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第14話 暴力と、暗躍

 神奈木達とのミーティングを終えた色羽達は、支部の談話室に移動する。まだ面識の無い適格者同士で、自己紹介をする為だ。

 色羽が会った事が無いのは、長身の青年だった。スーツ姿の彼は、整った顔立ちをしている。

「初めまして。私は【海堂かいどう八雲やくも】。適格者になって、二年と半年といった所でしょうか」

「初めまして、礼名色羽です。まだ三カ月の、新米でして……色々とご迷惑をおかけするかもしれませんが、しっかりやれるように頑張ります」

 ペコリと頭を下げる色羽に、八雲は薄く笑う。


――初音さんや、金指さんと同じ制服。つまり、彼女は高校生か。それにしては、受け答えもしっかりしているし、礼儀正しそうだ。


 八雲の色羽に対する第一印象は、好ましいものだった。元より色羽という少女は、他人に好かれやすい性質の持ち主だ。面と向かって会話するだけで、相手に好印象を与える少女なのである。

「戦場で組む事もあるかもしれない。その時は、どうぞよろしく」

「はい、よろしくお願いします!」

 穏やかに語り掛ける八雲に、色羽は力強く答える。

 覚悟も実力も、まだ彼等には及んでいないのは自覚している。それでも、自分に出来る事を精一杯……そう考えながら、返事をしたのだ。

 そんな色羽の返事に、何かしらの強い思いを感じ取った八雲。彼は、内心で溜息を吐く。


――生まれて来るのが十年遅ければ、惚れてしまっていたかもしれないな……。


 幸いなことに、八雲はロリータコンプレックスではなかった。そして、軟派な性格でもない。

 純粋に、色羽という少女の魅力を目の当たりにし……同世代に生まれられなかった事を惜しんだ。


 ……


 適格者同士での自己紹介も済み、遅い時間になるので解散と相成った。色羽達は未成年であり、学生である。故に、ナインライブスの職員が自宅付近へと送っていく事になった。

 成人済みのメンバーでも、北斗や八雲は職員の提案に甘えて車に乗って帰宅する。一方、美鈴メイリンと冬弥は支部の外で降り、公共交通機関を使って帰宅する事にした。


 美鈴メイリンは電車を降り、借りているアパートに向かって歩いていた。姿勢よく歩く姿はモデルの様で、町を行き交う男達は思わず視線を向けてしまう。

 しかし美鈴メイリンの心境は、決して良いものでは無かった。


――不適格者もあの女も、まとめて死ねばいいのに。


 無論、あの女とは色羽の事だ。

 色羽は、美鈴メイリンにとって最愛の存在である双葉……それに発言力のある水姫や、大地にも気に入られている。北斗や焔も彼女に目を掛けており、あの自己中心的な冬弥ですら色羽を気にしている。

 更には先程、ベテランの八雲も色羽に関心を抱いていた。初めて顔を合わせた吾郎など、色羽に熱の籠もった視線を向けているように見えた。


――イライラするわね……!! 戦場で会ったら、事故を装って後ろから撃ってやろうかしら!!


 物騒な言葉を内心で叫びながら、美鈴メイリンは歩く。そんな時だった。

「ねぇ、そこの彼女。一人?」

 声を掛けて来たのは、二人組の男だった。一人は短く切り揃えられた髪を赤く染め、耳だけでなく鼻にもピアスを空けている。もう一人は肩口まで伸ばした金髪の男で、夜だというのにサングラスを掛けていた。

「俺達、ちょうど暇を持て余していてさー。良かったら、一緒にどう?」

「ダイジョーブ、俺らってば紳士だからさ。嫌がる事なんて絶対にしないよ」

 紳士ならば、こんなチャラい感じで声を掛けたりしない。美鈴メイリンはそう吐き捨てたい気持ちを抑えて、笑顔を作る。


「ごめんなさいネ、明日も朝から大学なのヨ。早く帰って寝ないと、遅刻しちゃうカラ」

 独特の口調に、二人は美鈴メイリンが外国人だと察した。

「もしかして、海外から来た感じ? 留学生ってやつ?」

「私は中国人ネ」

 美鈴メイリンの返答に、男達はにやけ面を深めた。

「留学ねー、頑張ってるんだねぇ」

「あぁ、留学って事はもしかして一人暮らしかな?」

 男達の表情に、下心がありありと浮かんでいるのが美鈴メイリンには解った。

「夜道は危ないし、俺等が送ってあげようか」

「良いじゃん、それ! 大丈夫大丈夫、送り狼になんてならないからさ!」


 一人暮らしの美鈴メイリンの家に上がり込み、二人で彼女を……という意図が透けて見える。美鈴メイリンはあからさまに溜息を吐いた。

「気遣いだけ受け取るネ。私は大丈夫だかラ、それじゃあ」

 足早に歩き去ろうとするも、二人の男が行く手を阻む。


「そんな事言わないでさ」

「そうそう、俺等ってば正義感が強いからさ? か弱い女性を放っておけないんだよ」

 ニタニタと笑う二人の男に、美鈴メイリンも我慢の限界が近い。

「か弱い女性じゃないかラ、心配には及ばないワ」

 そう言うと、美鈴メイリンは駆け出した。

「ちっ!!」

「待てやぁっ!!」

 舌打ちをする金髪男に、怒声を上げる赤髪男。その様子を通行人が見ていたならば、警察に通報しただろう。しかし既に二十三時を回っていた為、人通りは全くと言っていい程無かった。


