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童子切異聞 <剣豪将軍 義輝伝> ~天下の剣、菊童丸でございます~  作者: 牛一/冬星明
第一章『俺は生まれながらにして将軍である』
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54.策謀の螺旋。

天文8年9月26日(1539年11月6日)、朽木川の下流で『天井川の戦い』が起こっている最中に管領(細川)晴元は京に上洛し、明日の幕府に出頭する為の準備を行っていた。そして、その腹心である神五郎(三好 政長(みよし まさなが))は木浜城を訪れて、六角六宿老と呼ばれる進藤 貞治(しんどう さだはる)と会見をしていた。


「これは、これは神五郎殿、わざわざのお越し、恐縮でございます」

「突然の訪問をお許し下さい」


まずは京を騒がしたことを詫び、六角に世話になっていることに感謝した。

それが儀礼的なものであることは互いに承知しているが、それなしに話を進めることができない。


「管領様におかれては、孫次郎(長慶)をお許しになることは決められております」

「それはよろしゅうございました」

「然れど、踏ん切りがつかない所存でございます。今しばらく、お待ち頂きたい」

「それではこちらも困りますな!」

「それゆえに、先に私と孫次郎(長慶)の和議を先にしたいと考えております」

「判りました。話しておきましょう」


神五郎は頭を下げてよろしくお願いする。

こうして、会見が終わると雑談に入ってゆく。

雑談とは情報交換である。

互いに相手を探りながら、相手の情報と意図を探ってゆく。


神五郎は武田の情報を披露してゆく。


「ほほぉ、そのような戦いでしたのか?」

「ご謙遜を、山城守もご存じでございましょう」

「いや、いや、戦場の仔細まではとても、とても知りませぬ。菊童丸様が御聡明であり、武運を持っておられるくらいしか伝わっておりません。武田の手紙が今一つ、仔細が欠けておりまして。よい話が聞けた」

「大したことではございません」


神五郎は六角が自分らより武田の情報が少ない事を確信した。


話の肝は六角がどれほど武田と近いかに掛かっており、もしも武田と通じているのならば、それ相応の対応が必要になってくる。しかし、昨年の朝倉侵攻で六角が動かなかったことから、武田とそれほど親密ではなく、朝倉と本格的に揉めるのを嫌ったと読んでいた。


「そういえば、あの戦いで活躍した朽木ですが、今年の大雨で高島氏が困窮したのをいい事に、何かと注文を付けていることはお聞きでしょうか?」

「それは知らんな?」

「管領様の所に(高島)越中守から大雨で川が氾濫し、朽木から支援を貰えたのはありがたいのだが、乱暴、狼藉、無理な要求を繰り返してくるので、諌めて欲しいという書状を届いております」

「なんと、民部少輔(朽木 稙綱(くつき たねつな))が? あの温厚な方が信じられん」

「あの戦いによって、菊童丸様の側近である長男、次男、三男が実権を握ったようですな。若さゆえか、これを機に高島を分捕るつもりかもしれません。いや、それより先に高島の民が怒って騒動が起こるかもしれません」

「なにやら比叡山と朽木が揉めていると聞くが、それと関わりがありそうだな」

「某もそう考えております。朽木は若狭で借財の金利を1割に定める法を発しました。菊童丸様の名を勝手に騙るとは嘆かわしい。比叡山の土倉からすれば、勝手に10分の1に下げられたのでは堪らないのでしょう」

