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童子切異聞 <剣豪将軍 義輝伝> ~天下の剣、菊童丸でございます~  作者: 牛一/冬星明
第一章『俺は生まれながらにして将軍である』
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46.やっと三方郡|久々子《くぐし》に到着だ。

真っ白な砂浜、細かい砂粒と透明な深い花緑青(はなろくしょう)(エメラルドグリーン)の海が広がっている。


俺はやっと三方郡久々子(くぐし)にやって来た。


長かった。


どうしてこなった?


「それは若の策が奇抜すぎて、若以外に施策できる者がいないからです」

惟助(ただすけ)、あまり本当のことをいうな」

「若がお聞きになるからです」


皆も後でうんうんと頷いている。


返済計画のリスケ(リスケジュール)なんて基本中の基本だろ!

土地を奪ったところで耕さないと収穫は生まれない。

奪われた領主と争いが起こり、耕すこともできずに荒廃する。

つまり、互いに収入が減って、いい事なんて1つもない。


無理のない返済計画の方が面倒にならないとどうして考えない?


「理屈は判るのですが、今日奪える物は今日奪っておかないと、明日奪えるとは限りませんからな!」


歳のいった源三郎(山県 盛信(やまがた もりのぶ))がいうと実感がこもっている。


そうなのだ!


つまり、『ヒャッハー』と叫び、隣の畑が肥えていると奪いにくる馬鹿が多すぎるのだ。


叫ぶ前に、自分の土地を耕かせよ。


「ともかく、朽木も武田も民を富し、国を強くする。『富国強兵(ふこくきょうへい)』が俺の方針だ」

「富国強兵、強そうな名前です」

「長門(朽木 藤綱(くつき ふじつな))、判っていないだろう」

「判らずともついていきます。問題ありません。菊童丸様に付いてゆくだけです」


朽木の次男は馬鹿でした。

しかし、護衛としては頼りになる信頼できる大切な家臣だ。

だから、泣くな!

俺は馬鹿と罵っているのに喜ぶ奴があるか!?


「もっと美味しいそうな名前がいいよ。『甘国美食』にしましょう」

「おいしく食べられそうな名前だね」

「おいしい物を食べれば、みんな争わなくなるわ」


そうなるといいね!

紅葉は相変わらず、マイペースだ。

平和っていいな!


「姉上を馬鹿にするでない」

「なぁ、どうして付いて来ている。仕事はどうした?」

「ふふふ、押しつけてきた」


晴嗣(はるつぐ)(近衛家の嫡男)の付き人が一人減っていた。

紅葉が晴嗣に仕事を押し付け、晴嗣は従者に仕事を押し付けてきた訳だ。


まぁ、その方が効率いいけどさ!


はっきり言って従者の方が優秀だ。


「民を富ますとは、聞いただけで難しそうですな!」

「難しいですよ。でも、民が富めば、この若狭に住むすべての民が国を守ろうと兵となる。国の為に戦ってくれる。国の民のすべてが兵です。そんな恐ろしい国に誰が攻めてきますか?」

「まるで一向宗ですな!」

「一向宗は破壊するだけで何も生みません。一時的には恐ろしい力を発揮しますが、長くは続きません。所詮は暴徒です。そんなものと同じと思われては困ります。武田が作る国は秩序ある国です」

「判りました」


源三郎が本当に判ってくれたかは怪しいな?


それと一向宗とは言うな!


後で聞いている商人らが不安がるだろう。


そうなのだ。


小浜を出発した俺らに同行して、小浜商人の主人や手代などが付いて来ている。


えっ、なぜかって?


塩田の試作状況を見に行く為ですよ。


惟助(ただすけ)、にやにやと笑うな!


「菊童丸様!」


お迎えが来たようだ。


 ◇◇◇


会った瞬間に泣くな!


「ご無事なによりでございます」

「泣くでない」

「盗賊の討伐に赴いたと聞いたときは心臓が止まる思いでございました」


細かい説明は止めておこう。

どうせ、長門が自慢するに決まっている。

三朗(朽木 成綱(くつき しげつな))の小言は後にしよう。


久々子浜ではすべてに砂よけの乱積みが進んでいた。


やはり、この三人は頼りになる。


三郎の交渉には粘り強さがあり、大工の頭領の茂介(菊部 才丸(きくべ さいまる))と陶工の頭領である(すて)佐々木 鬼丸(ささき おにまる))の二人が組めば、できない物がないと思える行動力を持っていた。


