chara make(キャラ メイク)
あなたはだあれ?
なんできょりきょろしているの?
見慣れない部屋だから? ふぅん。
知らないわ、わたしも初めてここにきたから。
ドアは後ろにあるわよ、わたしは出ることはできないけど。
どうしてって……わたしはまだ出る必要がないから。
あなたはきっと出入りできると思う。
本当だって、わたしは嘘なんかいわない。
……ほらね?
わたし? わたしはわたしよ。なにでもないわ。
名前はない、この体は……強いて言うなら15才くらいかしらね。
さっきから私の方向かないと思ったら、そんなことを気にしていたの?
ないわ、着るものなんて。
……ありがと、あなたの服、ちょっと大きいのね。
ちなみに、そっちの部屋に服はいくらでもあるわよ。
早く言ってくれ? 服はあるけど、わたしのじゃない。
じゃあ誰のって……あなたに決まってるじゃない。
そう、あなたの。全部わたし用の服だけどね。
そんなに文句言わないでよ、わたしだってここに来たばっかりなんだから。
あなたが選んでくれるのなら、なんでもいいわ。
そう、ワンピースね。こんなのが好きなの?
冗談よ。
これでいいかしら……似合ってる? ……ありがと。
あとは名前ね。名前もあなたが決めるの。
ここに来たというより、わたしはここで生まれたばかりだから、あなたに与えてもらわないと何もない。
パパって言った方がいい? ふふ、そんなに慌てなくてもいいのに。大丈夫よ、あなたが童貞なのはわかってるから。
出来ればかわいい名前がいいな。
つむぎ?
つむぎ……つむぎ、いいと思う。
よくはわからないけどね、あなたにそう呼ばれた瞬間にわたしが出来上がった、というか最後の1ピースがはまった、そんな感じがするの。
なに赤くなってるの? これからわたしは、あなたに育ててもらうんだから。
まぁ、これからよろしくね。
☆☆☆
あっ、来た。待ってたわ。
ちゃんと勉強してるかって? もうあなたが選んでくれた本、5回も読んじゃった。
他の本も読めばって……言ったじゃない。わたしはあなたに選んでもらった本しか読めないの。
今度は、もっとたくさんの本か違うものを用意してね。
内容はどうだって?
えっと……あなたにはタイトル読めないんだっけ。
これ、魔法の本よ。
え、って言われても……間違いなく魔法の本よ。試してみるのが早いかしら。
ほら。
火のほかに水も出せるけど。えいっ!
あ、ごめん……こんなにたくさん出ると思わなかった。
えと、そっちにある服、着る?
ふふ、さすがに私サイズのは着れないわね。意外と似合うかもしれないわよ? あなた、男のわりには結構可愛い顔してると思うし。
……えーっと、ごめん、なんかトラウマがあったのね。そんなに落ち込まないでよ。
ほら、見て見て虹も作れるようになったの。
魔法ってすごい、なんでも出来ちゃう。あなたも使えるんでしょ?
違うんだ。魔法なんて空想の世界のもの、ねぇ。だったら、この部屋も空想で出来ているのかもしれないね。
わたしも、そうかもしれないし……。
もう行くの? あなた意外と忙しいのね。
じゃあ今日からこの本を読んでおく。ごはん? 別に食べなくても生きていけるけど。
その白い箱の中のものを食べればいいのね。わかった。
また来てね。できれば……いえ、なんでもないわ。
☆☆☆
遅かったわね。
何をしてるのかって? ごはんを食べてるのよ。
それ? かぼちゃはさすがに食べれなかったわ、皮が硬くて……。
え、そのまま食べようとしたのだけど。
違う?
…
…
…
美味しそう。
かぼちゃの煮物ね、あなた料理できたんだ。
一人暮らし。
わたしと一緒?
……そうなの。
笑ってなんかいないわ。いただきます。
……美味しい。
きゅうりとか、野菜の味なんかとは全然違うわ。
なんかもっとこう……暖かさを感じるの。
温度の話じゃないわ、きっと、あなたが作ってくれたから。
ねぇ、この部屋に料理の本もあるかしら。
きっとあるはずよ、それがほしいの。
ダメ……?
☆☆☆
あら、来たの。
その鍵便利でしょ。刺せばどこからでもここに繋がるものね。
なにをしてるのかって?
料理、あなたが本をくれたから。
……食べたい?
…
…
…
美味しかった? よかった。
まぁレシピ通り作ったから、美味しいのは当たり前よね。
今度はオリジナルのレシピにも挑戦してみようと……なに?
レシピ以外のものも入っていた?
そんな、わたしはちゃんとレシピ通り。
暖かいなにか?
……ばか。
☆☆☆
魔法の練習? ちゃんとしてるわ。そうそう、それで相談があってね。
この部屋じゃ試せない魔法があるの。だから、ちょっと広い場所を用意してもらいたくって。
ここ? ここで使ったら部屋の半分消えちゃうけど。
なにって、必要だから練習したいのだけど。
そっちに扉があるでしょう?
