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05.魔王とフェルのターン

 

 魔王。

 多くの言い伝えでは、巨大な悪魔や妖魔の姿で描かれる。

 人間に害を与える存在として語られるそれは、実は、この世界においてはほぼ無害である。


 確かに魔族には好戦的な連中も多い。

 しかしこの魔王は、争いを嫌い、人間を好いてさえいる。


 そもそも魔王とは血で選ばれるのではなく、勇者の選定と同じように、ランダムで決まる。

 先代の魔王が死んだ瞬間、選定魔法が発動し次の魔王が選ばれる。

 この魔王もたまたま選ばれて、人間と戦争をさせられているに過ぎないのである。


 ではなぜ魔族と人間は戦っているのだろうか。

 そんなのは簡単だ。

 魔族には好戦的な連中が多い。それだけだ。


 魔王は特に指示を出していない。

 血の気の多い連中が勝手に動いているだけだ。

 それがまとまっているのならまだしも、好き勝手に自分の利益の為だけに動くものだから収拾のつけようがなく、寧ろ魔王は困っているくらいだった。


 そして、その可哀想な魔王が、こちらだ。


 ■■■


 優雅な赤いドレス、燃えるような色の髪、そして、陶器のように白く、紅く輝く瞳を持ち、整った、やや幼く見える顔。

 華やかな部屋の奥に置かれた一つの大きな椅子に腰掛ける彼女こそ、当代の魔王。

 だがその顔には、疲れた色が染みていた。


「えぇー、またぁ?」

「はい。たった今、ラハイル様が再び侵攻を始めたとの報告が入りました。」

「なんでこうもみんな血の気が多いの? いっそ根こそぎ滅ぼしてやろうかしら。」


 ふくれっ面で呟く彼女に、秘書は苦笑いで応える。


「それともう一つ報告がございます。」

「なに? また誰か出掛けたの?」


 ストレスからかやや強い口調の魔王に、秘書は「いえ」と否定して続ける。


「先日選定を開始した勇者一行が決定し、今日からこちらへ向かってくるそうです。」

「へえ。どのくらいでこっちに着きそう?」

「このペースですと、最短で25日程でしょうか。」

「ふん、そこそこ速いのね。」


 自分の命が狙われているというのに、まるで他人事な魔王の反応。

 魔王としての自覚を持って欲しいと思いつつも、いつものことと肩を落とす秘書。


「勇者たちには何もちょっかい掛けないでちょうだい? 直接会ってみたいわ。」

「……御意に。」



「ユウシャ、勇者かぁ。」


 その夜、自室の大きなベッドに転がり、魔王は何やら楽しそうに呟いていた。


「わざわざ遠くから私に会いに来てくださるのよね。どんな人なのかしら。」


「あと25日、楽しみね。」


 窓の外に移る二つの大きな衛星が、一つは高く白色に、一つは黄色く輝いていた。


「面白い人だといいのだけれど、そうじゃなかったら……♡ 楽しみね。」


 魔王は複雑な笑みを浮かべていた。


■■■


 一日目夜、テントの中。

 明かりも何もなく、ただ二つの衛星が反射する日の光だけが、テントを形作る葉を透けてテントの中を仄暗く照らしている。


「フェル、グランのこと、どう思う?」


 話を切り出したのはミュルだった。


「グランか? まだ会って二日だしな。」


 フェルはミュルの意図しない方に解釈をしたらしいので修正する。


「語弊があった。訂正す――」

「冗談だ。信じられるかどうか。か?」


 訂正するより先にフェルがそう言ったことにミュルは驚く。


「なんで……?」

「なんで、って言われてもなぁ。人の心の中が読めるっていうか、そんな感じなんだ。」


 なら、旅の初めにフェルがあっさりグランの話に納得したのも……?


「じゃあ……縛りのことも?」

「いや、あれは単純に面白そうだったからだ。」


 だがその考えはあっさり砕かれた。


 と思ったら、急にフェルは声のトーンを落として、真面目に言った。


「二回目になるが、私は人の心が読めてしまうんだ。それこそ、知りたくない心の闇まで全てな。全ての人には必ず、真っ黒な部分があるものだ。それが見えないようにみんな隠してる。私はどうしても、その真っ黒い部分まで人の心の中を覗いてしまう。その所為で、逆に今まで誰も信じることは出来なかった。」

「……」

「でも、あいつの、グランの心の中だけは、まるで読めないんだ。」


 ミュルはフェルの話を、ただ黙って聞いていることしかできない。


「だから、あいつのところにいれば何か楽しいことが起こるんじゃないかと、そう思ったんだ。私は、あいつに賭けてみることにした。きっと楽しいところに連れて行ってくれるって。」


「むう、私だけぶっちゃけたままだと悔しいから、ミュルも何かぶっちゃけろ!」


 シリアスになってしまった雰囲気を元に戻したいらしいフェルは、頬を赤らめながらミュルに言った。


「ぶっちゃけろって、急に言われても…… 暗い話しかないし。」

「……何か明るい話はないのか? 何でもいい。」


 フェルの無茶振りに、ミュルは困った顔をする。


「そうは言われても、私は友達が一人もいなかったから。」

「そ、そうだったのか。知らなかったとはいえ、申し訳ない。」

「別にいい。気にしない。」


 気を取り直すようにフェル。


「となると、もう猥談くらいしか……」

「あ、一つ気になることがある。」


 猥談に走り出したフェルに乗じるようにミュル。


「フェルは罵られたりして喜ぶのは、何で?」

「おう随分と直球で難しい質問だな。」


 何の躊躇いもなく難問を投げかけてくるミュルにフェルは戸惑いつつも、答える。


「もう三回目になるが、私は人の心が読めすぎてしまう。でも、マゾでいる間は、それらがどうでもよく感じられるんだ。で、それを暫く続けていくうちに、目覚めてしまったんだ。」


 もぞもぞしながらフェル。

 ミュルはそれを、訊いた身でありながら半目で見ていた。







人にはいろんな過去といろんな思いがあるよね。

そこにつかつか土足で踏み込んでいくと、火傷しちゃうんだよね。


僕はそんな経験したことないけどね。まだ。

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