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第6話 基地と、スカウト

 特異点での死線を生き抜いた色羽達。

 色羽の友人達も無事に保護され、連れて行かれた先は……。

 お世辞にも乗り心地が良いとは言えない、無骨な車の中。まるで護送車の様なのだが、その実態は真逆だった。

 武器庫同様、様々な銃火器や近接武器が所狭しと並べられている。謂わば、移動式の武器庫であった。


 そんな武器庫車の中で、色羽は友人達に囲まれていた。

「色羽、大丈夫? 怪我はしていない?」

「イロハ! 無茶はダメなのデス!」

「色羽ちゃん〜!! 本当に心配したんだからぁ!!」

 色羽を気遣う美里に、無茶を怒るソアラ。そして、色羽の無事を喜びつつも号泣する陽菜。三者三様ではあるが、色羽の身を案じていたのは皆同じだった。

「ごめんね、皆……私は大丈夫だよ」

 初めての戦場を乗り越え、殺し殺される恐怖を痛い程に実感した色羽。だが大切な友人達の為に、無理矢理に笑顔を浮かべていた。

 無理して作っている笑顔だという事は、一目見れば誰でも解る。それが友人達の為である事も、色羽という少女を知る者ならばすぐに解る。だから、それを指摘する者は居ない。


 やがて車が減速し、そして完全に停車した。どうやら、目的地に着いたようだ。外に待機していたらしい男が、車の扉を開く。

「お帰りなさい、ご無事で何よりです」

 その言葉に対して、冬弥が無言で立ち上がる。そのまま、男性を一瞥もせずに開かれた扉から降りていく。

「お疲れ様っす!」

「出迎え、ありがとうネ!」

 冬弥の態度に顔を顰めることなく待機していた男性に、北斗と美鈴メイリンが軽い調子で挨拶をする。

「ええ、お疲れ様でした。支部長がお待ちですよ」

 北斗と美鈴メイリンに笑顔を浮かべて、男性が先へと促す。


「どうも」

 軽く会釈をして、焔が車を降りた。先程までの様子とは違い、どこか余所余所しい態度である。

 そんな焔に対しても、男性はにこやかに応対した。

「お疲れ様です。お帰りをお待ちしていましたよ」

 その言葉に、焔はもう一度会釈をして先行する三人を追う。


「さ、着いて来て」

 立ち上がった双葉に促され、色羽達も席を立つ。

「双葉先輩、ここは……」

 不安そうな色羽に、双葉が穏やかな表情で頷く。

「ここが私達、ナインライブスの基地よ」


************************************************************


 双葉に先導され、色羽達は真新しい施設内を歩いていく。擦れ違う大人達が、双葉の後を追う色羽達に視線を向けて来た。

 ――その視線から感じるのは、疑念や憐憫……そして、不信。

 そんな視線に、色羽達が居心地の悪さを感じるのも無理は無い。

「ごめんね、いろはちゃん達。今は戦闘の事後処理もあって、皆ピリピリしているみたい」

 良く通る声で、双葉が色羽達に声を掛ける。すると、視線を向けてきていた大人達がサッと視線を逸らした。双葉の言葉で、自分達の態度に後ろめたさを感じたようだ。

「いえ、双葉先輩……お気遣いありがとうございます」

 色羽の声は、明らかに沈んでいた。


 色羽達は知る由も無いが、大人達は国連や日本政府によって用意された職員達だ。彼等は主に、適格者達のバックップを担当する。

 そんな彼等が先程、色羽達に向けていた視線には理由があった。


 ――この娘達は戦えるのか?

 ――人類の命運を賭けた戦いに、耐えられるのか?

 ――妙な英雄願望を持って、戦いをゲームと勘違いしてはいないか?

 ――殺される覚悟や、殺す覚悟が果たしてあるのか?


