7話 Cパート
おすすめ順
(*)7話C → アバン+OP → 8話A → 7話A → 7話B → 8話B → ED → 8話C(完)
時系列順
アバン+OP → 7話A → 7話B → (*)7話C → 8話A → 8話B → ED → 8話C(完)
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耳が痛くなるほどの騒音が響いている。
そして、それに負けないくらいの罵声と怒声が飛び交っていた。
格納庫では十数人の整備士がせわしなく動いて、作業を続けている。
彼らは一様にオレンジ色のつなぎを着ていたが、
僕だけはフライトジャケットを着ていたので、彼らの中で浮いていた。
僕は整備士ではないが、機械工学の知識があるので、手伝いとして参加しているのだ。
「おい、イッセイ! 新しいエンジンカッターを持ってこい! 急げ!」
「はいっ!」
怒声混じりの声に、僕は工事音にかき消されないように、返事をする。
格納庫にピリピリと緊張した空気が流れていた。
格納庫の真ん中には戦闘用巨大人型兵械――“シュヴァリエ”が鎮座している。
黒を基調にして、赤とオレンジのフレームが胸部と腹部に刻まれている。
甲冑のように丸みをおびたフォルムは、西洋の騎士を連想させた。
様々な武装を持つ、この艦の守護神である。
その“シュヴァリエ”の胸部の高さ合わせて足場が組まれている。
整備士たちが部分的な解体(開口)作業が進められているのだ。
定期的にコックピットにいるパイロットに、通信で呼びかけている。
だが、返答は返ってこない。
やはりパイロットの身になにか起きたのだろう。
“シュヴァリエ”のコックピットは胸部部分にある。
それは中に人がいる場合、ロックがかかるような仕組みになっている。
敵に捕まったとき、外部から簡単に開けられないようにするためだ。
そのためコックピットからやや離れた部分から、解体作業を行う。
計画では、そこからコックピットに進入。
そしてコックピット内からパイロットの無事を確認と、ロックの解除を行うということだ。
解体作業が始まって、すでに二時間以上の時間が経過している。
熱気が充満し、整備士たちは汗を流しながら作業を続けていた。
現場から離れたところ――格納庫の入り口付近には艦の乗組員や、医者が集まっている。
みんな不安そうな表情をして、落ち着かない様子だ。
ここでエースパイロットを失ったら、この艦はどうなってしまうのか。
そんな不安を一様に抱え、作業を見守っている。
みんな、不安で押さえきれずにここに来たのだろう。
しかし、今はただ整備士たちの作業を見守るしかなかった。
解体作業で開けられた穴。
洞窟の横穴のようにぽっかりと開いている。
人ひとりが入れるくらいの大きさで、たびたび整備士が出入りするのが見える。
しかし、僕からはどこまで作業が進んでいるかわからない。
その時、無線で連絡が来る。
“シュヴァリエ”の中で解体作業を続けている整備士からだ。
あと少しでコックピットに到達するという報告だった。
そのまま続行だ、と整備士長は了解する。
無線から工事音が響き、何か大きなものを動かす音が聞こえた。
「おい、リオン! 生きているか!」
無線の先から音声が聞こえてくる。
コックピットに侵入した整備士がパイロットの名前を呼んだ。
雑音混じりの物音が聞こえ、一瞬、静かになる。
「うわああああああああ!」
突然の叫び声と固くなにかぶつかるような音。
無線を聞いていたものは、何事かと身構える。
「おい、どうした! アルバ! 返事をしろ!」
整備士長が呼びかけるが、雑音まじりで何が起こっているかわからない。
しばらくして、無線が再びつながる。
「す、すみません、おやっさん。無線機を落としてしまったようで……」
「それより、さっきの叫び声はなんだ。何があった!」
「そ、それが………………。と、とにかくロックを解除します」
声が震えて、どもっている。
なんて説明すればいいのかわからないと、混乱しているようだった。
一体、何があったのだろう……。
キィーンという甲高い音。
“シュヴァリエ”の制御装置の起動音だ。
それから数分後、ガチャリと重い音が響く――コックピットのロックを解除されたのだ。
“シュヴァリエ”の胸部が開き、そこからコックピット部分がせり上がるように飛び出す。
そして、コックピットの内部が明らかになる。
その光景を見たものは思わず息をのんだ。
整備士たち、整備士長、副艦長、野次馬である乗組員たちも。
呆然とするもの。
悲鳴を上げるもの。
コックピットから距離を取るもの。
おそらくパイロットが大怪我、もしくは死亡という最悪の結果を予想していた。
――予想していたが、さすがにこの光景は想定の範囲外だった。
「……これは、……どういうことだよ」
僕は思わず呟いた。
それはあまりにも異常な事態だったからだ。
コックピットの中、パイロットのリオンは操縦席に座っていた。
それだけならば問題ない。
しかし、リオンは目を大きく見開き、胸に深々とナイフが突き刺さっている。
パイロットスーツの胸元は血で赤く汚れ、ヘルメットは足元に転がっていた。
一目で死んでいるとわかる。
全身から血の気が引き、冷や汗が流れてくる。
喉がカラカラに乾くのを感じ、叫び声も上げられなかった。
なにが起こったか理解できない。
目の前のことが理解できない。
しかし同時に頭の冷静な部分が現状を認識しようと、脳を働かせる。
あのナイフ…………。
自分自身であんなに深々とナイフを刺すことはできない。
あのナイフが死因だとしたら……。
僕は思わず息をのんだ。
――どう見ても殺人だった。