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第四話 二口女

 昔々。


 とあるところに、めぐるという若者がいた。

 巡は正直者で、心優しかったが、貧乏でその日の暮らしも困るほどだった。

 そんな巡も年頃になり、方々から見合いの話が持ち掛けられた。

 が、巡はそれを全て断っていた。

 皆が理由を聞くと、


「僕、お金がないから、お嫁さんをもらっても、食べさせてあげることもできないんです」


 と、力無く笑う巡。

 そして、冗談で、


「もし、ご飯を食べないっていうお嫁さんがいたら、紹介してください」


 と言っていた。


 そんな折りだった。


「はいはーい!ちゅーもーく!」

「貴方の理想のお嫁さん、推参!」


 突然、巡の家に一人の女子おなごがやって来た。

 長い髪と、ばいんばいんのプロポーションを持ったその女は、現れるなり巡に自分を売り込み始めた。


「ねーねー、お姉さんと結婚しちゃおーよ♡」

「私、ご飯は要らないから♡」


 口は一つなのに、連続で喋っているような不思議な話し方をするその女に押されに押された巡は、遂に結婚を決意したのだった。


「よ、よろしくお願いします」


「うんうん、まーかせて♡」

「お姉さん、頑張っちゃうから♪」


 こうして始まった巡と女…唄子うたこの新婚生活は、順風満帆だった。

 公言した通り、唄子は食事は一切摂らない。

 しかも、人並み以上によく働く(それ以上に、よく喋りもしたが)。

 あまりにも都合のいい設定に、巡は、


「せめて、一食だけでも食べませんか?」


 と心配するが、唄子は衰えるどころか、血色もいい。

 それどころか、巡に出される食事も、良いものになってきている。

 しかし、理由を聞いても、唄子はニコニコ笑うだけだった。


「大丈夫!心配しないで、ダーリン♪」

「お姉さんにどーん任せなさい!」


 そんな唄子の様子を不思議に思った巡。

 ある日、仕事に出掛ける振りをし、悪いと思いつつ唄子の様子を監視することにした。


 すると…


「唄子さんのお宅はこちらですか?」


 見ると、一人の女性が巡の家にやって来た。


「そうでーす」

「いらっしゃいませー♪」


 女性を出迎え、お茶を差し出す唄子。

 そして、


「それじゃあ、早速…」

「貴女のお悩み、お伺いします」


「はい。実はうちの亭主が…」


 と、延々と浮気性な亭主の話を相談し始める女。

 それに聞き入っていた唄子は、


「ふむふむ、成程。なら、こんな手はどうかしら?」

「相手の浮気現場を抑えて、動かぬ証拠を突き付けるのよ」


「はあ、証拠ですか?」


「そう。そうすれば、いざという時、こっちが有利になるし…」

「場合によっては、浮気相手側にも賠償金を請求できるかも」


 そして、巡は見た。

 唄子の後頭部に、もう一つの口が開き、言葉を発しているのを。

 つまり、唄子は妖怪で、いつもの口調は、前後の口が喋っているから、連続で話しているように聞こえたのだ。

 しかし、相談に来た女は、唄子の適格なアドバイスに聞き入り、気付いた様子はない。


「な、成程。ためになるわぁ」


 それから。

 唄子の元には様々な人達が訪れ、相談事をしていった。

 唄子はそれに丁寧に答え、アドバイスを送っていく。

 そして、そのお礼に…


「今日は、うちで取れた大根を持ってきたよ」

「山芋をたくさんもらったんだ。よければどうぞ」

「タマゴ、要るかい?新鮮だぞ」


 次々と相談者達がお礼の品を置いていく。

 それこそ、巡と唄子だけでは食べきれない程だ。

 唄子は、それを受け取り、ニコニコだった。


「うわぁ!皆、ありがとうね♪これだけあれば、私もおなか一杯♡」

「あとは、ダーリンに美味しいご飯を作ってあげようっと!」


 巡は、それを静かに笑って見ていた。



 その夜。


「ただいま戻りました」


「おかえりなさい、ダーリン!」

「ご飯出来てるわよー」


 見ると、いつものように、一膳だけの夕飯が用意されている。

 巡は、唄子に言った。


「お膳、もう一つ出してくれませんか?」


「えっ?」

「どうして?」


 首をかしげる唄子に、巡はニッコリ笑って見せた。


「ご飯は、大好きな人と一緒に食べた方が美味しいですから」



 その後、二人は末永く幸せにくらしたそうな。


 幸せ過ぎて、あなおそろしきことなり 

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