 そんな内心が、視線に表れていたのだ。それはつまり、彼等にそんな疑念を抱かせる適格者も存在するという事である。


 ……


 双葉に案内された色羽達は、一つの大きな扉に辿り着く。そこには、冬弥・北斗・焔・美鈴メイリンが待っていた。

「あら、待っていてくれたの?」

 先程の空気を払拭したい双葉が、軽い調子で声を掛ける。すると、意外にも反応したのは冬弥だった。

「報告は一度で済ませた方が、無駄な時間を省けるだろう」

 そう言って鼻を鳴らし、顔を背ける冬弥。


 そんな冬弥に対し、他の面々は意外な物を見た……という顔だった。

 何故ならば、冬弥は双葉達に対し仲間意識を抱いては居ない。ビジネスパートナーのような、その程度の認識である。

 だから冬弥は、こういった場合には一人でさっさと最低限の報告をして帰ってしまうのだ。


「……何だ、その顔は」

 向けられる表情に、ムッとした表情を浮かべる冬弥。

「いえ、意外だったから。普段なら一人でさっさと帰るじゃない」

 そんな双葉の言葉に、冬弥は思考を巡らせる。

 単純に、残っていたのは色羽の動向を見届ける為だ。自分の力を最大限に引き出す異能を持ち、戦場で見せた意志の強さも悪くない。

 ならば、この場で言うべき言葉は一つだ。

「そこのド素人も、俺達が居た方が少しは気が楽だろうが」


 冬弥の言葉は、今度こそ双葉達に衝撃を与えた。

 自分至上主義の冬弥が、色羽の事を気に掛ける言葉を口にしたのだ。双葉や美鈴メイリンには、一度もそんな素振りを見せた事は無い。

(……まぁ、いろはちゃんは可愛いもんねぇ)

 双葉は、冬弥が色羽に一目惚れしたのだと確信した。

(……また、この娘?)

 反して、美鈴メイリンは色羽に対する苛立ちを募らせていく。

 対して、色羽の反応はと言うと……。

「ありがとうございます……優しいんですね、剣崎さん」

 戦場で怒鳴り散らしてきた相手なのだが、自分を気遣っている事は察した。その為、素直に感謝の言葉を口にする。


 ちなみに色羽は、冬弥が自分を異性として認識しているとは思っていなかった。

 まず生きるか死ぬかの戦場を生き抜いたばかりで、ラブストーリー展開に移行するなんて思えないのだ。

 ちなみに優しい発言だが、その理由は冬弥の撃たれた足である。車の中で処置を済ませたようだが、それでも痛い事には変わりないだろう。だというのに、自分を気遣って同行すると言い出したのだ。

 つまり。

(剣崎さん、怖そうに見えるけど本当は優しい人なのかな。怖そうに見えるけど)

 色羽の冬弥評価が”怖い人”から、”怖そうに見えるけど優しい人”にランクアップした。そこに惚れた晴れたは特にない。


「君達、仲が良いのは結構なんだがね。私を放置しないで貰いたいんだが……寂しいじゃあないか」


 いつの間にか、大きな扉が少しだけ開いていた。その開いた部分に、一人の男性が立っている。

 白髪の髪をオールバックにし、口元にはキッチリ整えられた髭が生えている。所謂、いかにも紳士的な外見をしていた。

「お待たせして済みません、支部長。適格者五名、戻りました」

 右手で拳をつくり、左胸に当てる適格者達五人。どうやら、敬礼の様なものなのだろう。

「あぁお疲れ様、よく戻ってくれたね。それで、そちらのお嬢さん達は?」

 穏やかな視線を向けられて、色羽は背筋を伸ばす。

「は、初めまして! 礼名色羽といいます! 後ろの子達は、私の友人で……」

 そこから、何と説明すべきか? 多少落ち着いてきたものの、色羽はうまい言葉が見つからずに言い淀んでしまう。


 そんな色羽に助け船を出すのは、やはり双葉だった。

「彼女は、今回発生した特異点に巻き込まれました。その最中に、襲い掛かって来た侵略者インベイダーを偶然討伐したらしく……新たな適格者となりました」

「……ほう、成程。後ろのお嬢さん達は保護したという事かね」

「はい、仰る通りです」

 すると、老人はウンウンと頷いた。

「そうかいそうかい、それならば良かった。怖かっただろう、君達。ひとまずは安心してくれたまえ」

 その穏やかな声と表情に、色羽達の緊張が解れていく。


 色羽達が緊張感から解放されたのを察した老人が、一つ頷いて背後に振り替える。

「済まないが、彼女達を応接室に案内してあげてくれんかね」

 すると声を掛けられた女性が、カツカツとヒールの音を鳴らしながら歩み寄って来た。

「かしこまりました、支部長。皆さん初めまして、私は坂東ばんどう久美子くみこと申します。この国連公認部隊ナインライブスの、日本支部長選任秘書を務めております」

 いかにも、仕事のできるキャリアウーマンっぽい感じだ。しかしキツい印象は感じさせず、声色も穏やかで包容力のある大人の女性を感じさせた。


「では、応接室へどうぞ。こちらです」

 すぐ脇にある扉を開けて、入室を促す久美子。陽菜・美里・ソアラ達は彼女に従い、部屋の中へ入っていく。色羽も部屋の中に入ろうとし……その前に、一度振り返って双葉達に深々と頭を下げた。