こんなのあったっけ? って言われても、あるんだからいいじゃない。
じゃあ、開けてみて。
…わたし、あの部屋以外の場所、初めて。
見渡す限りの草原ってやつかしら。知識では知っているけれど、実際に見るのはやっぱり違うのね。
ありがとう、連れてきてくれて。
なにもしてないって言うけど、わたしの世界は、あなたが全てだから。
いいのよ。どういたしましてって言っておけば。欲を言うと、もう少し頻繁に会いにきては欲しいけど……
な、なんでもないわ。
まぁ、これだけ広ければ大丈夫ね。
じゃあ、いくわよ!
…
えっと……そうね。この光景も知っているわ。本で読んだもの。きっと、地獄ってやつかしら……?
☆☆☆
いらっしゃい。
最近はよく来るのね。
う、嬉しい……わ。
なによ、変な顔して!
まぁ、いいわ。魔法? ほどほどにしてる。でも最近は覚えることも少なくなったの。
次は……武術? わたし、魔法使いじゃないの?
ちょっと心得があるだけで違う? まぁ、その通りよね。
なに、気にしてくれてるの? わたしの先のこと。
……ふぅん。
いえ、なんでもないわ。ちょっと……ね。
そうだ、まだ時間あるでしょ? 久しぶりに料理をするわ。
いいじゃない、わたしがあなたに食べてほしいの。
武術とか魔法よりも、料理が一番上手くなりたいわ。そのための練習よ。
☆☆☆
入ってきて開口一番が、お腹すいた?
まぁ、いいけど。
ちょっと待っててね、すぐに作るから。
終わったら、草原に付き合ってくれる?
魔法? そうじゃなくて、武術。
武術って言っても、あなたの言う通り、回避と防御に重みを置いたものだけど……。
本を読めば習得はできるけど、実際にやってみないと不安なのよ。
料理だって美味しそうに見えても、実際に食べてみないと本当に美味しいかわからないでしょう? それと一緒よ。
それはそれとして……何が食べたい?
…
…
…
風が気持ちいいわね。
え、治ってるって? あぁ、だいぶ前の魔法ね。
ここは……そうね。言ってみればテストルームみたいなものだから、一度入りなおすとリセットされるの。
便利でしょ?
それに、今回は武術を試したいから。
ほら、ゴーレム。
本はある程度読んだけど、どのくらい試せるかしらね。
…
…
…
そんなに泣かなくたっていいじゃない。
ほら、もう治ったから。部屋に戻れば治るの。
もう……腕一本無くなったって、わたしは平気よ。
痛かったって?
いや、ここじゃ痛みなんて……。
心?
……うん。あなたの前で、腕を無くしたのはちょっと痛かったかな。
や、ちょっと!
……そんなに強く抱きしめないでよ……痛いでしょ。
☆☆☆
あ、来てたのね。ごめん、ちょっと夢中になってて。
これ?
結界と、治癒の魔法よ。
あなたが泣いちゃうから、ちゃんと読んでるわ。
ふふ、事実じゃない。あんなにわたしを抱きしめてくれたのに。
今日はしてくれないの?
ふーん、ザンネン。
どのくらい進んだかって?
えぇと……まだ2割くらいかしら。
たぶん、半分くらいは読めると思うわ。
わかってる、残り時間、あんまりないものね。
え、何をするのかって?
料理だけど……。
いやよ、私にとっては魔法よりこっちのほうが大事なんだから。
これだけは、あなたの命令でも譲れないわ。座って待ってなさい!
☆☆☆
……待ってた。
結局半分しか読めなかったな。
でも大丈夫。あなたの言われた通り魔法はばっちりだし、体もある程度動かせるようにはなったわ。おまけに結界でしょ? 完璧よ。
今なら、どんな困難が待ち受けていたって乗り越えれるような気がするの。
そう、わたしにとって、ここがスタートだから。
この狭くて小さな部屋から、知らない世界に行くの。
不安? あんまりない……かな。 楽しみ。
それとは別に、やっぱり寂しいけど。
あなたは、わたしを見ていてくれるんでしょ? でもわたしからはあなたは見えない。
なんでなんだろう、ズルいよね。
ここまでわたしをつくってくれたんだから、最後まで、見届けてほしいのに。
……わかってる、あなたのことはわたしも十分知ることができたから。不安はないわ。
あんまり時間がないの。そこの扉を開けてくれる?
いいの。ここにいると、思い出がわたしを引きとめるから。
将来の夢? 唐突ね。
そうね……せっかく魔法を磨いたんだから、わたしの力で守ってあげたい、かな。
困っている人達が、その扉の向こうにたくさんいる気がするから。
え、料理?
……それもいいかもね。魔法より、わたしらしいかもしれない。
最後に、あなたにもう一度食べさせたかったな。
うん、これからもたくさん作る。見ててね。
えいっ!
わたしから抱き着いたのは、これが初めて。
いいでしょ? 最後くらい。
…
…
…
それじゃ、行くわ。
あなたには、その扉の向こう、どんな風に見えるの?
真っ白? ふぅん。
わたしには……やっぱり内緒。
いいじゃない、この内緒はあなたと一緒に解いていくんだから。
それじゃ、いってきます。
「名前は『つむぎ』でよろしいですね?」