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「幼女転生」  作者: 囲味屋かこみ
第一章 『遺』世界へ。
1/5

0 そして彼は幼女の手を取る。

 幼女に生き、幼女に死ぬ。


 そして、幼女として生きる。




 幼女を愛する日々だった。僕の生涯の全てだった。


 恥の多い人生、だとは全く思わない。


 短い人生、だったとは思う。


 けれど、僕は、僕の思うがままに幼女を愛したつもりだ。悔いはない。


 存在そのものが愛おしかった。手を出したことはない。当然だ。幼女とは、見守られるべき存在であり、愛される存在であり、汚れなき存在でなければならないのだ。


 そうだというのに。


 『人を、殺してはならない』、人類にとってそれ程の不文律だというのに。


 その日、僕は大学の帰り道、とんでもないものを目撃してしまった。


 公園のトイレ。ほんの刹那。幼女のくぐもった叫び声。聞き逃すはずはない。愛する幼女の悲痛な叫びだ。どんなにか細くても、聞き逃すはずがないのだ。


 僕は走った。一心不乱に走った。


 そして、出くわしてしまった。


 ホームレス。暴漢に、襲われそうになっている幼女を。


 僕は激昂した。


 我を忘れ、ホームレスに掴みかかった。


 直後、腹部に鋭い痛み。


 じわじわと広がる、激痛。


 赤い赤い。


 真っ赤な、真っ赤。


 きらりと光る、ナイフ。


 あまりの痛さに、意識が遠のいた。


 そして——。



 悔いはない——はずだったんだ。



 目を開けると、そこは不思議な空間だった。


 周りに何もない。真っ白な空間。


 けれど——一箇所だけ、それは存在していた。


 荘厳な装飾が施された、石の玉座だった。


 そして、そこに頬杖をついて鎮座するのは——幼女だった。


「幼女だ‼︎」


 僕は、腹の底から叫んだ。心の底から歓喜した。


 素晴らしい幼女だった。美しい幼女だったのだ。


 まるで羽のように広がる、長い長い黒髪。真っ赤な——僕の血と、同じ、瞳。僕を見る目は冷たく、その幼い顔つきには似つかわしくないどこか達観した表情。


 叫ばずには、いられない。歓喜せずには、終われない。

 

 まさか。


 まさか、この幼女は。


「開口一番で、ここまで残念な印象を受けた『旅行者』は初めてじゃよ」


 のじゃ! ロリ! だった‼︎


 そんなまさか! まさか実在するなんて!


 こんなことがあっていいのだろうか!


 こんな幸福があっていいのだろうか!


 僕のテンションは、天井知らずだった。ストップ高どころではない。制限が、ない。セーブが効かない。ブレーキがぶっ壊れてしまった。

 

 のじゃロリだぞ!


 夢が、叶ったのだ!


 ここでテンションが上がらずに、一体僕はどこでハイになればいいというのだ。


「……なんか、気持ち悪いのう」 


 幼女が目を細める。幼女が蔑んでいる。

幼女が僕を見ている。


「まあ——よい」


 やがて幼女は、軽くため息を吐いて、ゆっくりと立ち上がった。優雅な仕草だった。その一挙一動が、僕の心を打つ。


 僕の元へ、幼女が一歩一歩、向かってくる。


 心臓が高鳴る。


 心音がうるさい。


 早鐘のように打っている。


「さて、行こうか。『遺』世界へ」


 幼女は、そう言って、僕に手を差し伸べた。


 いせかい——異世界?


 頭の中に様々な疑問が浮かぶ。


 どこへ行くのか。そもそも、ここはどこで、この幼女は誰なのか。そして、僕はどうなってしまったのか。


 しかし、そんなことは、どうでもよかった。些末なことだった。


 何故なら、今、僕の目の前には幼女の白魚のような小さな手があるのだ。


 他に、何が必要だ? いや、何もいらない。


 僕は——


 幼女の手を、取った。



 そして、次に目覚めた時。




 僕は、幼女になっていた。

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