これからも宜しくお願いします!」


 ったくよぉ……この立場がなきゃ、ここまで悩まなかったんだろうけど、逆に立場があるおかげで、欲しかったデカ物を持ったままが許される、寄る辺にありつけたとも言えるし、なんだかなぁ。



「本当に何から何まで、ユージさんにはお世話になり通しですね。……では、紋繰騎を全騎お借りしますので、エルフィナ・クノックス隊長と隊員四名は、ただちに駐騎棟へと赴き、内装調整を済ませてきてください」


「「「「「了解しました!」」」」」


「隊長? 隊員?」


 そういや騎装士五人娘って大枠で覚えてたけど、同じ貴族に仕えてるんだから、何かしらの部隊とかに所属しててもおかしくはない、のか?


「その事は、これからお話する私達の事情に関わりますので、後ほどご説明致します。ところで先ほど、皆さんを驚かせていましたけど、あの後ユージさんはどうするおつもりだったのですか?」


「あーあれね、イレーヌさんが入ってきた瞬間狙って驚かせて、その隙にさっさと逃げ出す予定だったんだ。紋繰騎と鎧賊絡みのお金を置き土産にすれば、見逃してくれるかなってのも考えてた」


「あぁぁ……その計画が中止になって、心の底からとてつもなく安心致しましたぁ……」



 おわっ、なんか大げさなこと言ってすっげぇ脱力してるけど、なんなんだ?



「なんでそんなホッとしてるの?」


「鎧賊の襲撃と今回の件ですが、どちらもユージさんは公に活躍を知られています。そんな人物が逃げ出し、残されたのは多大な価値のある金品、これを世間と他の貴族はどう見るか、ということです。もし計画が実行されていれば、私達は残されても手を付けられない負の遺産を抱え、世間の人々からは嘲笑と非難を投げつけられて、社交界からは永遠に締め出されてしまいます。大げさな話に思えるかもしれませんけど、風評というのは敵に回ればそれほどに恐ろしいのですよ」


 そっか、オレはあっちの世界の感覚で、お互い縁が切れても後はどうにでもなるだろうって思ってたけど、こっちだとそうはいかないんだな。


「ごめんねイレーヌさん、悩んでたんなら前もって相談しとけばよかったよ」


「ごめんなさいイレーヌさん、私がユージさんに余計な事を言わなければ、お二人に嫌な思いをさせずに済んだんです」


「そういや、なんであんなにキツいセリフ言ったんだよ、お嬢様だって十分若いだろ」


「それはですね、あの子達はエルフィナさんが18歳、後の四人も15~17歳でして、それに対して私は20歳なので……」


「おいおい、20歳ってまだまだ若い範囲だろうに、そこまで拘ることか?」



 ひょっとしてあれか、女にしか分からない苦労みたいな、そういう感覚なのか?



「それだけでなく、みんなは騎装士としてユージさんと接する機会も多いので、お嬢様としか呼ばれない私は……」


 あ、言われてみれば出会ってからずっと、お嬢様としか呼んでなかった。


 お互い自己紹介がまだな五人娘はともかく、一人だけ名前を呼ばれないってのは、寂しかったのかもしれないなぁ。


「そりゃオレが悪かった。好きな呼ばれ方があるなら、そっちで呼ぶから教えてくれ」


「あ……それじゃあ、アリスと呼び捨てで、お願いします」


「あいよ、改めてこれからよろしくな、アリス」


「はいっ!!」


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