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童子切異聞 <剣豪将軍 義輝伝> ~天下の剣、菊童丸でございます~  作者: 牛一/冬星明
第一章『俺は生まれながらにして将軍である』
31/85

30.どうして女性の名前は残さなかったのかな?

遂に、ヒロイン登場!

あぁ~~~、長かった。

朽木谷に帰ってくると、まずは御爺上様と母上のいる菊童丸館(仮)の予定地に行く。

城壁っぽい煉瓦の壁と屋敷の周りに見覚えのない建物がいつくも作られ、横の山も切り出されて興聖寺(こうしょうじ)の別館を作る準備が進んでいる。


興聖寺(こうしょうじ)と菊童丸の館の間に近衛の別宅が建造されることも決まっている?


帝が下向できるような床暖房のある立派な屋敷を造るそうだ。


御爺上様である近衛 尚通(このえ ひさみち)が決め、皆もそれを喜んでいるらしい。


俺の許可が一番の最後だ。


俺が若狭に出向いていたので勝手に話が進んでいる。


難民が少しずつ増えているから、仕事を作ってやるのは悪いことではない。


俺の銭でなければね!


◇◇◇


「御爺様、母上様、菊童丸。ただいま戻りました」

「大した活躍であったと聞いたぞ」

「いいえ、何もやっておりません」

「その年で初陣とか、母は肝を冷やしたぞ」

「申し訳ございません。ですが、私は馬に乗っておっただけでございます。皆がよくしてくれました」

「これ以上、心配を掛けるでない」

「気をつけます」


俺は夏用に仮設御殿であいさつを済ました。


暑い夏用に木造の家を大工が大急ぎで立ててくれた。


元太政大臣と将軍の妃様が住む家とあって、大工達もがんばってくれたらしい。


見た目はみすぼらしいが、清水の舞台みたいな家に底に用水を下に流す。


その流れで涼みを取り、段差を作って可愛い滝を演出している。


興聖寺(こうしょうじ)の庭師が石と水を使って美しい庭を作っていた。


夜は蚊帳(かや)の中でもそれなりに涼しく過ごせるらしい。


高台の南側が公家っぽい屋敷になってゆく。


家が普通っぽいのは宮大工ではないからだ。


「この素朴さが良いのではないか」

「御爺様がそう言われるなら何も申し上げることはございません」

「このまま住み着いてしまおうか」

「御爺様がよろしいのであれば」

「爺、わたしを紹介して!」


急に声を上げたのは、現関白の近衛 稙家(このえ たねいえ)(37歳)の長女である(にしき)様だ。


森御殿で生まれたので、『森殿』、あるいは、『紅葉』と呼ばれ、嫡男の晴嗣(はるつぐ)(後の近衞 前久(このえ さきひさ))らと一緒に避難して来ている。


「爺、早く」

「判った。判った。急かすな!」


紅葉様と目が合うと、にっこりと笑われた。


「菊童丸、どうかこの紅葉を貰ってくれないか」

「はぁ?」

「わたしとは嫌ぁ」

「いいえ、そんな訳もありません」

「よかった!」

「紅葉なら従姉弟同士、私も安心です」

「すでに文は出してある」


こりゃ、決まりだ。

現関白の娘、これ以上の良縁はない。

父上が反対する訳がない。


紅葉が飛び出してきて、俺の腕に縋りついてきた。


積極的過ぎるでしょう!


晴嗣(はるつぐ)が何故か睨んでいる。


シスコンか?


(はる)はね! 初陣を飾った菊童丸が羨ましいのよ」


いやいやいや、晴嗣は公家でしょう。


公家に初陣なんて一生ないよ。


紅葉も晴嗣も下の寺子屋に通って、読み書きそろばん、剣術と馬術を習っていると言う。


ウチの寺子屋は男女平等で女の子も学ぶことができる。


難民の子供らが寺に通うようになって、一緒行くようになったらしい。


紅葉は中等の(あね)さん、晴嗣は幼児のガキ大将らしい。


難民らにすれば、雲の上で人だ。


親が従っているように、子供も二人に従っているようだ。


一緒に学び、書道や礼儀作法を子供らに教えてくれるのはありがたい。


「菊童丸、そなたも馬術が得意と聞く。麿と朽木の屋敷まで競争せぬか?」

「構いませんが、付いてくるつもりですか?」

「当然だ」

「当然ですか?」


うんしょ、何故か俺の後に紅葉様が乗った。


「えっと、その?」

「わたしも行く」

「仕事の話です。面白くないですが?」

「わたしも行く」


近衞家の人間って我儘な人が多いな!


とやぁ、馬の縄を上下に動かして掛け声を掛ける。


引き綱で馬を引いていますから競争なんて実際無理ですよ。


数え4歳の力で馬を御せますか?


無理でしょう。


パッカ、パッカ、馬なりで競争が始まった。


振り落とされずに乗っているだけ立派だ。


晴嗣(はるつぐ)が時々ふり返ってどや顔を晒す。


勝っていると思っているのか?