「いろはちゃん、また後で話しましょう」

 優しく声を掛ける双葉に笑顔を向けて、色羽は応接室へと入っていった。


************************************************************


「成程……経緯は解ったよ。すぐに国連を通じて、敗北した適格者が居ないか確認しなければならないな」

 報告を受けた老人……日本支部長を務める神奈木かんなぎつとむは視線を横に向けた。

「直ちに」

 視線を向けられたのは、日本支部長補佐の任に就く男。千道院せんどういん誠司せいじであった。言葉の通り、すぐに通信端末を取り出し、隅に向かって歩き出す。


「さて、そうなると適格者の補充を急がねばな。彼女……礼名君をスカウトしなければならないのだが、どうしたものか」

 その言葉に、双葉の表情が曇る。

 戦闘終了直後の、色羽の様子を見れば解る。彼女は殺し殺される戦場を恐れていた。

 適格者としては、彼女が戦列に加わるように働きかけなければならない……しかし、双葉にはそれを口にする事は憚られた。


「戦場から離れればただの小娘だが、戦闘時は違った」

 神奈木の言葉に応えたのは、冬弥だった。その場に居る全員の視線が彼に向かうが、意に介さぬ様子で冬弥は続ける。

「判断力も悪くないし、あの異能は有用だ。説得してでもナインライブスに引き入れる価値がある」

 そんな冬弥の言葉に、他の面々も同意する。

「そうだなぁ……確かに、礼名ちゃんが仲間になってくれたら助かるな。今回、礼名ちゃんが居なけりゃ……俺らは殺られていたかもしれないし」

「それに彼女は、初めての戦場で最適解を見つけ出した。自分の力不足に腐らずに……遊び感覚で特異点に向かう奴らより、頼りになります」

 北斗と焔の言葉に、神奈木はうぅむ……と唸る。

「話をするだけしてみた方が良いだろうね」


 ……


 一方、色羽は三人の友人達にこれまでの経緯を説明していた。

 最初は怪訝そうに話を聞いていたのだが、彼女達も実際に目の当たりにしている……異世界からの侵略者インベイダーを。

「そ、それで……色羽ちゃんは適格者になるの?」

 陽菜が震える声で問いかける。その質問に、美里とソアラが顔を青くしていた。大切な友人が、命懸けの戦いに挑まなくてはならない……それを危惧したのだ。

「うん……そのつもり」

 断言した色羽に、三人の表情が明らかに曇った。


(おかしい……何かおかしい)

 陽菜は、色羽とは長い付き合いだ。彼女は喧嘩等をした事もない、平凡な女子高生のはず。だというのに、世界を股にかけた戦争に参加するなんて断言してみせる。

(誰かに洗脳とかされているんじゃ……!?)


 同時に、美里は口を横一文字に引き締めて色羽を見ていた。

(色羽……心優しくて、周りの人を大切にするあなたが……殺し合いをするだなんて……)

 美里の考えは、陽菜の考えとベクトルが違う。彼女は中学まで、彼女とよく一緒に居た。そして彼女はその家庭環境や来歴もあり、色羽を守る側の存在だったのだ。

(どうすれば、色羽を守れるの……? 私がもし、この娘と同じように適格者になれるなら……)


「イロハ、危険デス! 戦争なんて……それに、相手が銃を持っているなら……」

 ソアラは思いつくままに色羽に言葉を投げ掛け、考え直させようとする。

「うん、確かに危険度は上がっているみたいなんだけどね」

 苦笑する色羽に、ソアラは混乱する。特異点に迷い込む前の色羽と、今の色羽が別人に思えてならなかった。

「大丈夫だよ、ちゃんと訓練を受けられるみたいだし! それに双葉先輩達が居るからね」


 そんな四人の様子を、入口に立って見ていた坂東。彼女は内心で溜息を吐いた。

(彼女も同じ……戦闘後には恐怖を感じていたのだろうけれど、時間が経つにつれてそれが麻痺してきているみたい……)

