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童子切異聞 <剣豪将軍 義輝伝> ~天下の剣、菊童丸でございます~  作者: 牛一/冬星明
第一章『俺は生まれながらにして将軍である』
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67.正月の化かし合い。

三が日を終えると急いで朽木に戻り主だった皆を集め、そして、今後の対策を伝える。


「六角の領地になるのですか?」

「違う。元々、六角は近江守護であり、朽木は高島地頭の傘下にある。地頭が守護に従うのは当然であり、守護は将軍家に仕える。将軍家の支配地であることに何ら変わりない」

「我らの主人は菊童丸様でよろしいのですな!」

「当然だ」


血走った眼で怒りを隠さない家臣らの溜飲が下がる。

支配者がマジで代わりましたと正直に言うと、六角と戦をしかねない。

事前に長門(朽木の次男)を説得しておいてよかった。


あいつは馬鹿で脳筋だから、アイツが騒ぐとみんなも釣られて騒ぎ出す。


戦では頼りになるが、こういう席では邪魔にしかならない。


朽木に帰って川原村(新村)の岡部12人衆を説得するのは簡単だった。

幕府領は今まで通りだ。

騒ぐなと言えば、それで終わりだ。


ふふふ、幕府領がどれだけあるか知った六角の家老らの顔が見てみたいな。


朽木の領地のほとんどは山と荒地ばかりだ!


そこを開拓し、山も川も新たな荘園とした。


そこから取れた作物や商品などを一旦は朽木に売って、その差額が朽木の懐に入っていた。


朽木の財はすべて俺の荘園から生まれている。


俺から土地を取り上げれば、朽木の財も消える。


俺の家臣なくして成り立たない。


彼らを俺の家臣にしておいてよかった。


そもそも将軍家の家臣と言った方が人も集まり易いと思って、そう言って集めただけだ。


ラッキーだった!


鎌倉法に従えば、新しい荘園を作ったのは俺、つまり、幕府の物になる。


山狩りをしたことで、薬草、どんぐり畑、果実に加え、煉瓦作りに必要な土と薪の確保もあり、すべて我が家臣が管理している。


屁理屈だが、すべてを幕府の荘園とするとならば、朽木の9割が幕府領になる。


もし、六角が幕府領を欲しいと言えば、100万貫で売ってやるつもりだ。


もちろん、家臣はやらん。


俺の家臣がいなくなった山にどれだけの価値があるか?


ないな!


朽木は7,000石には手を付けていないから文句は言わせない。


さて、それで問題になるのが7,000石の朽木領だ。


降伏するので六角の家臣扱いに変わる。


朽木は幕臣であるので『幕府の命しか聞かない』と言い張ることもできるが、認めるかどうかは(六角)定頼の度量次第だ。


(六角)定頼が認めない場合は出奔を許し、直臣に替えると約束して長門を納得させた。


直臣と聞いて、長門は目をキラキラさせた。


今でも俺の小姓で直臣のようなものなのに、そんなにいいかね?


俺は成人していないから、直臣と言っても家臣(侍大将)か、下人しか雇えない。


朽木も若狭も俺が貰った幕府領は正式な手続きを取っていないから、土地も与えられない。


父上(将軍義晴)に知られて、見知らぬ城代や領主を勝手に決められては堪らないからだ。


(伊勢)貞孝(さだたか)のおっさんの所で未処理にして貰っている。


土地が横領されまくっているから未処理なのは珍しいことでも何でもない。


話が逸れてしまった。


「六角は守護であり、将軍嫡男の俺の命に従うのが当然なのだ。つまり、お主らの主人は俺のままだ。案ずることはない。誰かに聞かれた時は、俺の命だけに従うと答えよ」

「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」」」」

「いいか、決して六角に従わぬなどと発言するすな! 高島の衆に勘違いさせるのはかまわん。無視しろ! 放置しろ! むしろ、勘違いさせておけ!」

「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」」」」

「奥地の村人から聞かれても同じように返事をしろ! 間違っても六角と戦うなどと扇動するな! 俺の命を待てと言っておけ!」

「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」」」」


取り敢えず、草(忍者)対策はこれでよい。


朽木の家臣団を押さえると、翌日には京に戻る。


高島などの農地改革を京から文で指示を出すのには不安があるが、俺は京から離れることができない。


何故かといえば、京で沢山のお仕事が用意されていたからだ。


 ◇◇◇


俺が正月に京に戻ってくるのは予想し易い。


去年、活躍した俺が正月のあいさつの席にいないのは幕府として体面が悪い。


呼び戻されるのは誰にでも予想できる。


でも、あいさつの度に俺を讃えるのは止めてくれ!


父上が不機嫌になるから、その話題は避けて欲しい。


『すべて父上の威光のお蔭です。将軍家に逆らう者はいませんでした』


将軍家に弓引く者がいないから勝てましたと何度も答える。


とにかく、父上を持ち上げないといけない。


自分が一番じゃないと気に入らないとか、子供か!