ちょっとムカつくな!


 ◇◇◇


晴嗣(はるつぐ)のどや顔はすぐに不満顔に変わる。


村に入ると待っていました村人達が駆けつけてきたのだ。


「菊童丸様、お帰りなさいませ」

「皆も元気そうでよかった」

「すべては菊童丸様のお蔭でございます」


この悪天候の中でも去年の倍の収穫が見込めそうな朽木谷の村の衆は口々に感謝の言葉が自然と漏れてくる。


正条植を採用していない上村は大不作だったようで、このままでは五割、最悪の場合は三割の出来になりそうだ。


今年は気温が低く雨が多かった。


正条植と一緒に有機堆肥を使っているので成長が良い。


人糞や馬糞を直接畑に撒いても余り効果がない。


寄生虫や衛生の悪化で実害の方が大きい。


一度、糞と米ぬかと落ち葉などを一箇所に集めて、藁など被せて濡れないようにして自然発酵を待つ。


こうして時々撹拌して冬の間に寝かせておくと完成だ。


水を引く前に堆肥を撒き、しっかりと耕してから水を引いて水田を完成させる。


栄養がしっかりした水田は少ない日光でも成長著しかった。


去年取れた収穫の倍は期待できそうだ。


この大豊作に村人らは大いに湧いていた。


こちらは通常の二倍を見込んでいただけに3割減はかなり残念な結果なのだが!?


口に出すのは止めておこう。


「へぇ、あなたがこの作り方を考えたの?」

「そうですだ。菊童丸様々です」

「わたすの母など立つのもやっとでしたが、塩麹の肉汁を食べるようになってから元気になって農作業を手伝えるまでになりました」

「それはよかった」

「塩麹もあんたなの?」

「俺ではない。京から招いた麹職人が作ってくれた。俺は麹に塩をまぜて肉をほぐすと美味しくなると教えたに過ぎん」

「わたしの母上も塩麹の肉汁になってから食するようになったのよ。あれほど美味な食べ物を今まで食べたことがないわ! ここに来てから美味しいものづくしよ」


京料理の方が贅を尽くしているだろう?


こっちは山の幸で誤魔化しているだけだ。


勝っているのは卵と肉料理くらいで、卵焼き、とき汁、から揚げ、肉団子、ハンバーグなどなど!

ハーブを臭い消しに使い、昆布とキノコを使って旨みを生かしているので京膳に負けてないと思う。


でも、蝦夷から届く昆布は高い。


使っているのは、近衞家と母上の料理だけだ。


紅葉はおやつのくず湯がお気に入りらしい。


やはり甘い物が好きらしい。


下人達があけびなどの果物をよく入れてくれるらしい。


「渋柿はどうしてニガニガするの?」

「知りません」

「本当にニガニガするのよ」

「食べないでしょう」


完熟の柿が美味しくて、干してある渋柿を食べたと言う。


公家の姫が干してある柿を摘み食いするか?


余程、苦かったらしい。


村人もそんな話を楽しそうに聞いている。


人徳は悪くない。


が、紅葉は下人(元難民)の家に行ったのは頂けない。


そりゃ、迷惑だ。


姫様の『突撃! 隣の晩御飯』なんて心臓に悪い。


「あの固い肉も割と好きよ。中々、切れないの」


どうやら破天荒な公家の姫らしい。


晴嗣(はるつぐ)もこの姉に連れ回されてらいる。


あぁ~、ちょっと合掌!


近衞 前久(このえ さきひさ)、主人公の菊童丸と同じ年です。

天文9年(1540年)に元服し、足利義晴から偏諱を受け晴嗣(はるつぐ)を名乗る。

幼名は不明?

オリジナルでもいいけど、面倒なので幼名も晴嗣(はるつぐ)でいきます。

〇丸とか、〇君とか、幼名が多そうだけど、前久は判りません。


近衛 錦(このえ にしき)の名前はオリジナルです。

近衛 稙家(このえ たねいえ)の長女が足利義輝正室ですが、何年に生まれたかは不明です。前久が義輝と同年に生まれているので、幼少の頃より婚約している可能性が高いと思われます。1歳か、2歳ほど年上の姉であると推測しますが、実際に妻になったのは永禄元年(1558年)とかなり遅いのです。

しかし、天文9年(1540年)前久が偏諱を受け晴嗣(はるつぐ)を名乗っていることから、近衛家と足利家の関係は深く、足利義輝正室がこの時点で婚約者でない方が不自然に思えます。


法華の錯乱など京を逃げ出した近衛 稙家(このえ たねいえ)らが避難していた聖護院辺りは森御殿と呼ばれ、紅葉が美しいことから『錦林』と呼ばれていたそうです。

ここを由来として、足利義輝正室の名を錦と名付け、通称を森殿、紅葉としました。


作品上の都合で少し年齢を高く設定しています。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 現状は持ち出しばかりで苦労の団体様(笑)今後は お小遣い(塩と五百石)が増えると思われるので多少なりとも 楽になってほしいです。
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