04.初めての夜
日は暮れた。
山道を一日中歩き続け、更にまともな昼食をとっていなかった勇者一行は、もうくたくたである。
「よし。」
とグランは足を止め、
「いいか、ここをキャンプ地とする。」
「ん。」
「でさ、テントとか無いの?」
できれば緑色の、と続けるグランにミュル。
「テント支給されてない。壊すから?」
「それもあると思うが、嵩張るからじゃないのか?」
「ま、無いんなら仕方ない。簡易的だけど作るか。」
仕方ないと割り切ったグランは、山道の脇に生えていた草を数本毟ると、水を掛け始めた。
グランがテントを作ると言うので、ミュルとフェルは驚きながら作業する姿を眺めていた。
そして数分後。
「よし、完成。」
本当にグランはテントを作って見せた。
ずっと見ていた二人からも歓声が上がる。
「グランすごい。」
「なにをしたのだ?」
「えっとな、今回使ったのはこの植物。アマシゲリミドリシラゲって言う名前で、その名の由来は雨が降ると葉が大きく広がることから来ていて、別に雨じゃなくても普通に水を掛けてやれば葉っぱは大きく広がってくれる。そうなる理由としては――――
要するに葉っぱで作った、だそうだ。
グランの説明が長かったので聞いていた二人は途中から聞き流し始め、ミュルに至っては大きな欠伸を掻いていた。
長かった説明もようやく終わり、二人は適当に拍手を送っておいた。
「お腹、空いた。」
お腹を鳴らした恥ずかしさに顔をほんのり赤く染めながらミュル。
グランは少し考えた末に、「ん」と山に生えていた肉厚な赤い葉を差し出す。
「これは?」
昼間のこともあり、赤い葉を少し警戒するようにミュルは訊ねる。
「ニクモドキっていう植物の葉。正式にはヤマアミノアカシラゲって言うんだが、名前の通り葉に必須アミノ酸が含まれている変わった植物だ。研究者の間では光合成の副産物だとか遺伝子の突然変異だとかいろいろ言われているらしいが、本当のことはよくわかっていない。これは個人の見解だが、光合成の――――
「美味しいの?」
「どうだろう……」
熱く語りだしたグランを制して味を訊くが、わからないそうだ。
わからないことが悔しいのか、グランはぶつぶつとニクモドキの味について考察していた。
「……」
ミュルは持っているニクモドキを見つめ、軈て空腹に耐えられずに口に運ぼうとしたときに、フェルから声が掛かる。
「それ、調理しようか?」
「――ぁ?」
ミュルはきょとんとした目でフェルを見る。
どうやら調理するという発想が抜けていたらしい。
ミュルはニクモドキを今すぐそのまま食べるかフェルに調理してもらってから食べるかじっくり悩んだ後、調理してもらうことを選択した。
「ニクモドキは前に一度調理したことがあるんだ。甘みがあっておいしかったな。」
と、フェルは自信ありげにニクモドキを受け取った。
「わかったぞ!」
とそこへ考察を終えたグランがやって来た。
「ニクモドキはそのままだと塩コショウを赤身にかけたような味だけど、火を通すことで成分が変化して霜降り牛のステーキみたいな味になるぞ!」
先ほどとは違い、簡潔にまとめてくれた。わかりやすくてよろしい。
「そうなのか。」「ステーキ……!」
フェルはミュルが出した火でニクモドキを焼きながらグランの考察に納得し、ミュルはステーキという単語に大いに反応する。
斯くあるように、楽しく、騒がしく、賑やかに、このパーティーの初日の活動は、終わった。
何はともあれ、初日の夕食は、少し豪華になりそうだ。
翌朝。
「……さむ。」
ミュルが三人で寝ることを反対したことで、一人テントの外で寝ていたグランが目を覚ました。
まだ日は昇っていない。
この地域は昼間は27度まで気温が上がり暖かいのだが、夜は10度を下回る気温になるため非常に寒い。
「……ねたら、しぬな。」
グランは簡単に火を焚いて暖を取り、火を眺めながら時間を潰すことにした。
「……いいなぁ、ふとん……」
気温8度。凍えそうなグランのその呟きは、白い息とともにやや明るい明け方の空に溶けて消えた。
■■■
「ふぁ~」
「ん、おはよう……」
大きな欠伸とともにテントから出てきたフェルに、グランはとても眠そうな目で応える。
「……いいよな、あんたらは。少しは暖かいところで眠れて。」
「私としては、あの後テントに忍び込んで夜這いを掛けてもらってもよかったのだが。」
「え、うっそまじで?!」
「朝っぱらから猥談禁止。」
思いがけず始まった猥談を遮るようにミュルもテントから出てきた。彼女もやはり眠そうである。
「はぁ。で、これから歩いて魔王サマに会いに行くんだよな。」
「うッ、めんどい。」
一同を夢から現実に引き戻すようにグラン。
だが昨日一日なかなかに大変だったことから現実逃避を始めようとするミュル。
「なんなら、私が二人とも背負おうか?」
「よろしく。」
昨日よほど疲れたのか、ミュルは即答した。しかしグランは、
「や、いいや。」
遠慮した。
「あれ?」「え?」
グランの予想外の返事に、フェルとミュルの二人は一瞬固まった。
「あのグランが……?」
「拒否、した……?」
「あんたら俺のことを何だと思ってるんだ。」
グランの呟きに「ニート」と即答した二人にグランはジト目を向け、「あと別に拒否したわけではないから。」と補足した。
「じゃ、取り敢えず出発するか。」
「おう。」「ん。」
気を取り直して三人は出発する準備を始めた。
「ところでこのテントどうするのだ?」
「ああそれ、燃やす。嵩張るしいつでも作れるからな。必要な荷物は全部出しとけよ。日記とかな。」
「なッ、貴様やはり知って――」
「た、例えばってだけだろ? もしかして心当たりでも――」
「――ッ!」
「――ちょ、ぶ、武器はよくないって!」
今日も勇者パーティーは賑やかです。
フェルみたいな女の子をずっと書きたかった。
容姿端麗、家庭的、正義感が強い、ドM、変態、積極的。
うん。ドストライク。