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童子切異聞 <剣豪将軍 義輝伝> ~天下の剣、菊童丸でございます~  作者: 牛一/冬星明
第一章『俺は生まれながらにして将軍である』
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19.阿呆は俺で、三好政長は馬鹿でなかった。

はぁ?

ははははははぁぁぁぁぁぁぁぁ、なんだって!

俺は天を仰いだ。

自分の阿呆さを呪った。


若狭守護の武田 元光(たけだ もとみつ)(45歳)が病床に倒れ、嫡男の信豊(のぶとよ)(25歳)が管領晴元を助ける為に軍を起こす準備をしているだって!


俺は阿呆だ。


武田と六角が幕府を味方すると思い込んでいた。

そんな保障がどこにもなかった。


三好 政長(みよし まさなが)は何の考えもなしで交渉を長引かせていた訳じゃなかった。


ちゃぶ台返しだ!


交渉の土台から全部ひっくり返す一手を打っていた。


近江・六角と若狭・武田が管領・細川 晴元(ほそかわ はるもと)を味方すれば、『四面楚歌』に追い付けられるのは、幕府と孫次郎(長慶)の方だ。


気が付かなかった。


 ◇◇◇


近江守護六角定頼と若狭守護武田元光は高国派として、細川晴元・三好勢と戦っただけであり、将軍家に味方するとは限らない。


(武田)元光は父上の信頼が厚く、俺の腹違いの妹を(武田)元光の孫の嫁に決めている。


父上の側室は若狭の幕府御料所の代官を務めた大舘 尚氏(おおだち ひさうじ)(85歳)という爺の娘だが、その側室が産んだ俺のかわいい妹には変わりない。


つまり、信豊の嫡男である義統(よしずみ)(13歳)は俺の義理の弟になる予定だ。


妹が嫁いだ時点で、若狭武田家は将軍家準一門になれる。


そりゃ、信頼も厚くなる。


「大殿は病床の為に家督を彦二郎(信豊)はお譲りになられました。まさか、将軍家を裏切るなど言い出すと思いもしなかったと思われます。我が殿をお助け下さいませ」

「新左衛門(沼田光兼)、安心せよ! 見捨てる訳がなかろう」

「ありがたきお言葉。菊童丸様に一生の忠義を奉げさせいていただきます」

「うん、頼みにする」


沼田光兼の主家は賀羅岳城主の山県盛信(やまがたもりのぶ)といい、病床の元守護元光の弟だ。その盛信の嫡男である元盛(もともり)に、沼田清延の娘を養女として嫁に出している。


将軍派の(山県)盛信が倒れれば、(沼田)光兼にも累が及ぶ。


(山県)盛信の領地は鯖街道の入口にあたる太良庄であり、幕府御料所に近く、大舘氏とも親密な関係であることが大きい。


(山県)盛信は義統(よしずみ)烏帽子親えぼしおやで親同然だ。


つまり、山県家は我が妹の後ろ盾となる。


「で、式部大夫(山県盛信)殿はどうされておる」

「大殿を見舞いに行かれたおりに捕えられ、後瀬山城(のちせやまじょう)に監禁されております」

「そこまでするか?」


新守護の信豊(のぶとよ)も叔父盛信に危害を加えるつもりはないようだが、自由にすると反信豊連合を結束しかねないので館の一室に閉じ込めているに留めていた。

当主が拘束されているので山県一門は何もできない。


人質である。


主人のいないガラガラ城(賀羅岳城)では、嫡男の元盛(もともり)が指揮を取っているがまとまらないらしい。


惟助(ただすけ)、今月中に孫次郎(長慶)が摂津の榎並城を落とす可能性はあるか?」


三好の対立が終われば、兵を上げる必要はなくなる。


榎並城は河川に挟まれた湿地地帯の高台に建てられた平城であり、攻めるのは大変だが大した城ではない。その気になれば、10日で落ちると言われているが詳しいことは知らん。


「まず、幕府が許可を安易に降ろしますまい」

「だよな!」


(いくさ)になれば、静観している(六角)定頼が動き出す。


六角定頼は天文5年の法華の錯乱の後に、三条公頼の長女を猶子として管領晴元に嫁がせている。


厄介なのは、定頼の実娘が若狭新守護の信豊に嫁いでいることだ。


近江守護・六角定頼(義理父) =  管領・細川晴元(義理息子)猶子の婿

近江守護・六角定頼(義理父) =  若狭新守護・武田信豊(義理息子)実娘の婿


つまり、管領・細川晴元(義理兄弟) =  若狭新守護・武田信豊(義理兄弟)


三条公頼の長女を起点に三者が義理で結ばれている。


定頼は管領・細川晴元の実権が三好に移ることを快く思うまい。


絶対に仲介に乗り出してくる。


幕府(伊勢のおっさん)はその調整が終わるまで討伐の命を止めるハズだ。


「むしろ、こちらの情勢が向こうに影響するのではないでしょうか」

「若守護の信豊が若狭をまとめられるかという意味だな!」

「はい」


信豊が若狭をまとめた時点で孫次郎(長慶)の負けが決まる。


「孫次郎(長慶)のことだ。易々と負けてくれないだろうな?」

「幕府を捲き込んで最後まで足掻くでしょう」


いい迷惑だ。


孫次郎(長慶)が何をするにか?