 そう……彼女がこれまで見て来た適格者と、今の色羽は同じ反応だったのだ。


 危うく死ぬ所だった、それも異形の存在に襲われて。それを殺し、異質な力を押し付けられているというのに……それに対しての恐怖や疑問が薄れているのだ。

 そして、その意識は特異点での戦闘に向かう。

(異能の力……それを受け取った時に、何かされた……その可能性が一番高いかしら)


 ――坂東は、思考を巡らせる。

 自分達の可能な範囲で、適格者達を保護しなければならない……のだが、正直な所を言うと難しい。

 適格者は皆が皆、世界を守る事に前向きな訳ではない。己の力に酔い痴れる者や、その力を悪用する者が居るのだ。そういった手合いは訓練を嫌い、暴力の徒となって単独行動を好んでいる。

 そんな訳で双葉達は、適格者の中では優等生として見られている。


「あの、坂東さん……で良いんですよね?」

 色羽から尋ねられて、坂東は思考の海から意識を引き戻した。

「ええ、何でしょうか?」

 色羽は真っ直ぐに、坂東を見て宣言した。

「教えて下さい、ナインライブスの事……特異点の事」

 ――あぁ、この娘は優等生組ね。

 坂東は内心で、ホッとした。


 単独行動組は訓練も不十分で、命を落とすリスクが高い。それでも武器庫を開きスマートガンを運用出来るのは、単純に戦力不足だからだ。

 適格者の数は、十数人しかいない。しかし、報告に上がる侵略者インベイダーの数は遥かにそれを上回るのだ。

 しかし異能と銃火器があれば、侵略者インベイダー討伐には十分と考えられている。その為、野放しにされているのが現状である。


 しかし……。

「お教えするのは構わないのですが、込み入った話になります。それに全てを統括しているのは支部長になりますので、支部長から説明を受ける方が確実でしょう」

「あ、そうなんですか……済みません」

 色羽の謝罪に、坂東が首を横に振る。

「いいえ、むしろ待たせてしまっているのはこちらです。色々と不安もあるでしょうに、申し訳ありません」

 それは坂東の本音。一人の少女を放置している状況に、心苦しさを覚えていたのだ。

 しかし色羽は、笑みを浮かべる。

「いいえ、急かしてしまったみたいで……こちらこそ、我侭を言って済みません」

 ペコリと頭を下げる色羽に、坂東は笑みを浮かべる。これまで相対してきた適格者の大半に、爪の垢を煎じて飲ませたいとさえ思っていた。


「礼名さんは、とても丁寧で優しい方ですね。ご友人がそれだけ心配なさるのも、気持ちが分かります」

 そんな坂東の言葉に、三人の友人は顔を顰めた。坂東には「それならば色羽を戦場に出さないで欲しい」という気持ちが、窺い知れる。

「貴女方の気持ちは無論解ります。私だって、親しい人がそうなれば……同じように感じるでしょう」

 そう言いながらも、坂東は背筋を伸ばしてハッキリと告げる。

「それでも、我々は適格者に頼らざるを得ません。適格者をそう呼ぶのは……適性の問題なのです」

「適性……ですか?」

「はい。警察官や自衛官等の、市民を守るという責務がある者が適格者となれていれば……」

 そう言う坂東の声は、苦々しさを隠せていなかった。


 ……


 ナインライブスは、過去に何度も警官や自衛官等を引き連れて特異点への突入を試みた・しかし結果、特異点を認識出来ないという事が解った。

「特異点を認識出来ない……ですか?」

「ええ。私も金指さん達と同行して、特異点に立ち入ろうとしたのですが……」

 双葉達は特異点に入る事に成功した……しかし坂東達は入る事が出来ず、彼女達の姿も見えなかったらしい。

「恐らくは適性が無いと特異点に入れない……という事なのでしょう。何が特異点に入る事が出来る条件なのか、現在調査中です」

 オカルト染みた話になって来たが、要するに特異点に立ち入る事が出来る人間……逆に特異点に入れない人間が居るらしい。

「そう、なんですか……」

 色羽の表情が曇った。それは自分の身を案じてではなく、友人達を案じてだ。彼女達は特異点に入れる存在……そう言われているのだから。

「無論、適性持ちを強要して適格者に仕立て上げるような真似はしません」

 断言する坂東の言葉だが、色羽の表情は晴れない。

「この先、警察官や自衛官等が特異点に入る事が出来るようになれば、あなた方適格者には予備戦力となって頂きたいと思っています。一般市民を危険から守るのが、我々の本分ですから」

