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平成三十一年の大晦日

 しかし、あれから一か月ほどたったが、俺はなんの行動も起こせずにいた。今日は十二月三十一日であり、24時間勤務のためウルと一緒に勤務に当たっているが、それだけだ。いやに周りが気を利かせているので二人で交番に詰めているが、ただ・・・祭りの音だけが聞こえる。


 「なあ」

 「な、なんだ」


 いきなりウルに話しかけられて意味もなく動揺するがウルはそれが気に入らなかったらしい。俺の後ろから手を回して抱きついてくると、耳元でささやく。


 「あのな・・・」

 「すみませんちょっといいですか?」

 「うあああああああ!」

 「だあああああああ!」


 ドターン!


 いい雰囲気でいるときに駆け込んできたのはすぐ隣にある関所の門番だ。交番のすぐ隣にあり、その管理は雇っている獣人たちに任されていて、何かあった時は担当の交番に来ることになっている。

 というより俺もウルも驚きのあまり床に倒れ込んでしまっているが、門番は気にする様子もなく話を続ける。


 「門の外にですね。変わった人間が来ているのですが」

 「変わった人間?」


 街の門は午後六時で閉じられるが、門には小さい扉が付いている。そのため、夜間に発生した事件の犯人を逃がさないために出ることはできないが、入るのは門番の権限で結構自由に入ることができるようになっている。

 それにしても気配に敏感なはずのウルがすっかり気を抜いているなど何を話すつもりだったのだろう。俺はそんなことを考えながらウルと門まで歩く。


 「とりあえず、中に入れて」

 「はい」


 バタン


 「ハッピーニューイニャー」

 「はいはい」


 戸が開くと同時に飛び込んできたのは猫の獣人であるキャシーである。一応猫の獣人とは言っても交番のキャッドのように狩猟を主とした種族ではない。キャシーはイエネコのようにほかの種族とともにくらす猫なのだ。警部補が言うには完全に玉の輿を狙ってこの街に出入りしているらしい。


 「つれないのにゃー。もうすこーし優しくしてくれてもいいと思うのにゃ」

 「はいはい」


 全く調子がいいというのか、やりにくくて仕方がない。


 「うにゃ!」

 「・・・」


 会うたびにこんな調子でいつもの出来事なのだが・・・このやり取りをよく思わない者がいたらしい。この一帯の空気が凍るような感覚に俺柄は体を縮こまらせる。振り返れば後ろにいるウルが殺気を出しながら射貫くような目でこちらを見ている。これには俺やキャシーどころか門番やほかの獣人たちでさえ身を固めるほどだ。


 「と、と、とりあえず本題を言うとにゃ・・・」


 さすがのこれにはキャシーもおとなしくなる。俺も一歩下がってウルに近づき、手を握ってやる。なんとか先ほどの空気はどうにかなったが、本当に身が固まる。ワーオン達男三人でも勝てないという理由がよく分かった気がした。


 「み、道に迷ってたから、つ、連れてきたのにゃ」


 とは言っても、キャシーはいまだにビクつきながら話をする。どうやら人間がケガをしていたので連れてきたようだが、何やら着ているものや持っているものがおかしいというのだ。今は回復薬で傷の治療をして眠っているようだが、確かにその若い男のしている服装は俺がこの世界に来た時のような、この世界にはない服である。


 「とりあえず交番に」


 俺はそういってキャシーに交番の中に運ばせる。


 ピピピピッ!


 俺が笛を吹くとワーオンやキャッド、フォックスがすぐにやってきた。


 「どうしました」


 非常時ではない際の呼び出しなのだが、祭りの喧騒の中でも聞き取れるのはやはりすごい。俺は街の治癒魔法師や警部補を連れてくるように言って所持品を改めながらキャシーから話を聞き出す。


 「森の獣たちにガブつかれてるされてるところを助けて、ここに連れてきたにゃ」

 「どこの森?」

 「ここから――――――。」


 話を聞きながら所持品を改めていたが、それを見つけたときの気持ちは何とも言えない気持ちになった。所持品にある運転免許証、交付や有効期限は本来、平成という元号で書かれていなければならないのである。



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