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第五話 猫又

 昔々。


 ある所に一匹の年老いた猫がいた。

 猫は、一人の若者…めぐるの飼い猫だった。

 その猫はかれこれ五十年近くの時を生きていたが、毛並みも美しく、足取りもしっかりしていた。

 飼い主である巡の愛情を一身に受けた猫は、忠実に彼に仕えた。


 しかし、ある日…


「そ、そんなバカな…!」


 驚きの表情を浮かべ、目の前の証文を見詰める巡。


「にゃーん…」


 そんな彼を心配そうに見上げる飼い猫…ミヤ。

 彼らの前には、柄の悪い二人組の男がいる。


「バカなもバナナもないわ。残念だったわね」


 オカマ口調の小柄で頭の大きな男が、薄く笑う。


「貴方のお友達、雄二君は借金を返すこと無くトンズラ。で、保証人である貴方にお鉢が回って来たってワケ」


「へへへ…俺達『九十九組つくもぐみ』が貸した金二十両、耳を揃えて返してもらうぜェ?」


 こちらは背の高い細身の男だ。

 口に咥えた長楊枝を、威嚇するように上下させる。

 この二人、名前を禅丈ぜんじょう 丸弧まることヤスという。

 二人は高利貸しを営むやくざ者である。

 彼らに金を借りた親友の雄二。

 巡は、その保証人を引き受けていた。

 が、その結末は、いま二人が口にした通りだった。


「お金は…ありません」


「ま、こんなウサギ小屋での暮らしぶりを見れば、そんなのは一目瞭然ね」


「どうするんですかい、アニキ?」


 その瞬間、ヤスの顔面に丸弧の頭突き(パチキ)が炸裂する。


「ぶべらっ!?」


 吹き飛ぶヤスに、丸弧はハンカチで額を拭いつつ、


「あたしのことは『若頭』って呼べと、何度言ったら、貴方のミジンコ頭は分かってくれるのかしら?」


「あわわわ…」


 目の前で突然勃発した暴力シーンに、すっかり縮みあがる巡。

 そんな彼に、丸弧はにじり寄る。


「さて、それじゃあ早速始めましょうか」


「は、始めるって…何を?」


 脅える巡に、丸弧が下品に鼻息を荒げる。


「よく見れば、可愛い顔してるし、なかなか好みよ、貴方♡」


「ひっ!?」


「あたしがきれいにお化粧して、立派な『男の娘』に仕立ててア・ゲ・ル♡」


「うわあぁぁぁぁぁッ!!」


 恐怖に慄く巡。

 その時だった。

 巡の前に、ミヤが立ち塞がるようにして威嚇する。


「シャアアアアア!」


「ん?何、このブタ猫は?」


「ミャッ!?フギャギャ~!!」


 丸弧の言葉に、エキサイトするミヤ。

 しかし、悲しいかな、所詮は猫。

 丸弧に文字通り一蹴されてしまう。


「ああっ!ミヤ!」


「おっと、貴方は私と来るのよ」


 駆け寄ろうとした巡の肩を、丸弧が掴む。

 息を荒げる丸弧。


「安心して。コスチュームならメイド服にキャビンアテンダント、バニーガールまで、幅広く取りそろえてあるからね♡」


「い、イヤ過ぎる…!」


 巡がいよいよ覚悟を決めたその時だった。


ピッピッピ…ポーン


「な、何?」


 突然響いた時報のような音。

 それと共に、突然目映い閃光が立ち昇る。

 その光の中に、ミヤの姿があった。


「ミ、ミヤ…!?」


「な、何なのあの猫!?」


 閃光の中、ミヤの姿が変化していく。

 耳はそのままに身体は人間大まで膨らみ、手足がしなやかに伸びる。

 髪もサラリと伸びゆき、一本だった尾が二股へ裂けた。

 一瞬後には。

 そこに可愛らしい、ゴスロリメイド姿のネコミミ少女が立っていた。


「いったーい!(怒)」


 頭のタンコブを押さえつつ、丸弧を睨むネコミミ少女。


「いきなり蹴りとばすなんて、にゃんてことすんのよ!」


「ね、猫が…人間に!?」


「ミヤ…なのか…?」


 そう呼び掛ける巡に、ネコミミ少女…ミヤが振り向く。


「にゃは♪人間このの姿では初めましてだね、ご主人サマ」


 ネコミミ少女はニッコリ笑った。


「そうでーす!貴方の忠実なるラブリーな愛猫、ミヤこと宮美でーす♡」


 びし!とサイドvサインを決めつつ、ウィンクするミヤ…宮美。

 巡は唖然としたまま、目を瞬かせた。


「そんな…どうして、急に人間に…!?」


「あー、うん。あたし達猫はね、五十年生きると“猫又ねこまた”っていう妖怪になるの」


「“猫又”!?」


「そう。で、さっきの時報が丁度、五十年経ったっていう合図だったの。それで、私も晴れて“猫又”にランクアップしたってワケ」


 そして、宮美はキッと丸弧を睨み、指を突きつける。


「あたしの大事なご主人サマを、気色悪い趣味に引き込もうとする悪者!あたしが“猫又”になった以上、もう、あんた達の思い通りにはさせないからね!」


「気色悪いですって…!?」


 宮美の台詞に、丸弧が顔色を変える。


「言うじゃない、ブタ猫。でもね…」


 フッと薄く笑う丸弧。


「不思議の国のアリスルックもあると言ったら…如何かしら?」


「なっ!?」


 それに大きく身体をぐらつかせる宮美。

 全身にダメージ痕を纏わせ、口の端から血の筋を流す。


「な、何て…魅惑的で危険なものを…!」


「おいおい…!」


 思わずツッコミを入れる巡。

 宮美はハッとなって、頬を叩く。


「クッ!そんな手は効かないわよ、悪者め!」


「思いきりグラついてたようだけど…まあ、いいわ」


 丸弧は、ニヤリと笑った。


「勇ましいのは結構だけど、その細腕であたしに勝つ気?悪いけど、あたしは可愛い男の子には手加減しても、あんたみたいなチャラチャラした女には容赦しないわよ?」


 宮美はフッと笑った。


「あたしもね、ご主人サマをいじめる奴には一切容赦しないのよ」


 そう言うと、宮美はおもむろに身構えた。


「【燦燦七猫姿デュニャッ】!!」


ドロン!


 声と共に、三池の姿が煙に包まれる。

 そして、その中から巨大化した宮美が立ち上がった。

 あんぐりとり口を開ける丸弧に、G(ジャイアント)宮美が勝利の笑みを浮かべる。


「そんじゃあ、さっきのお返しね♡」


「う、ウソ…」


「ジャイアント!プリティ☆猫パーンチッ!!!!」


どげしっ!


「ぉおおおおおぼえてなさいよぉおおおおお…!!」


「ァ、アニキィーーーーーーッ!!!」


 星になる丸弧とそれを追い掛けて走り去るヤス。

 ビックリしたままの巡に、宮美はvサインを決めて見せる。


「にゃははは!正義は必ず勝つ!」




 その後。

 巡は「変身美少女猫娘」としてブレイクした宮美の活躍もあって、無事に借金を返済。

 二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。


 滅茶苦茶過ぎて、あなおそろしきことなり。

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