勘違う人々
拙作「すれ違わない二人」の続編です。前作を読まないとよく分からないかもしれません。
酷く静かな空間。
その場にいるのは、微塵も笑っていない瞳で冷笑を浮かべる女と、氷のような無表情を崩さない男、そして、彼らを固唾を飲んで見守る使用人達。
一目で貴族の住まう屋敷とわかる華やかな一室に、関係のない第三者でさえ呼吸を控えてしまいそうな程、息苦しい沈黙が落ちる。
それをはじめに破ったのは、変わらず硬い無表情で女を見つめていた男だった。
「……素晴らしい!」
場違いな上に表情にも合わない明るい声が発される。その声に滲むのは、紛れもなく歓喜。
新しく侍女としてこの屋敷に仕えることになったリンシャは、男の突然の言葉に肩を揺らしてしまう。本来使用人には冷静さが求められるが、この時のリンシャを咎めようと思う者はこの屋敷にはいない。
「カレン……見事だよ。実に素晴らしい表情だ」
そう言って、男……イグリルは、眉一つ動かさないまま、未だ冷笑を絶やさないカレンと呼んだ女の頰を撫でる。
リンシャは内心、イグリルは特殊な嗜好を持っているのではないかとつい疑ってしまったが、もしこれをうっかり口に出したとしても、やはり咎める者はいないだろう。
カレンが冷笑を深めた。
当然だ。イグリルの反応はあまりにも場にそぐわない。あわや修羅場の展開か、とリンシャは首をすくめた。
「イグリル様……!私、やりましたわ!」
予想に反して、リンシャの耳に入ったのは華やいだ柔らかい声だった。知らず瞑っていた目を開ける。二人の表情は変わらず、冷え冷えとしている。閉じる。
「今日は記念すべき日だ、お祝いをしよう。長年の悩みが、これで全て解決するだろう!」
「本当ですわね。私に出来たのだから、イグリル様に出来ない理由がありませんわ!」
「思えば、辛く厳しい道のりだった……」
「痛んだ頰が、なんだか今は愛おしく感じますわ」
はしゃいだ声で交わされる会話。目を開ける。どこをどう見ても修羅場。
リンシャは何度も自分の目をこすり耳を引っ張って声を拾ったが、余計に目と耳を混乱させるだけに終わった。
混乱のあまり少し涙目になって、リンシャは隣にいる指導係をしてくれているベーレへ視線を逃す。なんと、ベーレも目に涙を浮かべていた。リンシャは仲間を見つけたような心地がしたが、次のベーレの呟きに直ぐにその考えの間違いに気づく。
「……お嬢様……よく頑張りましたね……」
見ると、そのさらに隣に立つ従者スルタも、涙は浮かべないまでも、清々しく微笑ましそうな表情で主人達を見守っている。
他の使用人も似たようなもので、リンシャはだんだん自分の感覚が信じられなくなってきた。
青ざめて震えるリンシャの様子がおかしいことに気づいたのか、ベーレが目元をぬぐいながら尋ねる。
「あら?リンシャ、どうしました。どこか具合でも悪いのですか?」
気遣うような瞳に、優しい声。良かった。合ってる。リンシャは自分の感覚を取り戻した気分になった。ベーレが心配そうにこちらを見るので、リンシャは小さな声で自分の混乱を漏らす。
「……あの、私、どうしてもお二人が仲違いなさっているように見えてしまうんです。でも、お声はとても穏やかで……皆さんにはどう見えているのですか?私、目がおかしくなってしまったのでしょうか。それとも、耳が?」
リンシャの言葉に、ベーレは愕然とした顔になる。
そして、そろ、と二人に目を移す。リンシャを見る。また二人を。
「私としたことが……すっかりお二人に染められている…………!?」
ベーレが眩暈を起こしたようにふらりとするのを、スルタが支えた。その顔には苦笑が浮かんでいる。
「矯正するつもりがいつの間にか矯正させられてたみたいだな。俺も普通に喜んじゃったけど、よくよく考えて、あんな顔で社交したら無表情より余計に敵を作りそうだ」
