イメージで世界は変えられるか? -1-
出来立てほやほやの物語です。
本編スタートです。
想士は中学2年生になったばかりだ。クラス替え発表も終わり今日は早く帰れる。
ホームルームが終わってすぐに教室には人がいなくなった。ちょうど読んでいた小説に一区切りがついたため周りをみたら、あらら、僕一人だ。
(僕も帰ろかな・・・)
想士は普通の男の子だ。勉強は運動よりも少し得意。好きな科目は国語。部活には入っていないし、いじめられてもいない。友達もいる。
ただ少し、自分にも他人にもあまり興味がなく、人の顔と名前が覚えずらいと思っている。
(物語の登場人物ならだったらすぐに覚えられるのに・・・)
歩いて15分・・・想士の家。ではなく、想士の叔母の家。厳密に言えばお祖父さんの家を叔母が相続したものだ。
「ただいま。」
言っても帰ってくる返事はない。叔母さんの家は両方とも働いている。だから帰ってくるのは夜遅くだ。4年も同じ生活をしている想士には慣れっこだった。
(今日も離れで本読もっと。)
叔母の家には離れほど立派ではないが物置のような、倉庫のような離れがあった。母屋に置いていない家具や使わなくなったもの、お祖父さんのものも置かれている。2階建てでかび臭いが少し秘密基地のような場所だ。そして、この家で一番落ち着ける場所である。
僕には両親がいた。4年前には・・・
その時の僕は体中に痣がひどかった。親に虐待をされていた。4年前のあの日、殴られたところが悪く、ろっ骨を骨折し、死に物狂いで外に助けを求めた。その時から僕には両親はいなくなった。それまでは殴られようが蹴られようが彼らが母であり、父であった。今思えばあの人たちは情緒不安定だったんだろう。僕のことを抱きしめ、その数時間後に良くないことが起きて殴られる。
小学校の先生は度々気にかけてくれていたが僕は認めなかった。単純に恥ずかしかったこと、何よりも認めてしまえばほんの少しの両親の愛情さえ受けられなくなってしまうことが嫌だっだから。
僕が助けを求めたあの日以来両親には会うことも話すこともしていない。本来であれば保護されて他の里親のところに預けられたりするはずだが、入院している病院にお祖父さんが来てお見舞いに本を置いて行った。前から本は好きだったがお祖父さんの置いて行った本がとても面白くて、それからお祖父さんとよく話すようになった。本の中身は今でも覚えてる。いろんな神様と英雄が出てくるきらびやかな物語。血なまぐさくて、泥臭くて、理不尽な物語。お祖父さんも本が好き倉庫にまだまだたくさんあるって言っていた。だからお祖父さんについて行ったのかもしれない。すがるものもなく、先に光が見えていない僕は物語に逃げたのかもしれない。
お祖父さんと暮らすようになって2年目の春にお祖父さんは亡くなった。家と物を全て僕にあげると言って・・・。それから僕一人では生活できないからといい、叔母さんが面倒を見てくれるようになった。結婚しているが子どもができなかったこともあり僕のことをよくしてくれる良い人だ。けど、叔母さんなんだ。僕の親じゃない。そのことだけがこの家で感じるほんの少しの居心地の悪さ。
離れの2階の扉を開けると古い紙の匂いが漂った。少しかび臭い。本に湿度は良くないがどうしようもない。少し空気が悪かったので窓を開け、いつものハンモックに寝っころがり読みかけの小説を開く。英雄がドラゴンを打倒し、凱旋してお姫様と末永く幸せ・・・。
本を読みながらまどろんでいく。
(あぁ、そういえばまだご飯食べてなかった・・・)
~次回予告~
現実と夢の境目、うつつのあの子は誰なのか。
目覚めているのかまだ夢なのか。
そして僕はこう思う。
お腹がすいた。
次回、イメージで世界は変えられるか? -2-
よろしくお願いします。