表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
童子切異聞 <剣豪将軍 義輝伝> ~天下の剣、菊童丸でございます~  作者: 牛一/冬星明
第一章『俺は生まれながらにして将軍である』
19/85

18.朽木の領地は広かった。

朽木の領地、マジ滅茶苦茶に広いぞ!


1周回るだけで1ヶ月も掛かったよ。

(朽木村の面積は165.77km2 、山手線の内側63km2 が2.6個も入る。153万人が住む川崎市の143km2 より広い)


山でなければ、20万石も夢でない広さだ。


朽木の石高は6000石だが、簡単な灌漑をすれば1万石くらいは余裕で増やすことができる。


朽木は6公4民を採用しているが、麻・粟・稗などの雑穀は徴税しない。


麦・大豆は米の代わりに年貢とすることもできる。


小さな村が多く、朽木陣屋の周辺からしか兵は集められない。


石高ほど兵が集められない土地である。


河川が多く水が豊富になるが、河の氾濫で土地の3分の一も農地として使えていない。


灌漑事業を行えば、2万石は問題なく開拓できる。


戦国時代の灌漑事業で、『信玄堤(しんげんつづみ)』くらいは俺だって覚えている。


10年近く掛かった大事業だ。


朽木はまとまった河川がない分、事業は小さくて済むが総延長が長いので期間は10年で済むか判らない。


銭も掛かるので保留だ。


朽木陣屋近くに段々畑を作ろうとしたのは、兵の補充を考えての事だった。


難民対策を考えるなら奥地の荒地を開拓した方が早い。


近くから新しい村をいくつか作ってゆこう。


その代わりに山狩りに使っている1200人を兵として代用できなくなるが仕方ない。


はじめからなかった思えばいい。


そう、想定外で集まっただけだ!


山狩りをした成果を聞いて俺はにんまりと笑った。


『昔の人は偉かった』


どんぐり・山芋・山ふき・わらび・タラの芽、アブラギ、ぜんまい、茸など、山ほどの珍味を大量に取ってくれた。


どんぐりって、すり潰すと小麦みたいに使えたりする。


それを大量GETだ。


他にもあけび・アカモノ・木苺など果実の生息域も確認したという。


山果実のヤマグワ、マタタビ、サルナシ、ヤマボウシ、ガマズミって、どんなだ?


知らん。


椎茸など高級食材も手に入ったらしい。


母上の食材も確保できたと書いてあった。


昔、山があると飢え死にしないと爺ちゃん言っていたが、こういうことか!


 ◇◇◇


俺の警護は三男の朽木くつき 成綱しげつなが指揮を取り、朽木の武将6人が守っている。


京との連絡は和田 宗立(わだ そうりゅう)が取り仕切る。


(和田)宗立は通称を惟助(ただすけ)といい、甲賀武士53家、山南七家の和田家の者であり、父上が付けた俺の護衛だ。


幕府が新たなに雇い入れた6人の甲賀者を使って連絡を密にしている。


6人は伊勢 貞孝(いせ さだたか)辺りが俺の監視の為に付けたのであろう。


巧く使ってやるさ!


朽木の者達を世話しているのが俺の狩人である下人の100人であり、先行して手紙を届け、同時に周囲の地形を確認する。


後方の山狩り部隊とも密に連絡を取ってくれる。


山狩りは自領の南側から始まり、山を越えて狩りを続ける。


自領のみ山狩りをすると他領に獲物を追い立ててしまい、相手側に大きな迷惑を掛けるからだ。


だから、向こう側の村からも山の奥に追い立てて必要がある。


狩人の下人、難民より男衆・荷駄衆を借り出し、山狩りに1,200人が参加している。


狩りをするのは1年以上も鍛えた狩人らだ。


男衆は獲物の追い立て・解体・処理を担当し、荷駄衆は運搬・後方中継所の設営・各村のケアーを担当する。


男衆と言っているが、能力があれば男か女かは関係ない。


割合は10対1だ。


やはり体力がモノをいう。


荷駄衆には煉瓦衆も混じっている。


その分、煉瓦造りの家を造るペースを落とすことになった。


お爺様らが『帝でもこれほど素晴らしい屋敷に住んでおらん』なんていうから、みんな分不相応(ぶんふそうおう)と言い出して、誰も住めないと言う。


床暖房やお風呂機能のない劣化版の煉瓦屋敷を造ることで納得し、冬までに全家族の家をゆっくりと築造する。


狭い家も慣れたのでいいそうだ。


嬉しい誤算は煉瓦師、大工と呼べるような職人見習いが育ってきたことだろう。


そりゃ、同じ作業をすれば慣れるか!


