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童子切異聞 <剣豪将軍 義輝伝> ~天下の剣、菊童丸でございます~  作者: 牛一/冬星明
第一章『俺は生まれながらにして将軍である』
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3.朽木稙綱

朝早くやって来た朽木稙綱は忠義者だ。


さぞ、やきもきしたであろう。


遅れて来た者に先を越されて怒りを覚えただろうか?


それで見限られたなら、それまでの事と腹を括る。


朽木稙綱は息子である晴綱(はるつな)藤綱(ふじつな)を連れて部屋に入ってきた。稙綱は何事なく平静を保ち、二人の息子は少しばかりのわだかまりを持っているような顔付きであった。


「そなたの土地は川のおかげで水に困らないが、山間の土地で耕作できる土地が少なかったな」

「よくご存じであられます」

「他にも息子が3人ほどいたのではないか?」

「はい、間違いございません」


これくらいことは近習の者に聞けば、誰でも教えてくれる。

知っていることが珍しいのではない。

俺が朽木に興味を持っているということが伝わればいい。


「他の者は席を外せ」

「若様」

「忠臣の朽木の者が三人もいるのだ。何を心配することがある。もうすぐ夕餉の時間であろう。先に取ってくるがよい」

「畏まりました」


従者と女官が部屋を後にする。

それでも護衛の者が何かあってならないと襖に耳を付けて聞き入っていることだろう。

俺は三人に近づくように命じた。


「まずは、謝罪しておこう」

「頭をお上げくだされ。若は我が主人でございます。みだり家臣に頭を下げるものではございません」

「そうか! 朝、早う来たのに最後にしたのには訳がある。これから話は長くなると思う。もしかすると夜が明けるまで聞いて貰うことになると心得て貰おう」

「承知」

「だが、笑ってくれても構わぬが、これから話すことは他言無用である」


三人が頷いた。

さぁ、足利義輝の天下取りをはじめよう。

腐れ縁の友人よ。

おまえのアイデアを借り受ける。


 ◇◇◇


俺は小さな声でこう話した。


「俺は大日如来様より、世を鎮めよと申し付かった阿弥陀如来の生まれ変わりだ」


三人が一斉に目を丸くした。


気がふれたと思われて仕方ない。


知恵が早く、成長が著しいことから『神童』と呼ばれているが、自らが『阿弥陀如来』と名乗るのは行き過ぎていると俺も思う。

転生した知識はそれだけで奇妙なものであり、先に頭がおかしくなったと諦められるならそれはそれでいいのだ。


そう、アイツは言っていた。


「だから、笑ってくれてよいと申したであろう」

「いいえ、若がそう申されるのであれば、そうなのでしょう」

「信じずともよい。生まれ変わりであるからと言って特別な力がある訳ではない。人のそれとなんら変わらん。仏の力は一粒残らず封じられておる。ははは、奇跡を見せろと言われても見せることはできんぞ」


アイツは言っていた。

呆れられていい。

頭がおかしいと思われる程度で丁度いい、そうでなければ次の言葉が生きて来ない。

俺は横に置いてあった木箱を前にして開いた。


「これは天界の知恵である。まずはこれを試して貰いたい」

「これが?」

「開いてみるがよい」


真っ白な表紙を開けて、次に飛び込む文字に驚きを覚える。


『椎茸の人工栽培法』


古くから椎茸は貴重な食材として重宝されていた。

人工の栽培に成功したのは20世紀になってからだ。


それを取り上げると、稲作の改良という冊子で、正条植、様々な農機具が説明してある。他にも水車などいくつかを書き記してあった。


最後に『火薬』の製造法まで書いてあった。


3歳の幼子の所業ではない。


「可能な限り、金は融通する。試しにやって貰えぬか」

「銭の問題ではございません」

「銭の問題だ。金がなければ、将軍家は潰れる」


将軍家が潰れると断言されると、朽木稙綱は目を据えた。


「我らが断れば!」

「稙綱が断るのであれば、他の者も駄目であろう。将軍になるまで諦める」

「そうですか」

「だが、それでは間に合わぬかもしれん。儂が将軍になるまでに朽木家には高島七党の長になって貰わねば困るのだ」

「我らが高島七党の長ですか?」

「将軍直轄の兵がそれくらいなければ、何も始められんであろう」

「確かに」

「引き受けてくれぬか」

「朽木家は菊童丸様の家臣でございます。否と言う訳がございません。ただ、御下知下され」

「余の命である。我が下知に従え」

「「「ははぁ」」」


先は長い、椎茸は5年計画、正条植は1年目に試験をさせて農家を驚かせ、2年目から本格的に採用する。水車を使って耕作地を広げ、鹿や猪などを狩って、猟人を増やす。鍛冶師を抱えて、農機具を作らせ、最終的に鉄砲・大砲を作らせる。


始めるのは2年後になる。

まずは意識改革からはじめないといけない。

そう、アイツは言っていた。


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