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アガパンサス

 今年の夏、俺は病院で過ごすことが決まった。

 街で一番大きい大学病院。

 敷地は広く中庭もあったり、売店も揃ってる。過ごしやすい環境といえばそうだ。

 そこへ俺は太ももの骨折が原因で3週間入院することになった。


「リョーヤーいつになったら退院するんだよ」

 見舞いの品のリンゴをかじりながら椅子の上でジタバタするコイツはケイスケ、小学校から高校までずっと一緒だった。就職したケイスケと大学に行った俺は今では中々一緒に遊ぶ機会が無い、今日会うのも久しぶりだ。

「一昨日入院したばかりで何言ってんだよ」

「でもー社会人は夏も忙しいんだぞ」

「俺はまだ学生なんで夏休みは存分にあるんです」

 5個もあったリンゴを食べ尽くしたケイスケは不満そうな顔をして立ち上がった。

「リンゴ、俺の分は?」

「それにしても個室っていいなー全裸でもいけるぜ」

「話を聞け、そして全裸になった瞬間ナースコールを押すぞ」

「それに隣の部屋には可愛い子も居たしー」

 壁に耳を当てる上半身裸の男を今すぐぶん殴りたいがその気持ちを抑える。

「だから話を――」

「まーそー怒るなよ、今日は帰るから、じゃあお見舞いのもの置いていくぞー」

 そう言ってリンゴを10個置いてケイスケは去って行った。

「……。……逆に増えてるし」

 ・

 ・

 ・

 最初の1週間は寝たきりで何も出来ず3日に1回ケイスケがお見舞いに来てたまに親やそのほかの友達が来ると言う何とも退屈な日々を過ごしていた。

 それも今日で変わる。

 怪我も順調に治っていて松葉杖でなんとか歩ける程度にはなっていた。

 久しぶりに外を歩いてみる。

 敷地内なら散歩してもいい許可が出た。

「スーーハーーく〜〜やっぱり太陽の元で吸う空気は美味い!」

 久しぶりの外でテンションが上がる。

 中庭には車椅子を押してもらっているおばあさんと看護婦さんやボールで遊ぶ子供までいろんな人がいる。

 みんな病気や怪我で入院している患者の筈なのに笑顔だ。

 その中で俺はベンチに腰を下ろしている女性に目を奪われた。

 まるで花のように美しい人、本を読みながら微笑むその笑顔に完全に俺の心は虜になった。

「……」

 ついついじっと見つめてしまう。

 そして目が合った。

「…あ」

 その人は目が合うと笑顔で手を振ってくれた。

 それに釣られて俺も手を振る。

 本当にかわいい。

 すると彼女は本を閉じこっちに歩み寄ってきた。

「え? ……あ」

「リョーヤ君だよね?」

 俺の名前を?

 なんで知ってるんだろう。

 俺は緊張で声を出せないまま首を縦に振る。

「やっぱり! 私横の部屋のサラって言うの」

 そう言えばケイスケが隣の部屋には可愛い子がいるって言ってた。

「そ、そうなんだ……知らなかった」

「うん、だって寝たきりだったでしょ? 私は偶に前を通る時顔が見えたりするから覚えてたんだ、それに時々来る面白いお友達、ケイスケ君だっけ? 会話が聞こえるの」

 あの野郎、隣の部屋まで声筒抜けじゃねーか。恥ずかしい!

「羨ましいな、私見舞いに来てくれる友達がいないから」

 そう言う彼女の顔は少し悲しげで、こっちの胸が痛い。

「じゃあ! 俺が友達になる」

 何も考えずに俺はそう口にしていた。

 でも、そう思っているのは本心だ。サラと仲良くなりたい。

 一目惚れだけど好きって思った。


 そのあと少し話をしたあとサラを部屋に送った。逆から見れば送られたとも見えるがその時、彼女の部屋に飾ってあった青や紫の花がとても綺麗だったのを覚えてる。

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