見習いだけでも中継拠点となる場所に煉瓦造りの集会所と倉を築造させることができる。


中継拠点は将来の村候補地でもある。


少しずつ進めて行こう。


朽木村の正条植も順調にスタートした。


塩水選も首を傾げながらも反対者はいなかった。


俺が見ていたしね!


苗植え、数本ずつ苗の束を持って植えてゆく。


そこで村人が集まって祭りを開いた。


村人は数本ずつ苗を植えながら祭りを開いた。


苗を植えは村人にとって一大イベントらしく、男が苗を運び、女達が植える。


笛や太鼓を叩いで元気に育てと祈りを飛ばし、その音に合わせて伊勢海老が書かれた扇を持って神楽を舞う。


楽しいそうだ。


苗植えは最新の植え方らしい。


北の方に行くと適当に米種を蒔いて終わる所もまだ多いという。


土を掘り返しとか、均等に植えるのはされていなかった。


面倒がられた。


去年のテスト植えを見て、村人が首を傾げていたが、今年は逆に熱心だった。


テストの田だけが大豊作だったからだ。

(俺的には不作)


これを菊童丸様植え、略して『菊植え』と呼んでいる。


だから、『正条植』だって!


今年は朽木陣屋周辺の3000石が対象だ。


奥の村から有力者を何度も見学に来させて、来年から全村で行う。


やっと粗銅も入荷して、錬金術も再開だ。


順調、順調!


京は遂に小競り合いが始まったかと言うとそうでもない。


孫次郎(長慶)が我慢強いという意味がやっと理解してきた。


俺はこいつとだけは戦をしたくないと思った。


孫次郎(長慶)は政長の悪事を片っ端から調べ、幕府に訴えるという地味な嫌がらせを始めた。


正当な行為で訴えているので、孫次郎(長慶)に非は1つもない。


天文8年(1539年)5月17日政長の被官である唐木崎開康が買得した大徳寺領を父上(足利義晴)の命で大徳寺に返付するように下った。


恐喝の罪であった。


しかもトンでもない絡め手を打っていた。


(管領)晴元から頂いた織田信秀の大鷹のお礼を尾張に送っていたのだ。


普通、そこまでするか?


そこで大鷹を送った経緯が明らかになる。


尾張の織田右衛門尉(信秀の弟)は本願寺証如から長嶋願証寺や興善寺に味方をするよう依頼する書状を木沢長政に送り、木沢長政が証如に話しを付けたのだ。


そのお礼に(木沢)長政とその主人の管領(晴元)の両方にお礼が届けられた。


つまり、木沢長政は証如に借りが1つできた。


孫次郎(長慶)は証如に頼んで、(木沢)長政が『三好の内部抗争』で孫次郎(長慶)に付いて欲しいという依頼をする。


つまり、


孫次郎(長慶) VS (管領)晴元


ではなく、


【三好】孫次郎(長慶) VS 【三好】神五郎(政長)


という三好の内部抗争という図式に変えてしまった。


これなら(管領)晴元様に逆らう訳でないので、(木沢)長政も孫次郎(長慶)に味方できる。


(木沢)長政が味方になると、伊丹次郎、池田筑後守、柳本孫七郎、三宅国村、芥川豊後守らが味方すると表明した。


そこで追い打ちを掛けるように、【三好】神五郎(政長)を討伐の命を幕府(父上)に申し出た。


摂津衆の有力者が集まって、三好政長の拠点である榎並を攻めましょうという。


互角どころか、圧倒的な有利な状況を作ってしまった。


制止すると(管領)晴元は幕府を謀った謀反人を庇うことになるので、表立って動けない。


三好政長を排除すれば、(管領)晴元は手足を捥ぎ取られたのと同然になる。


実に巧妙だ。


俺なら(管領)晴元を挑発して、幕府と対立させる所までしか読めなかった。


これで17歳(数え18歳)だって!?


老練過ぎるだろう。


こいつ、転生者じゃないか?


絶対に戦いたくない。


 ◇◇◇


俺は京からの報告書を読み終えると、瓜生庄を賜った熊川屋敷の沼田光兼の誘いで宴の席にやっていた。


沼田氏の領地は近江の最北端、鯖街道に沿った領地を持ち、朽木の北側に当たる。


沼田光兼は若狭国守護職武田氏に仕えている。


山狩りの件も快く了承してくれた。


これで俺は山道から解放されて、鯖街道を通って朽木谷に戻ることができる。


「菊童丸様、どうか我が主人をお救い下さいませ」


はぁ、突然、沼田光兼が土下座をして願い出た?


孫次郎(長慶)の老練さは史実にそっております。


さぁ、第1章中盤の山場に突入です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