何を言っているのか分からず、おろおろするリンシャにスルタが説明する。
「君は新しくこの屋敷に仕えることになった子だったな。三日目だっけ……今日まで主が仕事で帰ってこれなかったし、二人が会話する所を見たことが無かったんだ、そりゃ無理もない。
あのね、あの二人……超がつくほど表情筋が固いんだ」
「……え?」
「その分性格は真面目で正直。愛の言葉とか平気で言い合うからすれ違いとかはないんだけど……見てる方からすると、全く表情動かないのにいちゃついているという光景に脳が追いつかなくて大抵混乱する。そんで、これは社交に差し障るってんでベーレさんが二人の表情筋を鍛えてたんだ。特に笑顔を練習させて。……その結果が、あれ」
スルタは目線でカレンを示す。カレンは冷ややかとしか言いようがない笑顔をイグリルに向けている。
「うう……っ、私の力不足で、お嬢様に柔らかい笑顔を与えられなかった……!」
「まぁまぁベーレさん。無表情からしたらかなりの進歩だよ。大分表情筋もほぐれてきているだろうし、続ければ自然な笑顔が出来るって」
嘆くベーレと慰めるスルタを見ているうちに、やがてリンシャは悟った。
(……この屋敷、変)
変と認定された人々は、それを知れば皆、納得がいかないと首を傾げるだろう。
兎にも角にも、一見修羅場に見える平和な1日が、今日も穏やかに過ぎて行くのだった。
―――
「カルーラ様の、お誕生日?」
カレンは自分の表情が固くなるのを感じた。固くなるも何も元からこれ以上ないぐらい固いのだが、どう感じるかは本人の自由である。
「ああ。……気になるかも知れないが、カルーラとは遠いとはいえ親戚だ。祝わないわけにはいかないし、生憎兄が熱を出しているんだ。私が行かねばならなくなった」
淡々と告げるその言葉に、申し訳なさと気遣いが滲んでいるのをカレンはしっかり感じ取った。相変わらず、二人は以心伝心でもしているのかと思うほどお互いの感情に敏感である。
二人の間の空気が不安定になったのには理由がある。誕生日だというカルーラはイグリルにとって遠い親戚であり……長く想いを寄せてきた相手でもあるのだ。
カルーラには夫があるためイグリルはその想いを押し殺していたが、カレンとの婚約話が上がった際、こんな中途半端な気持ではカレンに失礼だと全てを正直に話した。それを聞いたカレンはもとよりイグリルに抱いていた恋心を告白し、自分に機会を与えて欲しいと伝えた。やがてイグリルもカレンに惹かれるようになり、見ている使用人たちの頭が混乱しそうな程仲睦まじい現在があるのである。
今のイグリルにカルーラへの未練は全くないが、それでもカレンが不安に思うのは当然である。イグリルは今更ながらカレンを無闇に不安にさせるくらいならば淡い想いなど隠し通していれば良かったと後悔する。
暫く考えるように瞳を伏せていたカレンは、やがて決意するようにイグリルの瞳を見た。
「……イグリル様。私も連れて行ってください」
イグリルは数度瞬いて、理由を問うようにカレンに視線を流す。
「勿論、私はイグリル様を信じておりますから、カルーラ様に既に気持ちが無いと言ってくださった以上、それは真実なのだろうと思います。……けれど、どうしても、不安に思ってしまうのです。イグリル様が思いを寄せていらしたのですから、きっと、とても素敵な方でしょうから」
「カレン……」
イグリルは何も言えなかった。もう気持ちはないとはいえ、カルーラに人間として好感を持っていることは否定できないからだ。否定してしまえば嘘になる。嘘が苦手なイグリルだが、なによりカレンにだけは嘘を吐きたくはなかった。