 美鈴メイリンは市街地を駆け抜け、細い路地裏へと入る。その際、疲れたふりをして走る速度を緩めていた。美鈴メイリンは男達が追い付かない様に、しかし振り切らない様に注意しながら走っていた。

 この辺りの地図も、美鈴メイリンの頭には叩き込まれている。この先が行き止まりである事も、熟知していた。

「このアマ……手間取らせやがって……」

「ちっ……いや、だがお誂え向きだ……ここらは空き家ばっかで、叫んでも声は届かねぇからな……」

 肩で息をしながら、男達は袋小路に迷い込んだ美鈴メイリンに近付いていく。


「そうネ……ここなら()()()()()()()、誰にも届かないネ」


 言うが早いか、美鈴メイリンが赤髪の男に肉薄する。

「やぁっ!!」

 その鼻先にハイキックを繰り出し、吹き飛ばした。

「ぐぼぁっ!?」

「な……!? テメェ!!」

 赤髪男が吹き飛ばされたのを見て、金髪男が美鈴メイリンを殴り付けようと拳を振り上げる。

 しかし、所詮は素人。軍人として訓練を積んで来た美鈴メイリンにしてみれば、サンドバッグと大して変わらない。

「ハッ!!」

「ぎゃあぁっ!?」

 金髪男の左脛に、鋭いローキックを叩き込む。弁慶でも無い金髪男は痛みに叫び声を上げて、無様に転がった。


「丁度良いストレス解消になるネ……お望み通り、遊んであげるヨ」

 そう告げた美鈴メイリンの瞳は、獰猛な獣のそれに似ていた。


************************************************************


 そして、一時間後。あちこちを殴られ、蹴られて転がる二人の男が居た。叫びすぎて声は嗄れ、痛みから呻く事しか出来ない。

「……ちっ、全然じゃなイ。全く気が晴れないネ!!」

 男達を一瞥し、美鈴メイリンは苛つきながら路地裏を後にしようとする。しかし、その行く手を阻む存在が居た。

「……はぁ、今度は何なノ?」

 その人数は、四人。全員が鉄パイプや、ナイフを手にしている。しかし、服装や年齢はバラバラだった。サラリーマンの様な青年も居るし、学生服の若者も居る。更にはチャラチャラとしたチーマー系の服装の男に、薄汚れた作業服の男も居た。


「喜べ、王がお前を求めた」

 そう告げたのは、スーツ姿のサラリーマンらしき青年だ。しかし、淡々と告げた言葉……そして、全くの無表情。意思を感じさせない……美鈴メイリンはそんな印象を抱いた。

「さぁ、ついて来い」

 次に口を開いたのは、チーマー系の服を着た金髪の男だった。彼もサラリーマン同様に、無感情である。

「お断りヨ。王だか何か知らないけど、用があるなら自分で来いと伝えなさイ」


 美鈴メイリンの返答を受けた四人が、一斉に襲い掛かるべく動き出した。しかし、所詮は素人……美鈴メイリンの方が早いのは、自然な事である。

「はぁっ!!」

 先程の二人組と、何も変わらない。そう判断した美鈴メイリンは、スーツ姿の男の下顎に掌底を喰らわせる。これで脳が揺れ、ダウンする……そう思っていたのだが、予想が外れた。

「王の下へ」

 変わらずに掴み掛ろうとする男に、美鈴メイリンが眉を顰めた。


「なら、手加減は無しで行くヨ」

 更に三人の男達も、武器を振り上げていた。

 チーマーは美鈴メイリンの背後から、鉄パイプ振り下ろした。当然、それに気付かない彼女ではない。振り下ろされた鉄パイプを避ければ、サラリーマンの脳天に鉄パイプが命中する。

 サラリーマンの額が割れ、血がドロリと流れ出していた。


 それを気にする事も無く、チーマーが美鈴メイリンへ向かって行く。更に学生と作業員が続いた。

「ハァッ!!」

 美鈴メイリンは情け容赦なく、チーマーの顔面へハイキックを繰り出した。鼻っ柱に叩き込まれた蹴りの衝撃で、チーマーが吹っ飛び転がる。

「あと二人ネ」

 そう思っていたのだが。


 ユラリと、まるでゾンビの様にサラリーマンとチーマーが立ち上がる。サラリーマンは額から出血しているし、チーマーも鼻の骨が折れていた。だというのに、痛みに顔を歪ませる事無く、悲鳴すら上げない。

「……何なのヨ、お前ら……」

 謎の威圧感に、美鈴メイリンが一歩後退った。そんな彼女の肩に、手が置かれる。


「おやすみ」


 その言葉が耳に届くと同時、美鈴メイリンは唐突な睡魔に襲われる。

「な……っ!!」

 体から力が抜けながらも、美鈴メイリンは背後に立つ何者かへ裏拳を繰り出した。その一撃を受けて顔面を強打され、壁に叩き付けられたのは男である。


 美鈴メイリンは、その男の顔に見覚えがあった。そう……ナインライブスの支部で、要注意人物として説明された男。

「……えざ、き……!!」

 美鈴メイリンは気を失うまいと、意識を保つために頬を叩く。しかし、その程度では”異能”に抗う事は敵わない。


 美鈴メイリンが最後に見たのは、自分を囲み見下ろす江崎銀二達の姿だった。

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