異世界の交番
「日本だったら銃刀法違反だよな~」
「まあな。異世界で、なおかつこの時代だからこそだな」
何となくつぶやいた言葉にいきなり返答された俺は驚いて机の下に膝をぶつけつつ振り返った。そこには直属の上司と犬の獣人であるワーオンがいた。
「警部補いらしたんですか?」
「そりゃ、休憩も終わったからな。キャッドとフォッグスも休憩に入れ」
「「はい」」
そういうと、左奥の部屋からワーオンと入れ違いに二人の獣人が出てきた。猫の獣人のキャッドと狐の獣人のフォッグスだ。
「それでは我々は休憩に入ります」
「あいよ、気をつけてな」
正午から午後一時までの一時間が二人の休憩時間であり、その前が警部補とワーオン、そして最後に俺の休憩時間となる。そのため、俺の仕事はあと一時間残っていることになるが、事件も起きず何もすることがない。警部補は冊子を読んでいて、ワーオンは先ほどの二人と同じように筋トレに励んでいる。そして、昼の休憩時間は決まっているが、一応その前後、一時間ずつ自由に休憩できる時間があるので、それなりに自由な時間は多い。
俺も筋トレをしようが右奥の和室で寝っ転がって本を読んでいようが何も言われることはない。勤務時間であっても仕事に影響がなく、事件や事故の発生時にすぐに動くことができる状況であれば何をしていてもいいのだ。これは異世界という環境下で日本人の息詰らないようにという考え方で、比較的高い自由度が確保されている。
「警部補、何を読んでいるんですか」
「ん、ああ。歴史同好会で発行している冊子でな、この街の歴史を四分割にして考えることになったんだ」
「四分割ですか?」
この街は異世界にある日本人街であるが、その歴史は意外と古い。
「まず、第一が鎌倉時代。基になる村ができた時代だな。
そして第二が江戸時代。宿場町になってから発展していく時代。
第三が文明開化後、真珠の養殖とかができるようになった時代。
第四が侵略されかけて、日本軍が防衛、空堀と土塁、門を作ってから。
の四つに決まった」
「結構おおざっぱですね」
「資料もないし、みんなそれぞれ仕事しながらの同好会だからな」
俺も何度かそういった同好会に興味を持ったことがあるが結局はどこにも入っていない。一応、娯楽の一つとしてそのような同好会があるのだが、ここに来てからまだ三年目ということもあり、そんな娯楽に参加する余裕もなかったのだ。
「そうだ、朝風。お前昼飯はどうするんだ?」
「昼ですか?自分は弁当を買いに行くつもりです」
「事件もないし、今のうちに行ってこい」
「はい」
元の世界で言えば役所の職員が三分早く仕事を抜けて弁当を買いに行くだけで大騒ぎになる時代だ。だが、ここにおいても高い自由度が発揮されていた。俺は制服と十手を整えると、壁にかけてある刀を差してから交番を出た。一応警棒と拳銃のような扱いになるが、狭い交番の中では刀があちこちにぶつかって仕方がないので壁にかけているのだ。
・・・・・
道の両側には石造りの建物が並び一直線に道が延びている。この街の大通りは十字に交差するように敷かれていて、交差する地点は街の政治や経済の中心地として栄え、その大通りに沿うように両側に石造りの建物が建てられているのだ。そして、それぞれの建物の裏には四つに区切られた区画には住宅街や工場が立ち並び、上から見れば田んぼの「田」の字をした街となっているので、端から端まで見渡すことができるのだ。
しかし、俺の目的地はすぐそこである。交番の二つ隣にある店に入った。
「川口さん。いつもの」
「あいよ」
川口弁当店。ここは夫婦で異世界に飛ばされてきた日本人の店だ。隣では冒険者たちが物珍しそうに陳列されている弁当を眺めている。俺は毎日弁当だが、ここを訪れる冒険者たちにとっては珍しいうえ、一食の量の割には値段が少し高い。旦那さんからリレーされた弁当を奥さんから受取ってお金を払う。
「平成三十一年も半分過ぎましたね」
「そうですね。もう七月ですもんね」
俺は軽く世間話をしてから店を出た。俺もこの異世界に来て三年目、俺もだいぶこの世界に慣れてきた。最初のほうは魔法だの、異世界だのと現実を受け入れるのに苦労したが、何とか受け入れて今を生きられるよういなったのだ。とはいっても、魔法でモノを動かしたりしているのを見ると仕掛けがないか疑いたくなってしまうことがあるが・・・。
「ただいま戻りました」
「お帰り、こっちは特に異常なしだ」
こうしていつものような俺の異世界生活は続く。