非番
非番の日は本当にやることがない。テレビもなければラジオもないのだ。ここでは中途半端に科学技術が進んでいるが、都合よくそういった技術者が来るとは限らない。今できているのは最初に聞かされた蒸気機関と発電機ぐらいだ。一応、水を電気分解して中に水素を詰めた繋留気球を作ることをやっているみたいだが、用途が限られているというのが問題だろう。エンジンを詰めれれば飛行船になるといわれてはいるがエンジンの小型化や燃料など問題は多くある。これだけでも元いた世界がいかに技術の積み重ねのもとにあったかがよくわかる。
そして、昨日は丸一日家で休んでいたが、明日の仕事までにどこか出かけたい。俺は財布だけ持って街へと繰り出した。
「おはようございます」
「おはようございます」
すれ違う知り合いたちに会うたびに挨拶する。朝なので日本人と結婚している獣人たちなどチラホラいる。今思えば下町みたいな木造建築の街並みに獣人が普通にいるのにも慣れた。
・・・・・
それから俺はいろいろなところを回った。酒場はもちろん、海岸沿いの公園など普段見ることがない景色を楽しんでいた。
「んっ?」
見慣れた毛並みのそれは、公園の長椅子に寝っ転がってスヤスヤと寝息をたてていた。顔に布をかぶせているが、間違いなくウルである。
「なにやって――っん!」
「なんだ。お前か」
ウルに声をかけようとした瞬間、俺は腰のベルトを引っ張られ、気が付けばウルは後ろで俺のことを長椅子に押さえつけていた。
「びっくりした」
「いきなり手を出すな。殺すところだったぞ」
お前はどこかのスナイパーか、と言ってしまいたくなるがどうせ伝わらないだろう。
「こんなところで何してるんだ」
「さっきな―――」
どうやらウルによれば今まで止まっていた宿が改修工事で泊れなくなってしまったのだという。ほかの宿にしようにも街のほとんどの宿は数人が泊まることを前提としているので一人だけで泊まるには料金が高いのだという。今まで結構おおざっぱだと思っていたが、思いのほか細かいことまで考えているようだ。
「それなら俺のところにと泊まるか?」
「いいのか?」
どうせウルとは入れ違いになる勤務なのである特に問題はないだろう。そして俺はまず買い物に出かけた。二人分の食料まではさすがに家には置いていないのだ。そして、寝具屋にもよって寝具を一式そろえ家へと帰る。
もとあった荷物と布団を軽々ともってウルは歩くが、力の差をまざまざと見せつけられたかのような気分だ。
「おっ。これが畳ってやつか」
「そうだ」
「なんかベッドとは違うな」
珍しくウルがはしゃいでいるのが面白いが俺は昼までに用意を終わらせるために部屋の整理をしていく。ウルの荷物には普段使っていないが、剣や鎧などこの街に来るまでに使っていたであろう物が収められていた。ウル曰くこれがあればいつでも旅に出られるとのことだが、いつでも街を出ていく気があるのか、それともただの気構えなのか聞くことはできなかった。
その後、しばらく俺はウルの世間話に付き合わされた。世間話といってもどこの飯屋がおいしいとか、とっ捕まえても相手が弱すぎてつまらないとかそういった話だ。ここに来るまでの話は一切しないが、ウル自身ここでの生活を楽しんでいるようにも感じられた。
しかし、その日の夜。隣で寝ているウルを見た俺はある重大なことに気付いた。
「(あれ、勤務日はともかく休日・・・)」
・・・・・
それから、俺とウルの生活は一応順調に続いた。後ろから近づいたり、寝ている横を通ろうとしたりしようものなら畳の上へと組み伏せられたが、二か月もすればそれが自然なスキンシップとなり、六か月目にはそれの次第に落ち着いたものとなった。
とはいっても今の一緒に住んでいる惰性の状態。警部補にもそろそろはっきりさせたらどうだとやきもきしながら俺たちの関係を見ている。