貧しい漁村の久々子浜村に茂介が「新しい舟を作りましょう」といい、捨が「漁港を作れば、収穫も増えますよ」と言ったらしい。


そう説明されて、村人を率先して手伝ってくれていた。


乱積みの後は、上を固めて貨物の積み卸しや船が停泊する岸壁(がんぺき)に仕上げてゆく。毎日、漁の度に舟を陸に上げるのが大変なことであり、岸壁に係留できる小さな漁港を作る。


住民を味方にすれば、作業もやり易くなる。


久々子上村と中村には、朽木谷から来た者が農作業を手伝い、空き地に大豆と粟と麻の種を植えていた。


村衆は朽木の鉄製の農機具に驚いたようだ。


そりゃ、大きな岩を取り除けば、最後は馬の力で開拓するからね!


わずか10日で畑らしいものが次々と出来て行く。


山の麓に溜め池を作って水路を作れば完成だ。


それは第二陣が来てから進めるらしい。


俺がする仕事は領主(豪族の長)・地主(久々子一族の長)・村長とあいさつするだけだ。


この地の豪族は三方五湖を治めているのが大音家、久々くぐしの南側の山々を治めているのが三方家、東と北を治めているのが、戸島・長野・南部の三豪族である。


この戸島・長野・南部の三豪族を治めているのが栗屋氏である。


この栗屋氏は昨年まで遠敷郡にも領地を持っていたが、前当主の粟屋 元隆(あわや もとたか)が武田元光の弟である信孝を擁して謀反を起こして敗れて、遠敷郡の支配権を失った。


しかし、叛乱に賛同したのは遠敷郡のみであり、三方郡の粟屋家は元光方に付いたので三方の領土は安堵され、(粟屋)元隆は丹波に逃亡し、息子の勝久(かつひさ)が新当主となって国吉城に入った。


武田家として粟屋家を追い詰める訳にいかないのだ。


三方郡の隣には越前国(えちぜんのくみ)敦賀郡(つるがぐん)がある、


敦賀郡を治めるのは、敦賀郡司の朝倉 教景(あさくら のりかげ)宗滴(そうてき))だ。


宗滴(そうてき)はこう言っている。


『武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候』

(大将というものは犬と言われようと、畜生と言われようと、 勝つことこそが最も大事である)


実質の朝倉当主で『智謀無双』の戦国のチート武将だ。


宗滴(そうてき)の戦い方は前世で研究したからよく知っている。


簡単に略すると、「陣を張るなら雨が降るのを予想して陣を張れ」、「大将は前方に居ろ」、「無理に城攻めをすると人が多く死ぬから避けろ」、「敵方に褒美を与えて、情報を聞き出せ」とかだ。


宗滴(そうてき)が有名になったのは、なんといっても『九頭竜川の戦い』だ。


加賀30万人の一向一揆衆に朝倉勢8,000人の兵で朝駆けによって撃退した。


30万人もいたのかは別にして、暗闇の中で九頭竜川を渡河して、朝駆けで強襲する度胸と実効性だけでも超一流の武将であることは疑いようもない。


油断すれば、一瞬で呑みこまれる。


会ってみたい武将の一人だが、まさか敵対関係になるとは思ってみなかった。


厄介だ。


俺は戦いたくない。


武田家も戦いたくないので本願寺に頼んで背後の加賀で兵を上げて貰った。


つまり、本願寺とのパイプラインが生命線だ。


蓮如が文明七年に吉崎から退去する途中、小浜から遠敷郡にかけての一帯で数十日間滞在したらしい。三方郡や大飯郡には本願寺の覚如・善如・綽如・巧如などへ帰依し改宗したという伝承を有する寺院が多いので、彼らとは仲良くしないといけない。


彼らには他の寺院と違って脅していない。


代わりに本願寺に手紙を送って、若狭で儲けた分の一部をお布施として寄付させて頂くのでよろしくお願いしますと丁寧に頼んだ。


御爺様(前太政大臣の近衛 尚通(このえ ひさみち))の効果は絶大だ。


九条 尚経(くじょう ひさつね)の猶子である本願寺派第10世宗主である証如(しょうにょ)も、尚経の添え状を付けられた手紙を無視できなかった。


経済状況が苦しい九条家にとって近衛家と結ぶのは天啓である。


証如(しょうにょ)から若狭への寺々へ手紙を送ってくれていたのであっさりと話が進んでいった。


俺は久々子を拠点に借金の書き換えと農地改革の為に領主と寺々を巡っただけで要を済ませることができた。


塩田はあの三人に任せます。


俺が居なくても大丈夫だ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 借り入れ(ご利用)は計画的に(笑)
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