 最も、単独行動組はそれを良しとしないだろうが……と、坂東は表情に出さないように嘯く。


 そこまで話した所で、応接室の扉がノックされた。

「いらっしゃったようですね」

 坂東が扉を開けると、そこには神奈木が立っていた。

「報告が長引いてしまってね、お待たせしてしまい申し訳なかった」

 そう言って、神奈木が頭を下げる。

「いえ、大丈夫です」

 立ち上がって神奈木を迎える色羽。彼女につられて、他の三人も起立していた。

「そう言って貰えると助かるよ。さぁ座って、これからの話をしようじゃないか」


 神奈木に促され、ソファに座る色羽達。

「まずは、今回のお礼を。あの五人への助力、本当にありがとう。後程、謝礼もお渡しするから受け取ってくれたまえ」

「い、いえ! 私達も助けられましたので!」

 謝礼が貰えると思っていなかった色羽が、慌てて両手を顔の前で振る。その様子に、神奈木は笑みを深めた。

「そう言わないで、受け取って欲しい。君が居なかったら、彼等は侵略者インベイダーにやられていたかもしれないんだ」

 あまり固辞するのも逆に失礼かと思い、色羽は渋々それを了承する事にした。


「さて、次なのだが……今回、巻き込まれたそちらの三人にお渡ししておきたいものがあるのだ。坂東君」

「はい」

 坂東が差し出したのは、キーホルダーだ。

「これは、ナインライブスの関係者が所持している物だ。発信機になっていてね、これの信号が途切れるのは……特異点に入ってしまった時だけなんだよ」

「特異点に入る適性がある以上、巻き込まれてしまう可能性が少なからず存在します。その為、これをお渡しするのです。貴女方が所持している発信機の信号が途切れたら、即座に適格者を派遣して救出を行います」

 特異点に迷い込んでしまえば、適格者とならない限り生きて出る事は困難だ。故に、これが支給される。

「持っておいて損は無い。それに特異点の外であっても、何かトラブルがあった場合は強く握り込んでくれ。この基地に救援信号が発信され、救援に向かう」

 適性持ち……もしかしたら、将来的に適格者になるかもしれない者。それに対する保護措置でもある。それを、三人もよく解っていた。

「ありがたく受け取らせて頂きます」

 凛とした様子で、若菜がキーホルダーを受け取る。

「ありがとう……ございます」

「ありがとうございマス……」

 若菜が受け取るならばと、陽菜やソアラもキーホルダーを手にした。


「さて、礼名君。我々としては、適格者となった君にはナインライブスに加入して貰いたい」

 来た……と、色羽の表情に緊張が走る。

「ただ、無理強いはするつもりは無い。それと適格者として登録されたとしても、すぐに最前線に出ろだなんて言うつもりも無いよ。本来ならば、君達は守られる側だからね」

 神奈木の表情は穏やかで、それが本心なのだと色羽には解る。

「適格者となった場合、まずは基礎訓練を受けて貰う形になるね。それが終わるまでは、実戦に参加するのは余程の緊急時のみだ。一般市民の救助とか、戦闘に用いる資源の運搬等の雑務は頼むかもしれないが……ちなみに、それらも当然報酬が出る」

 随分と、手厚い保護体制が整っているらしい。色羽は首を縦に振る。

「戦場に立つにしろ立たないにしろ……私、やろうと思います」

 その言葉に、神奈木と坂東が目を閉じて頷いた。

 戦闘要員となる適格者の確保は急務。しかし、同時にそれは守るべき者を戦地に送り出すという事。


 色羽が決断したのは、友達の為……双葉達の為……そして。

 ――本当は……自分達が矢面に立ちたいんだろうな……。

 目の前の二人の本心を、察したからだった。


 こうして、ナインライブスに新たな適格者が所属する事になった。

 その名は礼名色羽……どこにでも居る、平凡で心優しい少女であった。

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