俺には読めない。


読めないならそうならないようにすればいい。


「彦二郎(新守護・信豊)を止める」

「「「「「「はぁ」」」」」」

惟助(ただすけ)、貞孝のおっさんに伝えろ。俺が彦二郎と話しにいったと」

「はぁ」

「三朗(朽木くつき 成綱しげつな)、親父殿に心配無用、いつ幕府から出陣が掛かるか判らんので兵は温存しておけと。また、山狩り隊に仔細を伝えて、イザという場合は山狩りを中止して朽木谷に戻る心積もりをしておくように伝えよ」

「はぁ」

「新左衛門(沼田光兼(ぬまたみつかね))」

「はぁ」

「直ちに兵を集めよ」

「はぁ、では陣触れを」

「陣触れは無用じゃ。相手を威嚇しては話合いもできん。家臣、縁故を頼って手勢のみを集めよ。特に馬を可能な限りかき集めておけ!」

「馬でございますか?」

「万が一の保険よ」

「はぁ、直ちに」

「他の者はガラガラ城(賀羅岳城)に迎え!」

「「「はぁ」」」

「して、若はどうされますか?」

「決まっておろう。大膳大夫(前若狭守護・武田 元光(たけだ もとみつ))」の見舞いにいってくる」

「それは危険では!」

惟助(ただすけ)、お主がおれば大丈夫であろう」

「無茶をなされる」

「大膳大夫が病と聞いて見舞いに行くだけだ。その俺に何かすれば逆臣となり、若狭はまとまらん。これで終わりだ」

「正気ならば、手を出しますまい」

「正気であることを祈ろう」

「無事に出られれば、(いくさ)ですか」

「俺は知らん。そもそも俺では兵も集まらん」

「そうですな。将軍の息子に義理立ててあつまる国人は少のうございます」


幕府御領を預かっている国人が1,000~2,000人ほどを掻き集めて来ても不思議ではないのだが、幕府の権威はそれほど高くない。


守護に逆らえば、蹂躙が待っている。


動いてくれるのは、山県氏と大舘氏の縁の者くらいだろう。


俺と新守護では勝負にならん。


(いくさ)になるかは彦二郎(新若狭守護信豊)に聞け! 俺はする気はないぞ。あくまで話合いだ」


沼田光兼に兵を集めさせるのは、万が一の為だ。


ふっ、勝てないまでも一矢は報いてやる。


勝てなくとも負けない策ならいくらでもある。


それで若狭から兵を出せない。


三好政長の策はそこで終わりだ。


問題は彦二郎が馬鹿でないことを祈るだけだ。


殺されるのは割に合わん。


 ◇◇◇


俺は鯖街道を北上して小浜に入った。


俺が向かったのは旧居城の武田氏館だ。


今の居城は館の南側にある後瀬山に元光が後瀬山城(のちせやまじょう)を築かせた。


平時は不便な山城ではなく、小浜湊の近い武田氏館で暮らしている。


病床の元光もこちらにいた。


「お初にお目に掛かります」

「初ではないぞ。まだ、赤子の折りに会っておるぞ」

「そうでございましたか」

「大きゅうなられた」

「お加減は如何でしょうか?」

「すまんのぉ。迷惑を掛ける」


元光は気力を失い、体を起こすのも辛そうであった。

信豊のしていることを嗜めているのだが言うことを利かないようだ。


「此度のことは儂も幕府の手落ちと思っておる」

「それを言われると辛ろうございます」

「はぁ、はぁ、はぁ」


元光が力なく笑った。

ホント、父上(将軍義晴)が孫次郎(長慶)に関与しなければ、幕府の関係ない所で争乱が起こってハズである。

父上の手落ちは間違いない。


「少々、若狭をかき乱すことになりますが、お許し下さい」

「源三郎(山県盛信(やまがたもりのぶ))を幽閉した時点で覚悟しております」

「悪いように致しません」

「本当に立派になられた。ご随意に!」


元光の病気が何か判らない。

しかし、今すぐに回復は無理と悟った。

やはり会うしかない。


俺は後瀬山城に向かった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] まだ19話までしか読んでないのですが、剣豪将軍にはロマンがあって良いですね。 [気になる点] ここまで楽しく読んでいたので作者さんの気分を害するつもりは無いのですが、 どうしても19話の人…
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