カレンはそんなイグリルの気持ちが分かるかのように、柔らかく微笑んだ。実際のところ数ミリにも満たない僅か過ぎる変化だったが、無理に笑顔(※冷笑)を作らずとも、イグリルにはしっかりとその笑顔が伝わった。その笑みの美しさ、柔らかさに息を呑む。
「ですから、我儘を言わせてください。不安になってイグリル様を疑うのは嫌なのです。直接会って、私自身がカルーラ様を尊敬出来たり、イグリル様の親戚の方として仲良くなれたら嫌な気持ちもなくなると思うのです。……それが出来なくても、せめて、イグリル様の傍にいて気を引けるように頑張りたいです」
困ったように笑う(イグリルにはそう見える)カレンを、イグリルはとても愛おしく思った。カレンが我儘だというその提案には、イグリルやカルーラを悪く思いたくないと、それでもイグリルを想うがゆえに不安になってしまうという葛藤が見て取れる。これだけ想われて嬉しくないはずがない。
「ああ。一緒に行こう。私も君の不安が取り除けるように努力しよう」
「……あの、もう一つ我儘、良いですか」
「どうした?」
「行く前にちょっとだけ、ぎゅっとしてもらえませんか?」
常にない妻の可愛らしいお願いに、イグリルは喜んで応えた。
―――
誕生を祝う会というものは、大抵盛大に執り行われる。
例のごとく仰々しい会に、主役であるカルーラはうんざりしていた。勿論、その規模で家や自分の価値を測られるために、小規模にしてしまえば軽く見られてしまうことは分かっている。理解しているからこそ表向きは堂々と微笑を絶やさず振舞っているが、元来無駄を嫌うカルーラには会にかかる金額や本心を隠しつつ表面だけで祝い事を述べる貴族たちが無駄にまみれている気がしてならなかった。隠すにしても、どうせなら信用を得るために完璧にするべきだ。中途半端に「取り繕っている感」を滲ませるその行為に、果たして意味はあるのか。
内心の苛々を殆どその主義を守るためだけに綺麗に押し隠し、この時間を無駄にしないように情報を集めつつ挨拶に回る。
ふと、その中にイグリルの姿を見つけた。張っていた緊張の糸が、ほんの少し緩む。イグリルは遠い親戚ではあるが、過去に親同士が協力して仕事していたことがあり、小さい頃から一緒に遊ぶことが多かった。その表情が少ないために誤解されやすいが、素直で嘘の吐けない優しい性格である。殺伐とした貴族社会の中で、その存在は貴重な癒しであった。カルーラはそんな彼を弟のように大切に思っている。
最近ついに結婚したと聞いた。親同士がまとめた縁談ということだが、カルーラは心配していた。優しいけれど、そのあまりにも動かない無表情と正直すぎる性格は時に悪い方向に転がっていく。そういえば、と気付く。確かイグリルは婚約者と共に来ると言っていなかったか。
───確かめてみなければ。
お節介だとは思いつつ、カルーラは半ば姉のような気分で婚約者を見定めようと決めた。
「大丈夫か、カレン」
「ええ、大丈夫よ」
二人はとても目立っていた。あからさまに無表情で形ばかりの心配をするイグリルと、そんなイグリルの態度を冷ややかに笑うカレン。どう見ても仮面夫婦である。周囲の貴族たちはそんな取り繕おうとしない夫婦をハラハラしつつも野次馬気分で眺めていた。
ちなみに、今更言うまでもないことであるが、イグリルとカレンの夫婦仲は今この時もお互いしか見えていない程に順調である。
「普段あまりこういう場に出ないからな。無理はするな」
無表情で告げる言葉は、普段から役目を果たしていなかったために気分を悪くする妻への皮肉にもとれる。二人の仲の悪さを感じ取った周囲はピリッと緊張の糸を張る。
因みに、カレンが社交に出ないのは彼女が社交が苦手でイグリルの迷惑にならないように辞退していることと、イグリルのあまり彼女を他の目に晒したくないという密かな独占欲のためである。社交に関してはイグリルも似たようなものだが、交渉においてイグリルのポーカーフェイスが役に立っていること、女同士の情報交換にカレンの硬い表情が足を引っ張っていることが差を作っているようだ。