「なるほど、そういうカラクリか!?」

「朽木の乱暴狼藉に高島の民が怒り、それを僧が煽っておりますからいつ火が付いてもおかしくないと。某は考えております」

「由々しき事態になりそうだな!」

「管領様はこのまま朽木が増長するならば、放置はできないとお考えのようです」

「こちらも気を付けておきましょう」

「いえ、いえ、六角様の御手を煩わすことは致しません」


こうして仕込みを終えると、神五郎は管領(細川)晴元の元へ戻っていった。


 ◇◇◇


「ばぁ、馬鹿な! 何故、朽木が勝っておる」


深夜に届いた間者の報告を聞いて、管領(細川)晴元が驚きの声を上げた。


「もう一度聞くが、朽木は正面から戦って3万の兵を退けたというのか?」

「そうなります」

「俄かに信じられん。朽木は1,000ほどであったのであろう」

「1,000でございますが、狭い谷間の戦いであり、朽木の兵は連戦戦勝で高島の兵を退けました」

「朽木の兵はそれほどに強いのか? 信じられん?」


報告をしているのは僧の格好をした丹波の忍者衆である村雲党の者であった。


神五郎は思わず、頭を掻いて思惑と違うことに困惑した。


朽木は狭い谷間である。


大軍を擁しても容易に陥落しないと考え、調停という名の朽木の接収を考えていた。


その細工を仕込んできたのに、こうあっさりと思惑が外れるとどうしたものかと悩んでしまう。


「慌てることはございません。これはむしろ好都合と考えましょう」

「(可竹軒)周聡(しゅうそう)、これをどう見れば、好都合となるのだ」

「出る杭は打たれる。武田に続いて、高島も手に入れた朽木は内藤に密書送り、丹波を狙っているのではありませんか。のぉ、神五郎殿」

「なるほど、面白い。驕る平家は久しからずやですな!」

「左様、左様」

「ええい、判るように説明しろ!」

「図に乗った朽木は内藤と結託し、次に丹波を狙っておるのです。しかも孫次郎(長慶)と示し合い、管領(細川)晴元を貶める策謀がなされている」

「おのれ、朽木。思い上がったか!」

「そういう偽の書状を作ろうかという話です」

「偽なのか?」

「いや、いや、考えておるかもしれませんぞ。波多野を討ち、内藤を守護代に戻すことができれば、朽木は若狭、高島、丹波を押さえることができます。決して、考えていないこともないでしょう」

「ならば、未遂であって、詐称ではないな!」

「内藤を守護代に戻すことはないぞ」

「判っております。周聡(しゅうそう)殿、内藤の偽書を作って頂けますか?」

「承知した。もし、邪魔立てするなら六角もいずれは潰すと示しておこう」

「あまり露骨にはされませんように」

「判っておる。判っておる」


六角が乗るかは判らないが偽書が発見されれば、孫次郎(長慶)は和議を急ぐことになる。


六角が敵に回っては孫次郎(長慶)の思惑が外れることになるハズだ。


地頭職を渡さなくても済むかもしれない。


あと1つ!


武田を封じる為に朝倉を動かしておくか!?


「大殿、よろしいですか」

「なんじゃ」

粟屋 元隆(あわや もとたか)の申し出の件を受けて頂けますか?」

「若狭遠敷郡、返還の儀であったな」

「はい、その通りでございます」

「あれは武田が嫌がるから下げよと言ったのは、お主であろう」

「それは武田が味方に付くからでございます。敵に付くならば、遠慮する必要もないかと」

「そうであった。武田は敵に回ったのであったな」

粟屋 元隆(あわや もとたか)の後援に波多野 稙通(はたの たねみち)を配し、武田に返還の儀を申し立てます。その立会いには朝倉を願っては如何でしょうか」

「ははは、武田は前後から挟み撃ちになるな!」

「まもなく、冬がやってきます。雪解けを待って内藤討伐を起こし、そのまま遠敷郡に入るのがよろしいかと」

「これに六角が加われば、袋の鼠じゃのぉ」

「そこでもう一通。朽木の嫡男、晴綱(はるつな)の名で尼子討伐の後に明貿易の独占を願う書状を大内に送って頂きたい」

「朽木が使いそうな僧に持って行かすのじゃな」

「はい、そのようにお願いします」

「神五郎殿は念入りじゃのぉ」

「明貿易で儲けている(六角)三雲殿に知れると助かりますな」

「それは難しい。知らる者を送っては策にならん。まぁよい、別件で噂でも流しておくか」

「ええい、何の話じゃ。説明せよ」


六角の六宿老である三雲 定持(みくも さだもち)は独自に明貿易を行って財を貯めている。


その財が六角を支える一部なのだ。


そこに大内、別所、武田が繋がって『尼子包囲網』を利用する。


武田の背後に朽木がおり、小浜湊を使って明貿易を大内と共に独占したいと言ったとする。


尼子が滅んでいないので、空手形もいい所だが、明貿易で儲けている三雲家がいい気はしない。


六角家の家老である三雲家にとって朽木は敵と思ってくれれば、儲けものという策であった。


まだ、まだ、朽木の受難は続きそうであった。


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