03.冒険の始まり
お待たせしました。4話です。
翌朝。日の出とともに、三人は出発した。
地平線に沈む衛星に背を向け、戦争の最前線へいざ行かん!
……――――と、前はそうしていたことであろう。
が、今回は違う。
何せ魔王を倒してはいけないのだ。
よって今回は、城門を出て少し進んだところで立ち止まり、グランはミュルとフェルにこう持ち掛ける。
「今回、戦争の最前線へ征くにあたって、絶対順守の大事なルール、即ち縛りを伝えておく。」
縛りという単語にフェルが反応する。
「縛りプレイというやつだなわかった私はどのように縛られればよいのだ?」
スッとグランの方に向き直り、頬を赤くし目を輝かせるフェル。
――彼女が良く言えば騎士に向いている理由。それは、そう。彼女は、ドMなのだ。
若干引いている様子のミュルを他所に、フェルは鼻息を荒くしてグランへとにじり寄る。
「その顔で近寄るな恐怖の森のヨシエくらい怖い。」
「ヨシエとは何なのだ?」
「……知らんほうがいい。ショックがでかい。」
気を取り直すようにグランは咳払いをして。
「今回の縛りはズバリ、攻撃禁止だ。」
そのルールにフェルは興味深そうな顔をする。ミュルは無表情なままグランを見つめる。
「攻撃禁止、とはどのような縛り方なのだ? 実践してみてほしい。」
そう言って縄を渡してくるフェルは取り敢えず無視し、ミュルを見つめ返す。
「なるほど放置プレイか私を放っておいてミュルと何する気だ?」
よしフェルがうるさいのでちょっと縄で縛っておこう。
「どういうつもりだ、って顔だな。ミュル。」
「違う。本当にそれでいいのかと確認したいだけ。」
ミュルの声は冷たい印象だが、グランを見つめる目はとても真っ直ぐだった。
問いにグランは肩をすくめて答える。
「当たり前だ。こう見えて俺は利己主義者なんでね。」
■■■
「歩くのが遅いぞー、フェルー?」
「くッ……ダメな奴に強制的に働かされてる感ッ、堪らん!」
「グラン、意地でも歩かないつもり?」
「当たり前だ。こう見えて俺は利己主義者なんでね。( ・`ω・´)キリッ」
「うっわぁさっきと違って全くかっこよくない。」
「ああ、このニートに労働を強いられてる感、んいいッ!」
「フェルはフェルでもっと抑えて欲しい。」
とまあこんな感じで賑やかな勇者パーティーです。
意地でも自分で歩きたくないグランをフェルがおんぶして、フェルはそれを一種のプレイとして嬉々として受け入れ、唯一まともなミュルが二人をまとめる。出会って二日目とは思えない仲の良さである。
ただミュルとフェルは勇者として選ばれてから1ヵ月程共に過ごしているのでそれなりに仲は良いのだが。
と、何かを見つけたらしいグランがフェルの背中から降りる。
「どうしたんだ?」
「あそこに生えてる草。」
グランが指す先には、周りから浮いている赤色の草が生えていた。
「あの草がどうかしたのか?」
「あれに魔力を増強させる成分が含まれてる。ミュル、食べるか――って」
グランが言い終わるころには既にミュルは赤い草を口にしていた。
「ん」
もぐもぐと口を動かすミュル。
それを見ながら「あ(笑)」という顔をするグラン。
そしてだんだんミュルの様子がおかしくなって……
「ッか、辛い……」
草を飲み込み、舌を出しながら涙目で、辛うじてそう口にしたミュルに、グランは堪え切れず笑ってしまった。
「えっとな、魔力を増強させる成分は大体が辛い。言おうとは思ったんだが、まさかその暇もなく食べてるとはなあ。」
「……愚かだった。次からはちゃんと話聞くことにする。」
半分笑いながら説明するグランと涙目で本気で反省しているミュルを他所に、フェルも同じ赤い草を食べてみる。が、
「なんだ、なんともないじゃないか。」
平気だった。
「別に辛くもなんともないぞ?」
口の端に草の切れ端を残しながらフェル。
不思議に思ったグランが成分を調べてみると、
「それ、ミュルが食ったのと別の草な。」
「え。」
「そっちは体力増強薬の原料の一つで、単体で食べると弱体化のデバフがついて体力が少し増え……って何してるの?」
気づくとフェルはその草を一心不乱に食べていた。
そしてグランは少し後悔した。
弱体化して体力が増える、つまりより強いシゲキを受けることができるとフェルは考えたわけだ。
実は少し高価な薬草なのに、と思いながらグランは食べ過ぎて腹壊されると困るからと頭をチョップして止めようとする。
「おい。」
「んんん~ッ!///」
そのチョップは弱体化していたことにより数倍の威力となってフェルを襲う。
フェルはしばらくの間その痛みに(いろんな意味で)悶えているのだった。