「ええ、イグリル様の邪魔にならないよう気を付けます」
冷ややかに唇の端だけ吊り上げるその表情は、皮肉げながらとても美しい。当てつけのようなその言葉を発するひんやりとした声も、逆に人を惹きつける。その美しさに魅了された様子もなく、かといって鋭い言葉に傷ついた様子もない夫もまた、彫像のように冷たく鋭い美しさを保っている。二人の姿は一幅の絵のようで、見た目は似合いの二人なのに、と残念に思う者もいた。
そんな周囲の評価などつゆ知らず、二人はお互いを気遣い合う。
「邪魔に思うわけがない。それより、気分が悪くなればすぐに言うんだ。倒れられたら堪らない」
「あら、それほどか弱くはないのですよ?妻なのですから、夫を一人になんてしません」
「しかし……」
「信頼してくださらないのですか?」
「……全く君は……」
冗談交じりの会話も、くすくすと笑い合っていれば違ったのであろうが、無表情と笑っていない笑顔では皮肉の応酬にしか聞こえない。
今回は妻が勝ったようだ、と勝手に緊張していた周囲は勝手に一息つく。今の会話のために、体面を気にするイグリルと夫の浮気を疑うカレンというイメージが出来てしまったが、本人たちは全く気が付いていない。ここにベーレが居たのならば「だからせめてお嬢様は笑うのを控えてくださいと言ったじゃないですか!」と叫ぶだろうが、残念なことに侍女や従者は別室待機なのである。ストッパー不在の弊害は思っていた以上に大きい。
この会話で、無表情さと堅物な性格という評判からイグリルを敬遠していた令嬢たちの目の色が変わった。夫婦仲は良くない。しかも、妻に一人にしておけないと嫌味を言われる位には遊んでいるようだ。さらに、正義感と下心を混ぜ持った令息たちは夫に心から心配されないカレンを助け出さねばと義憤にかられ、特殊な嗜好を持つ令息たちはその冷ややかな笑顔に魅了された。
どこか享楽的な思想を持つ一部の令嬢たちにイグリルが、下心のある令息たちにカレンが目をつけられたとは知らず、のんきな二人はのんきに用意された飲み物を楽しんでいる。
そこに、この会の主役が現れた。
「カルーラ」
「いらっしゃい、イグリル。今日は来てくれてありがとう」
相変わらず無表情なイグリルに、カルーラは親しげに話しかけた。そして、その隣に視線を移す。
「ご機嫌よう。私は、少し遠いけれど彼の親戚にあたるカルーラ・ウィンディアよ。貴方が彼のお相手ね?」
「……ご機嫌よろしゅうございます、カルーラ様。カレン・デトラと申します。本日はお招きくださってありがとうございます。素晴らしい会ですわね」
カレンがなるべく丁寧に、と努めて返した挨拶は、口元に浮かべた冷笑がぶち壊した。カルーラは内心でひきつった顔を、何とか表に出さずに済んだ。
「会うのは初めてだったな。カレン、カルーラとは幼馴染のようなものなんだ。こう見えて、かなり気が強い。泣かされないように気をつけろ」
「まあ、イグリル様ったら」
まるで「私がこの程度の女に泣かされるとでも?」というような冷笑に、カルーラは少々カチンとくる。
「……イグリル?私が気が強いのではなくて、イグリルが泣き虫だったんじゃないの」
「お、おいカルーラ」
「カレン様、気を付けてくださいね、クールなのは見かけ倒し。中身は単なるお子様ですから」
カルーラはイグリルをからかいながらカレンの反応を見る。イグリルの中身にきちんと気付いているか、カルーラとイグリルの仲の良さにどう思うか。きちんとイグリルを想っているのであれば、冷静ではいられないはずだ。
「イグリルは昔から不器用でね、好きな子がいるらしいのにちっとも誰だか話してくれなくて、結局その子に用意したプレゼントを私に渡しちゃったのよ」