神五郎(三好 政長(みよし まさなが))な地味の嫌がらせが嫌いだ。


疲れました。


それが終わると六角を接待し、密談を成立させた。


翌日は御爺上様(近衛 尚通(このえ ひさみち))、叔父上の関白様(近衛 稙家(このえ たねいえ))が連日で訪問した。


因みに、御爺上様は訪問して以来、客間を占領して帰っていない。


このまま春まで母上の客として居座るつもりだ。


この『冬の御殿』のいい所は完全な密室な所だ。


御爺上様、関白様は美味しい物を食べながら、俺がいない部屋で(伊勢)貞孝(さだたか)のおっさんと打ち合わせをしていた。


俺は煉瓦を運ぶ荷台に乗って京を出た後に馬に乗り換えて朽木に戻り、打ち合わせを終えると、すぐに京に戻って来た。


関白様が何度も足を運んだのは、10日に控える参内の打ち合わせということになっている。


去年、若狭と高島の天領が戻ってきた御礼をいいたいらしい。


官位が上がるのはお断りした。


代わりに父上を上げて貰った。


8日に父上が参内して、帰ってきた父上に喜びの声を掛ける。


父上の機嫌が直った。


「朝廷より幕府の貢献を褒めて頂いた。よくやった」

「一重に、父上の威光のお蔭でございます」

「そうか」

「はい、父上あっての幕府でございます」

「そうか、そうか」


10日の参内が終わると、能や歌会などのお誘いが入ってくる。


関白様関係の行事だけでもそれなりにあるのに、話題の俺を誘う招待状が山ほど届いた。


ホント、神五郎は芸が細かい。


俺を京に閉じ込めておくつもりなのだ。


裏で画策しているのが関白の調べで明白だ。


関白を舐めるな!


京の情報戦なら、叔父上(関白)に敵う者はいない。


 ◇◇◇


「菊童丸様はお上手ですね」

「いえ、まだまだ練習不足です」

「そんなことありませんわ」


恐縮する俺に皆がお褒めの声を掛けてくれる。


「菊童丸様」

「そうか、そうであったな」


俺は側近に言われるままに朽木の商品を薦める。


「今年から発売します。朽木の柔らか石鹸でございます」

「まぁ、まぁ、まぁ」


葛根湯と一緒に、臭いのキツイソフト石鹸も売れているが、下働きの女中用というのが使用目的になる。


しかし、菜種油の種が秋に蒔くと、春に花が咲き、初夏に収穫できる。


菜種油を使うとほとんど臭いを気にしなくてよくなる。


今の内に試供品を配っておき、初夏の注文を聞いておくのだ。


神五郎の策略で次から次へと招待状が届き、朽木の商品を広めるチャンスが巡ってきたのだ。


これを見逃す手はない。


大内の宗設(そうせつ)の見立てでは、俺を操っているのは、(伊勢)貞孝(さだたか)のおっさんと朽木 稙綱(くつき たねつな)になっているらしい。


(伊勢)貞孝(さだたか)のおっさんの説教は、他の人から見れば、指示を出しているように見えなくもない。


朽木 稙綱(くつき たねつな)は常に朽木の者を小姓に置いて、細かい指示を出していると思われているらしい。


確かに、足も遅く、体力もなく、昼寝も欠かせない俺の体では機敏に動くなど無理がある。


代理に朽木の者を使うのは普通のことだが、見る人からすると朽木の小姓がすべての指示を出しているように見えるらしい。


と言う訳で、宗設(そうせつ)が考えて策を採用して、(伊勢)貞孝(さだたか)のおっさんと朽木 稙綱(くつき たねつな)には俺の黒幕になって貰うことにした。


「わたし、いい子の菊童丸を見ていると気持ち悪い」

「もう少しの間だけ、我慢して下さい」

「しゃべり方だけでも何とかならない」

「流石にみなさんの前で、『俺』とか言えません」


俺は側近の指示を受けて、朽木の商品を売って歩く。


そして、15日を過ぎると、少し暗い顔を見せて溜息を付く。


「どうかされました」

「いいえ、何もありません」

「菊童丸は朽木と六角が戦になるかもしれないので心配なのです」

「まぁ、まぁ、まぁ、それは大変ね!」

「大変じゃありません。大大変です。朽木が荒らされると商品が入って来なくなります。髪の艶出しも、石鹸も、香も入って来なくなります。わたくしにとって死活問題です」

「私は民の事が心配なだけです」

「民も心配ですが、商品が入って来ないのはもっと重大です。夏の蚊帳が入って来なければ、夏は寝らません」

「本当にそうだわ!」

「そうですわね」

「みなさん、朽木で酷いことしないように、六角様にお手紙を書きましょう」

「判りました。主人に書かせましょう」

「ありがとうございます」


六角 定頼(ろっかく さだより)をはじめ、六角の家臣衆に公家や親戚や商人から朽木への処分の問い合わせと、乱暴狼藉をしないようにとの嘆願書が沢山届き、連日のように六角を騒がせたみたいだ。


29日、心労が祟って俺は高熱を出して倒れる。


紅葉以外は面会謝絶にする。


医師の見立てでは、心労から来る心の病と診察される。


父上は寺に祈祷をするように命を発するが、そもそも病気でないので治る訳がない。


2月1日、影武者の小姓を床に置くと俺は密かに京を出る。


少し熱が下がったと紅葉から聞いた関白が見舞いにやってくる。


これで俺が4日の朝までいた証人を作る。


近衛家の協力には感謝しかない。


5日の朝には、熱が下がってきた俺を誰か連れ出したと騒ぎが起こる。


ほぼ同時に4日の夕方には高島に到着していると草(忍者)から報告されるだろう。


これで辻褄を合わせる。


何故なら馬を走らせれば、京から朽木まで半日で移動するのは無理ではない。


しかし、神五郎の網に掛からずに移動するのは不可能なハズだ。


網に掛からず、どうやって朽木まで移動したのか?


摩訶不思議なことが起こる。


さて、神五郎はどんな顔をするのやら?


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