「カレン!」
気付くと、カレンの顔から冷笑が消えていた。
「カレン、大丈夫だ。……君が心を痛めることじゃない。過去の話だ。俺にはもう君しかいない」
イグリルの必死な姿に、カルーラは少なからず驚く。カレンの顔から笑みは消えていたが、その表情に感情は見つけられない。それを、イグリルだけは彼女の気持ちが分かっているようだった。
「……イグリル、さま。……伝わらなかったんですか?」
「……伝えなかったんだ。伝えようとも思っていなかった。そこまでの想いでもなかったんだろう」
「そんな……」
カレンが首を振る。その手がイグリルの顔に触れる。意外なほど優しい仕草だった。
カルーラは、何故か胸が痛くなった。彼らの話は何一つわからなかったのに、変わらずその表情に浮かぶ感情は見えなかったのに、自分の無神経さが彼らを傷つけた気がしてならなかった。
「あ……」
何を言うべきかわからないカルーラに、イグリルとカレンが視線を向ける。
「カルーラ、あまり俺を虐めないでくれ。カレンが心配する」
「すみません、急に取り乱してしまって。お二人の仲の良さに、少し嫉妬してしまったみたいです」
そう言って浮かべた冷笑。
カルーラは唐突に理解した。二人の想い合う気持ち、この冷笑の本当の意味……そして今、カルーラが二人にかばわれたこと。カルーラが無神経に二人を傷つけたという事実を、カルーラが知らないままでいるように、優しく隠された。
無知は、罪だ。
それでもカルーラには、二人が何に傷ついて、何を隠しているのかわからない。
「……カレン様。イグリルをよろしくお願いします。イグリル、カレン様を泣かせないようにしなさいよ」
カルーラは冗談っぽく笑って罪悪感を隠した。理由もわからずする謝罪に意味はない。せめて二人の気遣いに応えようと、そう思った。
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「そろそろ帰ろうか」
イグリルの言葉に、カレンは頷く。想い人に全く気持ちが伝わらなかった彼は、どれ程傷ついていたのだろうか。カレンに推し量ることは出来ない。それでもカルーラを恨む気持ちはなかった。カルーラに悪意がないことは分かったし、あの時、何となく気付いたのではないかと思う。それに、カルーラがイグリルの想いに気付かなかったからこそ、今こうしてカレンと共に居られる。自分勝手だと思いつつ、カレンは安堵していた。
「カレン」
振り向くと、イグリルの顔が思いのほか近くにあった。真摯な瞳に胸が高鳴る。
「今日は、色々我慢をさせた。すまない……そして、ありがとう、カルーラを気遣ってくれて」
「いいえ。……もう、良いのですか?」
「ああ。正直、今は全く傷ついていない。むしろ、君にはがっかりされるかもしれないが……喜んでいる」
「喜ぶ?」
「君が俺のために怒って、胸を痛めてくれたことが、存外嬉しいんだ。……不謹慎だろうか」
冗談めかすその顔は、傍目には無表情だが、カレンには本当に嬉しく思う気持ちが見えて、胸がいっぱいになる。
「イグリル様が喜んでくださるなら、私、いくらでも怒るし悲しみます!」
「そうか……まあ、一番は君が楽しそうにしていることだからな。怒ったり悲しんだりはなるべく少ない方が良い」
そう言ってイグリルは微かに唇の端を上げた。カレンはとても幸せそうにしている。
イグリルは、その頬に軽く口づけた。
「!」
瞬く間に真っ赤になったカレンを満足そうに眺め、イグリルはカレンを出口へと促した。
―――今、何が起こったのだろうか。
紛れもなくいちゃついている二人を、人々は混乱しながら見送ったのだった。
鈍感は時に人を傷つけます。
この二人の場合、仕方ない部分が大きいのですが。